湖
柿白は今日も何もせずに一日を過ごし終えようとしていた。そこに友人の浦田から電話がかかってきた。
「柿白か? 暇か?」
「暇に決まってるだろ? 仕事なにも無いんだぜ?」
「それは良かった。一緒に湖に行かないか?」
「湖? この街に湖なんてあったか?」
「あるさ。お前が知らないだけさ」
「それなら見に行ってもいいぞ。無職だから本当に何もすることがないんだ」
「おれも無職になったから気にするな。いくぞ」
「ああ……」
二人は車で二十分ほどのところにある湖にたどりついた。
「本当にあるんだな。でもこれって湖というよりため池っていうんじゃないのか?」
「どっちでもいいさ。大差なんてないさ。人生と一緒だよ」
「人生と一緒?」
「そうさ。良い人生も悪い人生も大差はないのさ。死ねば一緒。人生に優劣なんてもんをつけるのは良くないことだよ」
「でも良い人生の方がいいよな。もう少しいい人生待ってると思ってたんだけどな俺も。若い頃は」
「みんなそうさ。でもいつか気がつくんだ。幸せになれる人は限られているということに。そしてその席はとても少ないということに」
「学校じゃ教えないよな」
「教えたらクレーム来るだろうに」
「そうだな。でも綺麗だな。釣り客もいるじゃないか」
柿白は遠くを見ながらつぶやいた。
「そうだろ。悪く無いだろ。気分転換くらいにはなるだろ」
「気分転換にはね。現実はなにも変わらないけどな」
「そんなこと言うなよ」
浦田が語気を強めて非難した。
「俺達も釣りでもするか?」
柿白が提案した。
「道具がないだろ」
「買ってくればいい。千円くらいで棹売ってるだろ。餌はその辺の虫を獲ればいい」
「棹も落ちてるんじゃないか? 探してみようぜ」
二人は茂みを歩き始めた。
「無いな」
五分ほど探して柿白が匙を投げた。
「もうすこし探して見ようぜ。どうせ時間は有り余るほどあるんだ。死ぬまで探せば見つかるだろ?」
浦田が提案した。
「それより飯を食いに行こうぜ。もういいよ。夕飯食いに行こうぜ」
「そうだな。夕飯にするか。飯はなににする?」
「うどんでいいんじゃないか?」
「焼肉でも食いにいこうぜ。まだ金はあるだろ?」
「あるけどな……そんなもの食べたい気分じゃないんだ」
柿白が俯きながら言った。
「そうかじゃあうどんにするか」
「ああうどんにしようぜ。優劣なんて腹に入れば関係ないさ」
「そうだよな。俺の言ったことが分かってきたのか」
「少しだけね」
柿白は微小を浮かべて浦田とうどん屋に向かった。