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KICK OFF!!  作者: 時紐
新井川未、引退する
10/114

新井、引退を迎える。

 後半42分、試合はヒートアップし、両チームが果敢に攻撃をし、そしてそれを全力で守る図が繰り返される。

 浦和は、原田・マルシー両FWが怒涛の連続シュートを放つが、それをV東京守備陣が決死の思いで守る。

 逆に、V東京は中盤を落ち着かせながら、冷静にゴールを狙っていた。ドームがドリブルで守備を切り裂き、重波がシュートを撃つ。ルーキー春山もサイド突破や積極的なシュートで浦和ゴールを何度も脅かすが、ドームは次第に日本代表の『カッター』山田鴨介に抑え込まれ、春山も同じ年の野田に苦戦するなど、攻撃は停滞していた。

 しかし、中盤の支配権は9割がV東京のものだといえるだろう。足原が高精度のパス技術でパスを散らせば、世良が理解不能のコースチェンジでパスカットを防ぎ、守備では、新井がカットし続け、浦和の中盤は確実に支配されていた。

 試合は確実に、V東京が支配していた。


 ようやく試合が動いたのが後半ロスタイムの46分。

「くっそ!こんなんじゃ、僕はいつまでたってもルーキーのままだ!」

 右ウィングの春山がついに野田を突破し、大きくクロスをあげる。

 これは大きすぎて、DFにクリアされるがセカンドボールを上がっていた足原が拾う。これを足原は新井へパスする。

「ここだっ!」

 そのパスを世良がコースチェンジし、左サイドのドームにわたる。

『そろそろ結果ださなきゃね、ブラジルにかえされちまうよ!』

 ドームは今日の試合一番の速度で左サイドを駆け上がり、その勢いのままクロスを出した。そのクロスは重波の頭にジャストミートし、大きくバウンドしゴールを襲うが、DF日比野がダイビングヘッドでこれをクリアする。

「くそっ!まだ!」

 セカンドボールを拾うのはまたもV東京。世良がこのボールを胸トラップで綺麗におさめ、そのままミドルでゴールを狙うも、キーパー岸上が飛び込みこれをはじく。

 攻撃はまだ終わらない。はじかれたボールは山津が拾い、クリアするものの不十分。クリアされたボールを新井が拾う。


 新井はすでにスタミナが尽きていた。それを常にマークしていた小田は気づいていた。

(今なら奪えるっ!最後くらい華持たせてもらうぜっ!)

 小田はボールをトラップした新井を前に向かせまいと、正面からチャージをかけにいった。だが、すぐに彼は動けなくなった。新井が全く動かないのだ。

「…スタミナ切れか?好都合だ、ボールはとらせてもらうぜ!」

 小田はこれを好機とみて、ボールを奪いにかかる。しかし、なぜかその一歩が踏み出せなかった。

「……スタミナ?もうそんなもの関係ありませんよ、小田君。」

 また、小田は動けなくなった。しかし、今度は新井が動かないからではない。

「小田君、最後まで僕に勝てない小田君で終わってください。」

 小田の目には、新井がとてつもなく大きく見えた。そればかりか、新井に疲れが見えなくなった。


「これが、僕の最初で最後の『攻撃』です。」


 新井は急に加速した。反射的に小田は身構えたが、それを嘲笑うかのように新井はルーレットで小田をかわす。

 続いて、小田の相棒平野を簡単なフェイントでかわすと、下がってきた美茂・宇賀の二人をドームに視線を送るだけの簡単なフェイントで突破。さらには山津をシザースでかわし、日比野に至っては強引に突破してしまう。

 V東京の選手たちも度肝を抜かれたかのように、誰も動こうとしなかった。何より、新井がフォローを望んでいなかった。新井の目は、普段の温厚な性格からは想像もつかないほどぎらついており、近寄れなかった。

 サポーターや観客も凍りつき、今日引退する選手の独壇場を静かに見守っていた。

「岸上さん、あなたで最後です。」

「っ!…止める!」

 決死の思いで飛び出した最後の壁、岸上を嘲笑うかのように新井はループシュートを放った。

 満員のスタジアムにボールが静かに転がる音だけが響く。


『ご、ゴーーーーーーーーール!!!!ヴィリジス東京!ロスタイムに追加点!だれもが息をのむようなプレーを見せつけたのは、今日をもって引退を迎える新井川未選手!!

 わ、我々は忘れないでしょう!この劇的で、そして圧倒的な1分間を!』


 実況のアナウンサーの声で、スタジアムが大いに沸く。浦和サポーターも驚嘆の悲鳴を放ち、V東京サポーターは喜んだ、ただただ喜んだ。

 そして、今日を最後にもう決して見ることのない、新井川未の最後のプレーに涙を流した。


「やっぱり…俺はあなたのような選手になりますよ、新井さん」

 世良はそうつぶやき、自陣へ戻った。

「…んで、お前は引退するんだ?なんでだ?」

 小田はそう嘆き、ピッチへ膝をつく。




 こうして、新井川未という伝説を作った選手が引退した。



新井くん化け物すぎぃ…(笑)


まぁ、スター選手はこんな感じで終わってもいいよね…よね…。

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