私は一体何モノ?
20160221 スキル関連を修正
定時調査報告。
”黒い流星”が確認されてから3週間経過。調査の結果落下地点は魔境と判明。
魔境周辺の魔物の活性化を確認。魔境への上陸調査不可。
最前の都市および村に被害なし。調査続行を希望する。
王都直属魔術調査団報告書
* * * * *
私が異世界に来てから20日が過ぎた。相も変わらずサバイバル生活を満喫している。
外が明るくなったら起きて準備運動と筋トレ。毎日欠かさずやっている事の一つだ。
なぜ筋トレかって?理由は、この魔境が私が思っていたよりもぶっ飛んでいたからだ。
この洞穴付近は比較的安全。川には魚が居るし、たまに鳥っぽい小動物を見かけるから一応ここだけでも食糧にはありつける。ただし量が確保できない。この魔境に冬があるかどうかしらないけど、保存用の食糧は欲しい。
ある程度数を手に入れるにはもっと広い範囲を調べる必要がある。けど、それは危険な魔物に出会う可能性を高める。いや、ほぼ確実に出会ってしまう。
どうやら私は他の魔獣にはとても美味しそうに見えるらしい。少し前に出会った蜥蜴みたいな奴は、食べかけの獲物ほったらかしで私に襲い掛かってきた。こっちからは何もちょっかい掛けてないのに。幸いここまで引き返すことに成功したけど、結局食糧は得られなかった。
そんなわけでまずは自分を鍛えることにした。
柔軟から腕立て腹筋スクワットと基本的なトレーニングをしていく。トレーニング方法なんて学校の保健体育ぐらいでしか勉強しなかったから、たぶん効率がいいとは言えない。けどやらないよりはマシだと信じよう。
それが終わったら今度は武器の練習だ。貯め込んであった武器の中から軽い物を選んで振っていく。
使っていて最もしっくり来たのは片手剣とメイスだった。と言っても何となくそんな気がするだけ。剣はヒュッっと音が出るくらいでしか振れない。メイスに関しては力いっぱい振ればいいだけなので楽だった。ただ、自由自在に操れるわけではないから実践には程遠い。
「そうなると、やっぱりコレになるよね」
持っていたメイスを地面に放っておく。両手の開いた私は手ごろな木へと向かっていった。
目の前には背丈10メートル程の太い木。気に向かって半身に構えた私はゆっくりと腰を落とす。私は格闘術を習っていたわけではない。ただ何となくこんな感じだったよね?と構えを真似ているだけだ。
ゆっくり息を吐く。そして右腕を引き絞る。足、腰、胴体、腕と順番に力を込めて、真っすぐ拳を打ち込む。
ベキャァッ!!
木の繊維が砕ける音。閉じていた目を開けて打ち込んだ拳を見れば、手首まで木に埋まっていた。
「人間辞めてるよねこの腕力…私一応女の子…」
こんなゴリラも真っ青で逃げ出すような女子が居て堪るか!これが筋トレの成果だと?筋トレってもしかして最強?なんて馬鹿なことを考えたくなる。
現実逃避はこの辺にしておこう。きっとこの世界の人間はこのくらい強くなれるんだ。きっとそう。しかも私の身体は神様が造ってくれた特製品だ。少しばかり強くたっておかしくない。
埋まった拳を引っこ抜く。傷は見当たらない、いつもの白い肌だ。
朝の鍛練を終えた私は川に向かう。顔を洗って朝ごはんにしよう。
流された時とは打って変わって流れは穏やかだった。水も透き通っていて綺麗。このまま飲んでも平気なようだった。
屈んで水面をのぞき込む。そこに居るのは紛れもない私自身だ。そう、そのはずだ。
癖の無い真っすぐに伸びた黒髪。鋭い三白眼。日本人にしては白い肌。怪力の持ち主には決して見えない細めの身体。胸はそこそこ。日本に居た頃と全く変わらない容姿だ。
けど、だからこそ思ってしまう。
「…私は、人間の形をしたナニかなのかな」
この世界の人間を私はまだ知らない。この世界の人間の強さを私はまだ知らない。だから私は地球と比べてしまう。サバイバルしながらも割と楽しく、強く生きている今の私と。目の前で起きる悲しい出来事に立ち向かえなかった、昔の弱い私と。
そうだ。あの時はどうしようもなく弱かった。守れなかった。救えなかった。幸せに出来なかった。幸せになれなかった。
だけど、今はどう?
私は弱い?弱いままでいいの?また失うの?ずっと幸せになれなくていいの?
