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06.<人魂>とイゾルデの<初料理>

時刻は、17時を回り、闇が薄く広がり始める時刻。

<ガーデンヒル>の街を見れば、その城壁の周りにちらほらと<ランタン>の光だろうかゆらゆらと揺れている。

冒険者達が、夜の時間から逃れて街へ移動する時間帯であり、魔と出会う時間帯。

正に、<逢魔ヶ時>と言うものである。そんな中、俺とイゾルデは修練所から城壁伝いに北上し<表示枠>上の僅かな光を放つ地図を見ながら舗装のされていない小道を進んでいる。


「どうも、私の<龍の目>は夜でもハッキリと見えるようですね、ご主人。」

「そうみたいだ、なっ!とぉ、ぐあっ!!角付き兎<ホーン・ラビット>の変わり種め、お前も今夜のおかずに加えてやるっ!」


現在は、暗闇が見通せる様子のイゾルデの指示の元。目下戦闘中だ。

重鎧の性能のお陰か、久々の対MOB戦で良い攻撃を幾度か貰っているが、HPも6割をキープ。だが、徐々にSPの上限が疲労の為か削られている。

お相手は、夜になると凶暴性の増す、昼間のフィールドで良く見かけた<ホーン・ラビット>の亜種である<闇目兎>。


「次、最後の一体。右下から突っ込んで来ます!」


イゾルデの指示通りに、身体をずらして回避…では無く。ずらした後、盾の縁の部分を角の先端に打ち付ける。

頭蓋と連結している部分を叩かれ脳震盪を起こしたのか動きが緩慢になり、其処にバスタードソードの一撃を振り下ろす。


「ぎゅう。」


と、最後の兎は鳴き声を上げて霧散する。

研究室仲間と行った「夏のドキドキ猪解体キャンプ」の様に、血抜きや解体せずとも<兎肉>となってインベントリに収まってくれるのは、気分が楽だ。

特に暗闇で捌くと、血の臭いで野犬が出てきて大わらわだったのを思い出す。

話を戻すがこの兎達、先ほど気が付いたが、角を叩かれると暫く動きが緩慢になり、角を打ち据える事が出来れば絶好の獲物…失敗すると角でグサリではあるが。


「流石に、小道で偶然遭遇した兎を倒したら、群れ単位で相手をする事になるとは…私が掴んだら龍の爪が出現して引き裂いたのは驚きましたね、ご主人。」


最初の数匹は、俺が見えなかった為に、イゾルデに処理して貰ったのだが。可憐な少女が兎を素手で切り刻む光景は、他のプレイヤーが居ればB級ホラーの映像に見えた事だろう。


「兎は、夕方の移動時間に被った俺達の運が悪い、肉が一杯手に入ったから運は良いのか。それに爪はイゾルデの掌の延長線上の出た感じだったし。<人間化>と言うのはゲーム的には<擬態>しているのか<化けて>いるのか、それとも別の物なのか。なかなかに判断が難しいな。」

「そうですね、私の本来の姿は<F/O>の<伏龍>ですが、現実世界の電脳空間では人間と同じ姿ですし。<擬態>か<化ける>かですか…難しいですね。とりあえず、攻撃時に部分的に<龍化>出来るのは楽なので、良しとします。」


