私と神々と異世界の関係
20160221 スキル説明を修正
話をしよう。それは、私がその短い人生を終わらせた直後の話だ。
私は目の前が真っ暗になった後、ふわふわとした浮遊感に見舞われていたつ
何も見えない。何も聞こえない。なのに一度消えたはずの感覚が薄っすらと戻ってくるのを感じていたのだ。
(あれ…私どうなった?死んだ…んだよね。じゃあこの感覚は所謂魂とかそういう状態?)
割と冷静に現状を考察しつつ、馴染みのない感覚に戸惑っていると。
「———よ」
ふと、何かが聞こえた気がした。
おや?と思い無い首を捻って無い耳を澄ましてみると。
「———目覚めよ」
声だ。それも随分と年老いた男の声。
誰?もしかして神様!?なんて思っていると。
「目覚めよ…て、おい。誰じゃ、魂のまんま呼び込んだ奴は。目が無いんじゃ覚めるも糞もないではないか」
「あん?…おっといけねぇ。張り切り過ぎて忘れてたぜ」
あれ。なんか口悪いぞ。しかももう一人居る?
などと思っていた矢先、目の前で真っ白な光がはじけた。
「うわあぁぁぁ!?目がぁ!目がああああ!!」
突然のフラッシュに両目を両手で塞いで悶絶する私。ごろごろ床を転げ回った。
「あ、悪い。真っ暗闇からいきな明るい所に出たらそうなるわな」
全く悪びれて無さそうな謝罪を受け取りました。おのれ神様。
「ぐう…!な、何が?」
何が起こった?そう、今大事なのは私の身に何が起きているのかだ。
突然の光に頭がくらくらしつつも、なんとか現状を認識しようと痛みが引いてきた目を開ける。
そこは、一言で表すなら”庭”であった。
地面には青々とした芝生が一面に敷かれ、離れた場所には花壇のような物があり見た事も無い形をした花が植えられている。
顔を動かし辺りを見渡せば、その芝生は半径10メートル程の円形をしていた。
円の中心には真っ白なテーブルが置かれており、豪奢な装飾がされていた。その材質は硬質な物だとしか素人目には判断できない。
そしてテーブルに合わせたような椅子が五脚。テーブルを囲むように等間隔で並べられていた。
実にシンプルで素晴らしい庭だと言えるだろう。
だが、その時の私は開いた口が塞がらなかった。
なぜなら、そこはどう考えても常識とは思えない空間だったからだ。
目の前に広がるのは空。爽快感溢れる綺麗な青だ。所々流れている雲がとても近く感じる。
その空は、円形をした庭の端から既に存在しどこまでも続いているように思えた。
「………浮いてる?」
「ふむ、意識はしっかりしておるな。これは重畳」
はっと声がした方向を振り向けば、そこには四人の男女が立っていた。
左端には、紫色の生地に金の刺繍がされたローブを纏った老人。長く豊かな白髭を蓄えていて、その顔は年相応のように皺が目立つが、眼だけは恐ろしく鋭く爛々と輝いているように見えた。
中央左には、真っ赤なドレスに身を包んだ絶世の美女。肌は白磁のように白く、髪は金色に輝きさらさらと静かに風になびいていた。身長は私より少し小さいくらいだが、胸は断然大きい。
中央左には、スーツのような黒い礼服を着こなす細身で長身の男性。焦げ茶色の髪をオールバックにしたイケメンだ。
そして右端には、昔の貴族のような衣装を着た男性。他の三人とは違った豪華さを感じるが、それでいて落ち着いた雰囲気すら漂わせる。また他の三人が西洋風な顔立ちなのに対し、この人は黒髪黒目と日本人風だ。
流石の私も現実離れしたこの状況に混乱していた。すると。
「おっほん!…では改めて」
白髭の老人が口を開いた。
「———ようこそ。”忘れられた神の庭”へ」
* * * * *
で、話は四人…いや、四柱の神様の話し合いの場面に戻る。
この間に私が聞かされた話は以下の通りだ
・この庭は神様のプライベート空間であり、また外界との干渉を可能(無理やり)にする場所である。この場合の外界とは、私たちの知る世界とは別の世界———魔法が当たり前のように存在する”ランドール”と呼ばれる別次元の世界らしい。
