Ex01.杵月伸子の独白
キズキさんとRVギア補足回。少しこの物語の現実世界側の裏が見えます。
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白い部屋の中、整理整頓された倫理関係書籍類が壁一面の本棚に埋まり。重厚そうな事務机と、椅子には落ち着いた灰色のスーツを着た私は、報告書に目を通していた。報告書名は「Fantasma/Online<Re. Earth >の技術関係に関する秘匿事項」
「さて、と。ジン君にはああ言いましたが。いい大人なのに、師匠風吹かせすぎましたねぇ。」
私、キズキこと。杵月伸子は、この<根源>というシステムは何の為に存在するのかを考えていた。
ただ、ゲームプレイするには<効果>が限定的すぎる。
<F/O>の個人情報を引き継ぐだけなら<フォリア>は安心できるゲームだろう。<起源>だけならば、安全だろう。
ジン君の魔人顕現の話しを聞いて、私は思った事を呟く。
「何もしないで、普通の人間に3倍の能力がいきなり使える?脳の反応速度がいきなり3倍になるわけでは無いんだけれど。」
実際、ジン君は現実でもゲームでも努力すれば伸びる、確かに伸びるが天才ではない、努力の人だ。だから、面白いし、鍛える甲斐もある。
VRMMOは基本的に脳波の反応でプレイするゲームと言われている。
いや正しく言うならば、脳に代理演算処理をさせてゲーム内の補助として組み込むシステムだ。
ブランクがあると、かなり反応速度が落ちてしまい取り戻すのに時間がかかる。それは当然のことで、徐々に休眠状態の脳の部分を覚醒させる必要があるのだ。演算領域が少なければ動きも悪くなるのは当然の事。
AIや、<電脳世界適応者>ならば、即座に適応出来るが、ジン君は普通の人間だ。脳が<慣れていない>状態で<魔人顕現>使えば、相当な負荷が脳にかかったはず。
「そんな<生体脳>しか持たない人間にいきなり3倍とは。」
しかし、<フォリア>の開発陣はランダムかつ無差別に欠陥のある強力なスキルを押しつけるというのは、何を考えているのだろうか。
下手をすれば、ジン君は脳にダメージを負う可能性もあったのだ。
それに、<F/O>時代の友人を辿って、もう一つ<根源:稀人>と言う存在の情報を入手したのだが。
「なんでしょうね、この違和感は。」
<根源:稀人>の能力は、運の拡大化。LUKの数値分の人数に運を分け与えると言うモノだが、ハッキリ言うと気分が悪い。
己の努力によって引き込む筈の能力を、ゲーム上とは言え。人から<切り分けて授けられる>等とは、虫酸が走る様な感覚に陥る。
それに、<根源>取得者の異様なほどの高揚感と多幸感。<稀人>のプレイヤーは、スキルを使った瞬間になにか感情がこみ上げてきたと言うことですが。
「ジン君も、高揚して自分が何でも出来るような気分になったと言っていましたねぇ。ゲーム上でも性格に影響を与える事は、国際法上違法なのですが。」
報告書を読み終え。A.M社VRギア開発部門倫理部部長の肩書きを付けた私は。溜め息を吐き、柔らかな椅子に身を委ねながら天を仰いだ。
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補足ですが、この物語の現実世界は高々度文明が発達しすぎて、かるく倫理観念が甘くなっています。
プロローグで、出しましたが手持ち式パイルバンカーの研究なんて普通しませんよ!
VRMMOにしても、世界中からプレイヤーが集まるのに物理サーバーだと演算処理能力が足らず運営出来ません。
だから、プレイヤーの脳をお借りしているだけなんです!
さすが、2000年代前半の厨二病患者の設定。先生にもっと優しい世界観にしなさいと言われる訳だ。