イゾルデはイゾルデだから、何も問題は無いんだがな、と付け加える。

その時、微笑んだように見えたが暗くて判断が付かなかった。


「しかし兎肉が18個も入手出来るとはな。」


インベントリを見れば兎肉が18個ストックされており…説明を見れば【調理素材:肉】。

今夜は調味料が売っているらしいので<兎の水炊き>か<焼き兎肉>だな、フランスの地方料理には丸煮というモノあるが、食べ慣れないモノは良くない。

そういえばイゾルデが<料理>スキル取ってたな、現実世界の様に、自分で作らなくて良いのは楽だ。

で、料理を作ってくれるのか聞いて見ると。


「初めての<料理>ですが、頑張って作るのでご主人も目的をちゃんと果たして下さいね?」

「了解、と言いたいが今回ばかりは難しいよな…まず、契約出来るかどうかがな。」


移動しつつ兎と戦っていたので、<表示枠>の地図を見ればもう目と鼻の先程度の距離まで来ている。

<月陽の当たる墓所>は、直ぐ其処にあり。遠目からは、ふわふわと蒼い燐光を放ちながら<人魂>

らしきモノが浮いていて…一体だけ別な色の<人魂>がいた。


「Oβ掲示板情報でも聞いた事が無いな、ユニークMOBかな?」

「金色に光る…人魂ですねご主人。」


<月陽の当たる墓所>の外郭部に一匹だけ、金の燐光を放ち。他の人魂離れふよふよと浮かんでいたが・・・俺達に気が付いたのか、近づいて…消え、俺の真正面に突如現れる。

短距離瞬間移動型のMOBとは、考える暇もなく。


「なんだ、この人魂!」


胸部に鋭い打撃を連続で受けた感覚、先手は取られたか!


「ご主人!」


イゾルデが突然の状況に反応できていない。正直、この<人魂>を街の近隣の<墓所>に居るMOBだと甘く見ていた。

いや、自分は<根源>を手に入れて特別だと慢心していたのは事実だ。

そんな自分を情けなく思い、現状を打開する為、地面を蹴って距離を取りつつ。


「っ!しっかりしろ、イゾルデ!!」


俺の声で、状況を判断し始めたイゾルデも人魂と距離を取る。


「ご、ご主人!20秒ほど、足止めと時間を稼いで下さい!!<龍族術式>で、現在手持ち最大威力魔法を叩き込みますっ!」


そう言うと、イゾルデは術式を展開開始、長い20秒になりそうだと感じる。

では、イゾルデの期待に応えてみますか。

バスタードソードの剣先はやや後ろ右下、地面に触れる様に。盾は正面に向け、身体は斜に構える。

こうすれば、盾は相手の方を向き、バスタードソードは初動は遅れるが、スキル補正を利用した相手からは見えづらい下段からの振り上げが可能となる。そして、


「<魔人…顕現>!!」


<根源>にて手に入れた、自分の能力を劇的に底上げするスキル。

足下から赤い血の色をした霧が吹き上がり地面を満たし、俺の身体を霧が這い上がる。


【その状況を<切り抜ける実力>が無ければ宝の持ち腐れ】。


呉さんの言葉通りに、ならぬように。現状で持てる最大限の力を<顕現>させる。

発動だけで、SP上限が3割真っ赤になり喰われた。残りも凄まじい勢いで喰われていく。


「ありがとなぁ、<人魂>。目ぇ醒めたわ。」


準備していた、バスタードソードを<魔人顕現>で強化された最大初速で振り上げる。自分でも、反応が出来無いほどに早く<握り込み>が無ければ手から剣が抜けていた程の加速。

それでも、人魂の上半分、ゆらゆらと揺れる陽の光のような部分に当たるか当たらないか。人外の腕力が思い切り振り切った剣を無理矢理引き戻し、逆方向からの斬撃に転化する。

それでも、手応えは甘い。攻撃が当たったと錯覚を覚えるが、人魂の核には掠りもしない。

全てにおいて、<魔人顕現>を使ったとしても、使いこなせるだけの。根本たる<地力>がまったく足りていないと、完全に自覚する。


「っ、せいや!!」


それでも、少しでも、この力に見合う存在になる為に!

盾の面を叩き付ける<シールドバッシュ>。線や点でない面での攻撃が人魂に直撃するが、揺らぎもせず。

身体と剣を引き戻し、突きの構えを取って、身体能力を限界以上に使用した通常攻撃の<三段突>を放つ。最初の2発は、当てる事を考えずに最後の一撃に全力を込める。


「くっ!掠っただけ!!」


三段目の一撃が人魂の核に届く、いや届いた。ほんの少しだけ傷が付き、その傷から陽が溢れ出す。

その陽を見て。なんか…こう、激烈に不味い感覚がある。


「ご主人!行きますよ!!<プチ・ブレス>!!」


俺の連撃の後、イゾルデの放つ龍族の秘術が完成し<人魂>の周囲で爆発するが。溢れ出す陽の光と共に、人魂の核が激しく燃え始め、術式の衝撃を喰らい尽くしながら。


「自爆かっ!!イゾルデっ!!」


黄昏の地に太陽が生まれ、その光撃が俺たち二人を飲み込み。天にも届かんばかりの轟音と共に炸裂した。



* * *


ガーデンヒル<転移門>中央広場。

数多くの、宵闇の恐怖を味わったプレイヤーが数多く<死に戻り>し、その場に留まりPTメンバーを待ちながら雑談をしたり、既に決めた拠点に移動したりと、ずいぶん騒がしい。