・この四柱はその世界で神様をしていたらしい。なぜ過去形なのか聞いたら、信仰の衰退が原因だそうだ。今では神としての強大な力も無く、ただ神の位に位置するだけの存在となってしまったようだ。
・本来なら私は他のクラスメイト共々、ランドールのとある王国に勇者として召喚されるはずだったのだが、タイミング悪く死亡してしまい肉体から離れた魂だけがこちらに来てしまったらしい。
・不憫に思ったこの4柱の神様がそんな私を拾ってくれたらしいが、そこで誰が私に加護を与えるかという問題が発生し、引かぬ譲らぬの話し合いに発展したのだ。
「話がさっぱり進まんのう…この意地っ張りの若造どもめ」
この白髭おじいちゃんの名前はグルスタフ。意地っ張りさで言うなら貴方も相当だと私は思うのだが、余計な口は挟まないでおく。
「誰が若造ですか!貴方が神になってからほんの300年遅れてやってきただけの私に若造ですって!それを言うなら貴方だって、もう年なんですからさっさと引っ込んで隠居でもしたらいかがと言って差し上げるわ!」
こちらの金髪巨乳のお姉さんの名はレーシェンテ。神様の中では最も感情的な人らしい。さっきから怒ったり悔しがったり表情が忙しい。
「つーかよぉ、コイツをここまで連れて来てあげたのって俺な訳じゃん?しかも他のクソ神共の監視網を潜り抜けてやったのも俺だぜ?どう考えても功労者の俺が加護を与えるべきだろうがよ」
「「おぬし(あなた)が勝手にやっただけだろう(でしょう)が!!」」
二人に突っ込みを受けたこの口の悪いイケメンはその名をガルゼゴと言い、神の中で最も若手でありながらかつ問題児という癖のある存在だと説明された。
「…お茶のおかわりはいかがですか?」
「あ、いただきます」
丁寧にお茶のおかわりを注いでくれた日本人風の神様は名前をミカヅキと言い、他の神様とは違って随分と物静かで親切だ。
ちなみに、今私たちはテーブルを囲みながらどこからか取り出した茶とクッキーで優雅なお茶会をしている。お相手が神様な上に私死んでるけど。
美味しいお茶とお菓子のおかげで大分私の気持ちも落ち着いた。なのでいくつか質問をしようと思う。
「あの、少しよろしいですか?先程伺った勇者召喚とは何でしょうか?」
「む?そうじゃな…ああ、そこまで固くならなくてよいぞ。…ごほん。では説明して進ぜよう。まず勇者とは何かじゃが、これは常人よりも高い魔力とスキル適正、そして何よりも勇者という称号を持った存在の事を言う」
いくつか気になる単語が出てきたが、とりあえずは話を聞くことにした。
「そして召喚とは、神の力を借りて物や生物を呼び出す事を言う。魔力を使う転移魔法とは違い、召喚は神の力とスキルの二つが必要になる。よって現象が似ていてもこの二つは全くの別物じゃ」
なんと転移が可能な世界らしい。やっぱり屋内で使ったら頭をぶつけたりするのだろうか。
「おい爺さん。まずこの世界のシステムについて話しさねぇと、多分ちんぷんかんぷんだと思うぜ」
ナイスだガルゼゴ様。私が気になっていたのは正にそこだ。
魔法、スキル、称号、どれもゲームの世界ではおなじみの言葉。しかしそれが存在する現実とは何か?と考えたとき、私は何かしらの法則、ガルゼゴ様の言ったようなシステムがあるのではと考えた。それと、私の予想が正しければ…。
「ぬ、それもそうじゃな。と言っても、この世界のあり方はそれほど難しくはないのじゃ」
「と、言うと?」
「おぬしもゲームはするじゃろう?おぬしが居た地球に存在する娯楽のうちの一つじゃ。この世界のスキルや称号はそのゲームに影響を受けた大神によって創られたのじゃ」
ちなみに大神とはこの世界で最初の神様の事だそうだ。
「あ、やっぱりそんな感じなんですね」