否。絶対に否だ。
スッと立ち上がる。不敵な笑みを作りながら。
どうやったって昔は消せない。消えない。だから、私は前を見なきゃ。後悔?そんなものはない。あるのは悲しみだけだ。もう、受け入れたんだ。
だから、後ろは見ない。過去は背負った。いつだって好きな時に、前に進みながら見れる。置き忘れた物は無い。
あの程度を受け入れることが出来たんだ。今だって、きっと受け入れることが出来る。落ち込むなんて私らしくないじゃないか。
「すぅ~…っよし!!」
難しい事を考えるのはやめだ。昔も今も私は私、それでいいじゃないか。
気合を入れ直す。不安も恐怖もまだ存在する。けど、それ以上に楽しんでみよう。だって異世界だもの。
とりあえずの目標は強くなる事!並行して生活を豊かにすること!ついでに魔法も使いこなす事!さらに魔境の探索だ!それとこの世界の言葉もどうにかして覚えないとね!
…あれ、思ったよりやること多いぞ?しかもどれもこれも一筋縄じゃいかなさそう。
………前途多難とはこのことか。
折角上げたテンションも、切実な現実を見て結局落ち込むのであった。
* * * * *
今まで生活していて判明したことが沢山ある。
まずは時間。どうやら地球と大差無いようだった。一日二十四時間。正確に測るものは無いから、完全に勘と体感だけどね。
物理法則は問題なく存在するみたいだ。だって私落ちて来たし。軽いものは軽いし、重いものは重い。べつに私が重いってわけじゃないよ!空気抵抗もちゃんとある。その辺の法則を無視、もしくは上書きするのに魔法を使うのかな?と勝手ながら判断。正直、これは神様じゃないとしっかり説明できないと思う。
洞穴にあった金銀財宝とその他もろもろ。整理しようと片付けたら最初よりも色々見つかった。
大きい所から言うと支援物資?の箱。金貨の山に埋もれていた。開けてみたら大量の保存食や塩なんかの調味料。調理器具や工具(ドリルなんかの機械類は一切無かった)。毛布や簡易テント。羊皮紙とインクに羽ペンなんかもあった。
紋章のような焼き印が箱に押されていたから軍事物資だったのかもしれない。それが3箱あった。竜がせっせとここまで運んだのか、それとも元からここにあったのかは謎だ。少なくとも人間が魔境へ訪れた事があるのは分かった。ただし、地図が無いのが悔やまれる。
旅人が持ってそうな大きな背負い鞄からは、量が違うだけで箱の中身と似たような物ばかりだったから割愛。あ、砥石なんかの整備道具があったのは嬉しかった。使わない物でも手入れはしっかりしておきたい性格なんでね。
そして発見。それは透明な球体。占いなんかで使う水晶玉を想像すればいいかな。大きさは人の頭くらい。他の宝石と雰囲気が違ったから気になっていた。多分魔力を流せば反応する類の石だと思う。今日はその実験だ。
水晶に手を置いて魔力を込める。すると水晶が真っ黒に染まっていく。咄嗟に手を放しそうになったけど、特にそれ以外の変化は見られなかったから続行。しばらくして水晶の上空に文字が浮かんできた。
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名前:アキナ・クロセ 種族:不明
魔力:A 魔質:純黒
スキル:鑑定Ⅰ
称号:邪神の愛し子
歪な魂
サバイバー
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ステータス画面キターーーー!!
って喜んでも居られない。ナンダコレ。
まず種族。はい、人間じゃありませんでした。覚悟完了しておいて正解だったよ。でも不明ってどういう事?
次に魔力と魔質。うん、基準が分からないから保留。Aってことは高いはず。魔力高いせいで私死んでるしね。
そしてスキル。鑑定…だと…?異世界転生の必需品ではないか!本で読んだことあるぞ!試しに水晶に向けて「鑑定」と念じてみた。
【鑑定石】
やったぜ。けど説明は無いのね。横にランクみたいなのが付いてるし熟練度が必要なのかな。
そういえば毒耐性なんかのスキルは見当たらないね。この前毒キノコ食べちゃって大変だったんだけど。これはあれか、免疫力とかそういうのは身体的な問題だからスキルとは別物って事か。
んで称号だ。一目見て分かったよ。これはアカンって。
いやいやいや。邪神の愛し子って。なに、私に魔王になれと?世界を滅ぼせと?字面だけ見たら世界の敵なんですがそれは。
歪な魂もよく分からない。邪神様に魂いじられたか?それともおかしな転生方法をしたせい?
最後のサバイバーはね、うん。読んで字のごとくだね。今の私自身だね。
それと、ステータス画面は日本語表記だ。異世界語は日本語だった?いや、そんな都合が良い話はないよね。使い手によって言語が変わるのかもしれない。
んー…なんか危ないな私。何がって存在が。これ他の人間に知られたら騒がれないかな。ステータスを見られるような状況が無ければいいけど。…あるんだろうなぁ。
自分自身を知るのは大事な事だ。けど知ったからって状況が良くなるとは限らないよね。
さて、どうしたものか…。