そんな中。俺と、イゾルデはほぼ同時に<死に戻り>した為か、お互いの隣に現れ、お互いの顔を見合わせる。

限界に近い状態で地面に座り込んだ俺とイゾルデは。


「はぁ、ご主人。負けましたねぇ…ええ、私<伏龍>と言う種族だと言うことに慢心してました。」

「ふぅ、イゾルデ。負けたなぁ…ああ、<根源>や<魔人>って力を手に入れて…それを使って見事に負けた、使いこなすだけの<地力>が<実力>が無ければ振り回されっぱなしだな…<引き継ぎ組>の<F/O>プレイヤーだった事も含めて。俺も、慢心していたかなぁ。」


反省を含めて自らを戒める。

そして、お互い顔が煤だらけで真っ黒になっており。


「ご主人、お顔が真っ黒ですよー」

「イゾルデも、真っ黒だな。」


ふふふ、あははと、人前にも関わらず笑う俺たちを見て、微笑ましい姉妹だと思ったのだろうか。


「姉妹揃って、相当ぼっこぼこにされた見たいだけど、とりあえず<メディックヒール>しとくねー。」


<メディックヒール>の声と共に、爽やかな光が降り注ぎ傷を癒し、体調をも整える。

「ありがとうございます」と、礼を言うが、いいのよーと、手をひらひらと振りながら雑踏の中へ。

ヒールのお陰で、表示枠のHPは8割ほどまで回復しているが、SPは既に8割が真っ赤に染まっており。


「この、<魔人顕現>…三分間ヒーローより制限時間がきついな。それに使った時、異様に高揚した。」

「暫く、いえ完全に使いこなせる状態に<成長>するまで使わない方が、良いのかもしれません、ご主人。」


確かにそうだなと、言うやいなや。広場に聞き慣れぬ、ベンベンという音が鳴り響く。

広場が、更に喧騒さを増し<その音>は俺たちの前まで、その音が来れば。


「よう、後輩!花火が上がったからどんな奴が引っかかったか見に来ればよぉ。相当手ひどく、ボンバーされた見たいだなっ!その煤の付き具合と<墓所>方面からぼっかーんって音がしたから<イカロス>先生辺りだろうなぁ!」


その、剛胆な喋り口や低めのハスキーボイス。顔を上げれば、眼鏡にそばかすと長い髪の毛を尻尾括りにした、研究室でよく見知った顔の女傑が其処におり。その両隣には、琵琶と思われる楽器を持った妖精と…おでこ!?


「天王寺先輩に、<弁天>に…それに、キズキ師匠!!」

「やあ、久しぶりですね、ジン君。イゾルデ君。元気にしていましたか?」


軽く手を挙げ、狐目のヘアバンドでおでこを出した女性がおり、俺の師匠。キズキが其処にいた。


* * *


街に街灯が付き始め、仄かな灯りに照らされる街並みの中。俺達5人は、その中でも俺とイゾルデは顔を拭いた後に、昼間に見つけた<鎮守の杜>の休憩所に灯りが灯っている事を確認し。座って雑談や相談を行っており…俺は、キズキ師匠に説教を喰らっていて…。


「ジン君?ジン君は本当に馬鹿ですねぇ。」


<根源>の事や、<魔人顕現>の事を話し、キズキ師匠が聞きながら頷き、最初に出た一声ががそれだ。

確かに、馬鹿だったけど、真っ直ぐ心にグサリと言葉が刺さる。


「ジン君。まず、<根源:魔人>は強力な<起源>の上位種である事は解りました。そして、<魔人顕現>はスキルとしては欠陥だらけです。」


俺は、黙って師匠の言葉を待つ。欠陥?かなり強力でとんでもないスキルだと思ったのだが。


「まず、<魔人顕現>は、身体能力や全性能を三倍に引き上げると言う事ですが。いきなり、スキルのLvを含めて初心者と変わらない、今のジン君が三倍の動きで行動出来るだけで、暴れ回るだけのグズな<巨人劣種デミ・ジャイアント>と同じような能力です。更に、身体能力が三倍になったとしても、命中させる事が出来なければSPの無駄無意味無駄飯食いの<スキル>ですねぇ。」