「なんじゃ、随分あっさりした反応じゃのう」
「似てるなとは思ってましたから。逆にこの世界の魔法、スキルや称号といったものを真似て地球のゲームが出来上がった、という可能性もありましたけど」
「なるほどね。けれど、地球でも魔法はちゃんと現実に存在していたはずよ?」
さらっと意外な事実を暴露したレーシェンテ様。
「え、魔法って使えたの?」
「そうよ。でも適正が必要だし個人差が激しいから魔法って広がりにくいのよね。地球では魔法より先に科学?が発達したらしいし、時代の波に埋もれちゃったのね」
「そういえば、その事で地球の神が随分落ち込んでたなぁ。あの時は「自分の世界の人間ってなんかおかしい!」って嘆いてて大笑いした記憶があるぜ」
科学っておかしかったのか…。いや、考えてみれば魔法の方が便利だし物資も少なくて済むか。せっかく公式があるのに、それを使わずゼロから計算問題を解くようなものだ。計算も科学の一つだが、その辺を深く考えると収集がつかなくなりそうだからやめておこう。
「ああ、そういえばそんなこともありましたね。確か100年ちょっと前でしたか。その後激怒した彼にぶん殴られてましたよね?」
「言うんじゃねぇよ。つーかお前、地球の神と仲良いんだから止めてくれればよかったじゃねぇか」
「自業自得です」
「仲良いの?」
気になったので聞いてみた。
「ええ、何せ私も地球出身ですので。かつて神の起こした事故によって偶然この世界に飛ばされましてね。必死に生きている内に、いつの間にか神になっていました」
「それはまた…随分出世しましたね」
「ふふ、大出世です」
ミカヅキ様っていつの時代の人なんだろうか…。
「うおっほん!…続けるぞ?まずスキルじゃが、これは身体的特徴や魔法とは異なる特別な力を意味する。ありきたりのもので言えば召喚や治癒などじゃな」
「えーと、どう異なるのですか?」
「身体的特徴でいえば、魚は最初から水中で呼吸が可能で鳥は空を飛べるでしょう?人間の身体では不可能でも、そういったものは身体の構造上の問題なだけだからスキルとは言わないわ。魔法は基本何でも出来るから、それ以外の特殊能力がスキルと呼ばれてるの。」
「スキルにも生まれた頃から持っているもの、誰かから与えられたもの、自力で得たものと取得方法は様々だ。この世界では一般人なら持ってなくて普通。かなりの強者でも多くて3つだ。勿論例外はあるがな」
スキルというのは私が思っている以上に特殊で特別な存在みたい。けど自力で得られるのに上限があるのはどうしてだろう。
「次に称号じゃが、これは何かを成した者へ送られる証明のようなものじゃ。例えば、スライムを100匹連続で倒し続けた者へは”スライムハンター”の称号が与えられる。ちなみに称号を得るとちょっとした特典がある場合があってのう。この場合じゃとスライムから畏怖されるようになって襲われる機会が減るのう」
「へぇ!スライムってあのスライムですか?」
「うむ!あのスライムじゃ!なんせこっちの世界が元祖じゃからのう。おぬしの知らぬモンスターもわんさかおるぞ!」
「へ、へぇ…」
魔物の概念はこちらが元らしい。魔物まで地球が元だとか言われたらこの世界の人々に申し訳無さ過ぎる。
いや、問題はそこじゃない。勇者と聞いた時から嫌な予感はしていたが、どうやら魔物がしっかり存在するようだ。そうなると生存競争に勝つためにも今後力が必要になる。
…地球の科学知識役に立つのかしら。不安だ。
冷めないうちにお茶を一口。渋みと甘みが絶妙に調和していてとても美味しく、香りもホッとする優しさがある。少し濁った緑が目に優しい。うん、緑茶だこれ。
「他に聞きたい事はありますか?」
ミカヅキ様がクッキーのお皿を差し出しながら聞いてくる。なぜ緑茶にクッキー。
「あ、はい。その、魔法といったものがよく分からないのですが」
ミカヅキ様が笑顔で頷く。なんだか嬉しそう?
「私も始めは魔法で苦労しました。地球での空想が、この世界では常識である事も多々ありますからね。特に私の生きていた時代と場所では、魔法なんて概念そのものがありませんでしたから。特に形の無い魔法程厄介なものはありませんでした」
やはり魔法は地球人類にとっての鬼門となるらしい。と、思っていたのだが。
「歴史上最強の魔法使いになった挙句、魔法一つで神にまでなった奴が何言ってやがる」
ガルゼゴ様から突っ込みが入りました。まじで?
「仕組みが分かれば造作もありませんでした」
まじなようです。
「魔法とは、体に流れる気のような物…と言っても分かりにくいでしょうね。体に流れている血を連想してみてください。その血を集め、凝縮し、形を整え、撃ちだす。これだけで一つの魔法が出来上がります」
「な、なるほど」
「まあ、これは半分慣れが必要なので努力を続ければなんとかなりますよ。ちなみに、この世界の住人は努力を割愛するために魔法を公式化させた魔法式なるものを使っていますね」
「昔はそんなもの無くてもバンバン魔法を使っていたんじゃがなぁ。戦争や時代の流れによって魔法も衰退してきておるのがなんとも言えんのう」
どの世界でも時間というのは厄介な存在のようだ。
「さて、まだ何か聞きたいことはある?」
と、レーシェンテ様。
「…なぜ、私たちが勇者召喚に選ばれたんですか?」
私が抱く大きな疑問のうちの一つ。ただの人間、それも日本の高校生に一体何を期待するというのだろうか。戦争も殺し合いも話でしか知らない私たちに。
神様たちはすぐに答えてくれると思いきや、皆申し訳なさそうな顔をしていて、どう伝えるべきか考えているようだった。
意外にも、最初に口を開いたのはガルゼゴ様だった。
「あー、お前からしたら気分の悪い話だがよ。これは神の遊びなんだよ」
「ガルゼゴ!」
「爺さんは黙ってろ、コイツには知る資格がある。いや、知らなくちゃいけねぇ」
「遊び…ですか?」
「ああ」
その後、ガルゼゴ様は私の質問に対して、今までの口の悪さは何だったのかと思うほど丁寧に答えてくれた。
曰く、この世界では人間同士による領土争いが激化しつつある。魔物から身を守る手段、スキルを手に入れた頃から人間はその数を徐々に増やしていった。国は次第に巨大化。名もなき村は街に、街は都市へと発展していった。魔物から生き延びる事だけを考えていた人間の暮らしは次第に豊かになり、心に余裕が生まれた。その余裕は欲望に変わり、人間は更なる力と資源を欲するようになった。そして、その対象となったのが他の国々とその土地でった。危険や資源が未知数の未開拓地や魔物の巣窟である魔境へ手を伸ばすよりも、既に開拓済みであり資源も確保されている土地を狙ったのだ。そうして人間の戦いは、生存から欲へと目的が変化しつつある。いや、既に手遅れなのかもしれない。
神々はそんな人間の変化に興味を持った。ある神は争いを嘆き、ある神は進歩だと喜び、ある神は成り行きに好奇心を募らせた。想いは違えど、神々は更なる変化を生み出す方法を探した。だが世界に直接干渉するのは神とて容易ではない。
そこに、大規模な勇者召喚を行う国が現れた。本来ならば長い準備期間と召喚スキル所持者による長時間の詠唱が必要な勇者召喚。だが、その国は魔法の使用によって準備を極めて短期間に終わらせ、複数の召喚スキル所持者による簡略化された詠唱という、無理矢理な方法を用いた。本来ならば準備期間中に神が召喚される者、勇者を選定し、詠唱中に勇者へ力を与える。だが今回の召喚はあまりにも突然で、不安定だった。