ぐはぁ、心にサクリサクリと鋭い何かが連続で差し込まれる感覚。確かに<人魂>との戦いで掠りはしたけども命中はしていない。


「もう一つ付け加えるならば、貫通能力も命中しなければ発動しませんので。必中や命中補正の無い<魔人顕現>など、そよ風以下で扇風機の代わりにもなりませんよ?」

「師匠、勘弁して下さい…俺の心の体力はもうゼロです。」

「いいえ、マイナス表示になっても今回ばかりは止めません。ジン君、君はイゾルデ君を危険に晒しましたね?」

「う、それは…はい、晒しました。」

「はい、正直でよろしいですねぇ。しかし、止めてあげません。パートナーの事を考えて常々動きなさいと教えたのは、忘れましたか?」

「…いいえ。」

「ですが、今回はそれを怠った。それでは、駄目ですねぇ…ほら、あそこのミオ…ジン君からすれば天王寺さんでしたか。それと、<弁天>と会話しているイゾルデ君の笑顔を見てみなさい。」


楽しそうに、妖精姿の琵琶法師<弁天>や天王寺先輩と<料理>の会話するイゾルデ。キズキ師匠は優しい目をして、その光景を見やる。俺も同じく、イゾルデを見るが、天王寺先輩が気付いて「カバディ!カバディ!」と叫びながら俺の視覚の邪魔をする、いや本当に邪魔だ。


「イゾルデさんの笑顔を、ジン君が曇らせる事にないように。少し教育を行いましょうかねぇ。」


<人魂>の時と違う、ヤバイ。猛烈にヤバイと本能が警戒音を鳴らし出す。キズキ師匠は、にこやかにしかし、目は笑っておらず。


「そうですねぇ、2ヶ月…いや、3ヶ月でガーデンヒル周辺地域の<地図>を埋める事と。地域間を封鎖するBOSSを、イゾルデ君の手を借りず、<魔人顕現>も使用不可の状態で、単独で2体以上撃破する事。一応、ジン君は<学業の徒>ですから、優しい試練ですよ。」


そこに、天王寺先輩が一声余分な事を提案する…それは、俺にとって全能力を持って拒否したい事柄の1つ。


「おう、後輩。そうだな、キズっちの試練を突破出来なかったらさー。学祭で、女装してミスコンに出る事!決定だ、これは先輩命令だぞぉ!!がおー。」

「天王寺先輩、横暴ですよ!それに、俺は男です!!」


けけけ、と作り笑いをして、腕を組み。


「だから、良いんじゃないかよぉ!後輩よぉ、可愛い先輩のオ・ネ・ガ・イ!!」

「オ・ネ・ガ・イ!って言われても嫌で―」

「面白そうですねぇ、ミオに学祭に誘われていますし…それも加えましょう。嫌なら全力で取り組む事。」

「師匠まで…くっ、味方は!味方はいないのか!!」


イゾルデは、弁天と料理談義に忙しいらしく…援護は無し。

天王寺先輩はともかく、師匠まで悪ノリの付き合うとは…どうなってるんだ、二人の関係。


「それで、お二人はどのような関係で?」


うーん、と悩み出す天王寺先輩と、それは逆に笑い出す師匠。この二人実は似たもの同士なんじゃ。

まずは、キズキ師匠が口を開く。

「ミオとは小学校からの幼なじみでねぇ、そうだな腐れ縁とも言う関係かな、どうだいミオ?」

「くくくっぅ!そうだなぁ、キズッち。確かに小中高と腐れ縁だなぁ、大学は違うが連絡はとりあってんかんな!」


なるほど、そう言う関係でしたか、納得…しずらいなぁ…。


「天王寺先輩、一つ聞きたいことが。」

「なんでぇ後輩?それに今の姿はミオだ、ミオと呼べ!」


やはり、この先輩。AIや自動人形の疑似脳波関係の博士課程なんだが、どこかオカシイ気がする。


「では、ミオ先輩。出会ったときに言ってた、<イカロス>先生って何ですか?」

「あー、そうだな後輩は、出会ってんだなぁ…よし特別に教えてやろう、感謝するように!あの<金魂>は死霊系のユニークMOB通称「イカロス」って奴だ。」


きっ…女性が言い放って良い言葉じゃ無いでしょうに。


「まぁ、アイツはよぉ。脳波関係の技術の話しになるんだがなぁ、チョーシに乗ってるとふらり現れて、倒し方は秘密だぜ?倒せないと、どっかぐわらぁああああん!!と爆発する。」

「何処に脳波関係の技術の話がありましたかっ!」

「落ち着け後輩。ちょっと、傲慢とかそんな感じでテンションあがってたろ?」


そうだ、あの時は<根源>とか<魔人顕現>と言う<切り札>あって何でも出来ると傲慢になってた。


「技術関係の話はマジ真面目だぜ、アタシ。あいつ、VRギアの脳波に反応して襲うか襲わないか判別してんだよ、しかも相当な高精度で。傲慢な感情を戒めてくれるそんな存在が<イカロス>先生って訳だ。」

「そうだったんですか…。」


おうよ!と俺の肩を叩き。


「まぁ、なんだ、アタシも花火みたいに打ち上げられた口だがよぉ…<初日>の1発目の花火が後輩達とはねぇ、冗談抜きで笑ったなぁ、おい!」


まぁ、ガンバレや。そう言い残して、イゾルデと弁天の方に向かい「後輩、兎肉もってんの?焼こうぜ?バーベキューだぜぇ!!」とかやってるのを見て肩の力が抜けた気がする。


「ジン君。<魔人>と存在を知っていますか?」


呼ばれ、師匠が目を糸の様に細めながら、俺の目を見る。


「いいえ、師匠。神話関連は専門外なので。」


別に、神話やおとぎ話の魔人とは違うのですがと、前置きし。


「魔人とは、圧倒的な力を持って<魔>にその身を沈めた人間の成れの果てです。その力を使えば使うほどに、破滅の道をひたむきに突き進む<存在>です。言えた義理では在りませんが、魔に飲まれぬよう精進しなさい。そして、それが正しい方向に向いた時、どうなるのでしょうね…私には解りませんが。きっと喜ばしい事になるでしょうねぇ…。」


そう言うと、伸びをして、腕を伸ばし。空を見上げる今の師匠は普通の何処にでも居る、かつて<標の王>と呼ばれた女性だった。


* * *


「ご主人、<弁天>様と一緒に作ってみましたが、如何ですか?」


ミオ先輩がOβ時から持っていた<簡易七輪>と<木炭>を使い。<焼き兎>に調理された夕刻の兎達の姿は、とても美味しそうだった。


<弁天>が持っていた調理キットを借りて作ったらしいのだが、肉の筋はキチンと取り除くか切られて柔らかく、肉汁は七輪で炙り焼いた為に程よく落ちてくどくない、それに塩味だがそれが肉の味を引き立てる。


「ん、イゾルデ。美味しいよ?」

「はい、ありがとうございます、ご主人!」


<鎮守の杜>には、美味しそうな肉の匂いが立ちこめており、周囲にいたプレイヤーも「腹へったなぁ」等と、寄ってくる。その中には、


「あ…ジンさんに、イゾルデさん…こんばんわ」

「イゾルデおねーちゃーん!おおお、お肉の焼ける良い匂い!」


アディさんや、イブキちゃんが居たり。


「やぁ、ジン。昼間ぶりだね。兎肉か、お酒が欲しくなるね?」


レイジが、やってきて。


「よぉ、レイジじゃん!元気やってんかぁ!!がおー」

「<水脈>のミオ!なんで、此処に!」

「そこの、ジンは後輩だからよぉ、ちょーっと調子に乗ってたみたいで幼なじみと吊してただけだよ。」

「ジン、ミオの後輩とは、本当に辛い日々だったんだな…可哀想に。」


など、気軽に会話している二人は知り合いの様子だ。


「楽しいですよね?ご主人。」

 

イゾルデが横に立ち、焼きたての<焼き兎>が乗った皿を俺に手渡し。


「そうだなぁ、確かに楽しいな。明日は日曜日だし、ゆっくりとガーデンヒル周辺をまわってみるか?」

「はい!ご主人。」


そうして、<焼き兎>の宴は、のんびりと過ぎていく。

前話の<どっかん>フラグが立ちました!

ちなみにこの話はちょっとしたばっきーのMMO体験談も入ってます。

良いもの手に入れて、使いこなせず、宝の持ち腐れ。



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