無理な召喚は何も生み出さない。それどころか召喚を行った者の命を天罰という名の下で奪う事すらある。だが、この機会を神々が逃す理由は無かった。神々は必死に探した。大規模な召喚には、召喚される勇者もそれなりの人数が必要である。だが突然の召喚だったために性格や適性を一人一人確認する暇はない。ならばと、こういった世界に最も関心があり、かつ適正持ちが比較的多い場所に絞って探そうという判断になった。そこで、日本という国が持ち上がったのだ。
だが異世界という事もあって、全員が他人では不安と緊張により勇者同士で争いが起きやすくなる。そのためにも一定の繋がりがあり、しっかりとした自我を持ち、異世界という状況を嬉々として受け入れる者たちが必要であった。そう、私たちのような高校生だ。
クラスごと召喚する事は決まったが、ここで問題が一つあった。召喚とは、実際には召喚される者の肉体を対価として行われる。正確には肉体に残った魔力をこちらの世界へと繋げることで一種の通路とする。これは神しか知らない事だそうだ。肉体から離れた魂をその通路を使って呼び込み、新たな肉体と力を与えて召喚者の元へ送り出す。この間の記憶は勇者には存在しない。
ここで問題なのは時間が足りない事だ。この短時間で召喚される者を、しかも大人数をそれとなく事故死、もしくは自然死させるのには無理がある。下手をすれば必要以上の人間を巻き込んでの大虐殺になりかねない。だが一度国が召喚に失敗すれば、次の召喚がいつになるかわからない。せめて、それなりの魔力を持った人間が一人でも近くに居れば…。
「……………」
「ここまで言えば、お前も理解できただろう?お前たちは神の遊びに、この世界に利用された。そしてお前はその犠牲となった」
「…本来なら貴女も召喚されるはずだったのよ。けど、あの神たちは生きている者たちの肉体と魂の分離を地球の神と共に強行した。更に勇者への力の付与に新たな肉体の作成。非常に慌てていたのよ」
「…既に通路としての役割しか考えられていなかったおぬしは忘れられ、ガルゼゴに拾われてここにおる」
「ちなみに、死ななかった者たちの肉体は丸ごと彼、地球の神へ供物という名の賄賂として捧げられたようです」
「………そうだったんですね」
神の言葉をそのまま信じるならば、これが真実なのでしょう。これが、私が死んだ原因。
私は一度、大きく深呼吸をする。そして…。
「そっか!!良かった!!」
そう言ったのです。
「「「「…はい?」」」」
「いやぁ、私は最初クラスメイトの誰かに殺されたとばかり思ってたんだけど、そうじゃなくてホント良かった!」
「な、何故だ?」
ガルゼゴ様が困惑気味で尋ねてくる。
「だって、そうなったらその人は私を殺したっていう事実を背負って生きることになるじゃない?それはとてもつらい事だと思う。勿論日本での殺人は悪い事だから庇う気はないよ」
そこで一旦言葉を区切る。
「でも出来る事ならば、私の知ってる人だけでも幸せに生きて欲しい。不幸なのは誰だって嫌だしね」
言葉を続ける。
「別に自分を卑下してる訳じゃないよ。ただ自分の手の届く範囲にある不幸は取り除いて、幸福は守ってあげたいだけ。押し売りだけはしないけどね」
冷めた緑茶を飲む。うん、冷めていても美味しい。
「それに、神様に殺されるなんて滅多にない経験でしょう?結構貴重な事だと思うんだよね。それとクラスメイトたちが気に病む事は何一つ存在しないし。自分たちの召喚のために私が死んだってことは皆知らない訳で、今回に関しては私が関わる不幸は皆していない…といいな」
恐らく彼らなら異世界でも楽しくやっていくだろう。そうじゃないと魔力が大きかった私が居たせいで巻き込まれた不幸な勇者たち、という事になっちゃう。実際そうなんだけどさ。
「…それでいいのかおぬしは」
「うん。それでいいのよ。私も自分の幸福ぐらい手にしたいし」
「!…そうか」
グルスタフ様は何やら察した様子。あまり気にしなくてもいいんだけどね。
「それじゃあ私もそろそろ行ってみたいのだけど、どうでしょう?」
「行くって…この世界にか?」
「勿論!だって魔法だよ!誰だって憧れる物を手できるかもしれないって考えるだけでわくわくするじゃない!」
死んでしまったものは仕方がない。誰だっていつかは死ぬのだ。重要なのは、”私”がまだ終わっていないという事。目の前に新たな世界がある事。
「っぷ、ふふふ!…あっはっはっはっはっは!!!」
突然吹き出したかと思えば大笑いしだしたミカヅキ様。
「あー、いやすまない!ふふ、見事なまでに清々しいと思ってね」
「ふっ…よく言われます」
同じ日本人。繋がる何かがあったようです。
「…あーもう!折角心配してあげていた私たちの気持ちはどうするのよ!」
レーシェンテ様は怒っていました。けど先ほどまでの憂いはすっかり無くなっているようです。
「とんでもねぇな地球の人間の甘さってやつは…平和ボケってレベルじゃねぇぞ?」
「安心してください。この甘さは私特有のものですから。それに、これでもこの緑茶のように甘さも苦さも両方兼ねそろえてるつもりですよ?」
そう言って残った緑茶を飲み干す。
「…でも渋さは足りないかも?」
「…ふん!言ってやがれ!」
そっぽを向かれてしまいました。けど口の端が微妙に上がってるのを私は見逃しませんでしたよ。
「かっはっは!久しぶりに珍しいものが見れたわい!どれここは一つ、皆の加護を与えようではないか!」
「え?それって大丈夫なんですか?」
「問題ない。むしろ現実的にそうでもしないとおぬし生き残れんぞ?」
「…はい?」
今度は私が困惑する番でした。
「おぬしの新たな肉体の準備は済ませてあるが、肝心の転移場所がどうしても定まらなくてな。恐らく高確率で魔境に飛ばされる」
「何故!?」
「おぬしはイレギュラーじゃからのう。それに今の儂らが使える力は少ない。飛ばすことは出来ても、その後は魔力の濃い場所へと誘導されるじゃろう」
「まあそのためにも元はしっかりしとかねぇとな」
「けど、だからって慢心しては駄目よ?この世界は決して優しくない。それに恐ろしい力が腐るほど存在しているから」
「まあ私のように魔力の操り方さえ覚えればどうとでもなりますよ」
「ミカヅキ様。実は結構適当な性格だったりしません?」
「さあ!それでは始めましょうか!」
あ、スルーされた。それどころか話を強引に進めようとしてる。
「うむ。あまり長すぎると他の神に感づかれるからのう」
「そうね。なんだか外の気配が騒がしくなってきたわ」
「っと。それじゃあ始めちまうか」
そういってグルスタフ様をはじめとした四人が私へと手のひらを向ける。
すると突然、頭に言葉が響く。
『我が名は”禁忌と叡智の神”グルスタフ。神の名において、この者に加護を授けん』
『我が名は”狂気と幻惑の神”レーシェンテ。神の名において、この者に加護を授けん』
『我が名は”死と再生の神”ガルゼゴ。神の名において、この者に加護を授けん』
『我が名は”魔と破壊の神”ミカヅキ。神の名において、この者に加護を授けん』
それぞれの言葉が脳内で反響し薄れていく。それにつられるかのように、私の意識もだんだんと暗闇に呑まれていく。
だが最後に一言だけ言わせてほしい。
「全員邪神じゃないか…!!」
そう言って私は笑った。
完全に意識が闇に呑まれる寸前。
彼らも楽しそうに笑っていた気がした。
次回から本編開始予定!