01.<投影体>:アバターを作ってみよう
目を開くと、そこは仮想現実…所謂VR空間と言う訳だが。<FantasmaOnline<Re. Earth >のオフライン<投影体>制作モードのせいか、何もない白い部屋となっていた。
「うお、手足が3D制作時の精密ポリゴン状態とは、なかなか。」
自分の手足が、網掛けをされたポリゴン状態なので腕を試しに曲げ伸ばしてみると、筋肉の流れに沿って網掛けが伸び縮みして楽しくなってくる。
素体の状態でこれだけ密度の高いと、逆に遊びすぎると<投影体>にボロがでるな。
「ご主人、なにを遊んでるんですか?」
「いや、なんかこう、楽しくて…な?」
イゾルデの声が聞こえたので振り返るとそこには、ゆったりと流れる濡れるような黒い髪に、肌は逆に白磁の様に透き通ったな白。頬にには薄く朱を施し黒を基調としたメイド服を纏う。この世のモノとは思えぬ美少女が、にこやかな笑みを浮かべて佇んでいた。
その幻想的な美の中で、最も特徴的なのは、瞳の色だ。
普段は紫水晶の色合いの様な淡い紫色なのに、時折、妖しく金に光る<龍の眼>。
姿形は変われども、<騎龍>として俺と<F/O>で冒険していた時と変わらない、そして褪せない瞳の色を持った存在が、そこに居る。
「どういたしましたか、ご主人?体調を崩されたならば中止して<ログアウト>しますか?」
「あ、いや、大丈夫だ<イゾルデ>。<投影体>は俺自身の身体。基本的にはこのままで良いよな?」
いや、実は大丈夫でなかったり。長年組んできたイゾルデに、見惚れていたとかばれたら恥ずかしくて憤死する。
それはそうと、基本的に身体はそのままと言う意味は。VRゲームの欠点として、身体データに大幅に変更を加えるとログイン中に、その感覚に慣れてきってしまい現実空間内で不具合が生じる<VR酔い>が発生する。これは、世界的な問題になっているのだが。
「そうですね、髭は…産毛ですが剃って髪の毛は少し長いので、後ろで纏めてしまいましょう。現実でも、明日あたり散髪に行ってきて下さいね?」
「散髪か、<F/OR.E>始まってからじゃ駄目?」
「ご主人は、始まると暫くはログインし続けると思われるので、明日お願いします。」
「…了解。」
髪の毛や、髭といった物は変更しても<VR酔い>は、発生しない為。ほとんどのVRMMOユーザーは、髪の毛や瞳の調色に気合いを入れる。
「それに、ご主人は、童顔と言うか女性的な細面ですし、身長は以前より伸びましたが平均値よりも低めなので。西九条様の研究所で自動人形の構造物を運んでいたりしたおかげで、筋肉は付きましたがそれでもどちらかと言えば女性的です…。」
ぐっ、痛いところを突く。確かに、5年間で160㎝まで伸びたが20代前半に入ってからぴったりと止まってしまったし、できれば中性的な顔と言われたかった。
母方の従兄弟は、身長180㎝を超えていて、30代中盤に差し掛かろうというのにまだ伸びていると言うのに、やはり遺伝子的な差か何かなのか?
「髪の毛の色は落ち着いた色に少々メッシュを入れてみても面白いかもしれませんね。」
悩んでいると、それにイゾルデが聞き慣れない言葉を放つので聞き返す。
「めっ、めっしゅ?」
「はいご主人、髪の毛の一部を違う色で調色する技法です。以前からありましたが、研究室の今宮様の髪の毛の色が丁度黒9割、金1割ですね。」
「今宮姉弟の新さんのほうのだな、解った。厨二病が行き過ぎてああいう色にしてるんじゃなかったんだ。」
「いえ、新様は厨二病後期発症型と思われます。良く必殺技名を第二学舎の非常階段で叫んでおられますよ、ご主人。」
「痛いなぁ、今宮姉に今度メール送っておくか、弟さんが手遅れですって。」
「今宮女史は、理解の範囲が広い方ですので笑って済ますとおもわれます…多分。それで、いかがいたしますか?ご主人の髪型だと、メインは淡いパープルブロンドにメッシュは同系色の濃いめを加えれば…髪の毛が解けたときに色気がでますよ?」
「色気はいらん!」
「それは、残念ですね。参考資料として天王寺女史と<弁天>様から色々とお借りしたのですが。」
と、次々に俺の周囲に表示される女性向けのファッション雑誌から抜粋されたと思われる髪型一覧。天王寺先輩とその個人所有AI<弁天>はよほど俺に女装させたいらしい。
だが、表示された髪型で、俺の魂を揺さぶる色があった。
表示枠を指さし、イゾルデの目の前に移動させる。
「これ、良いかも。」
「真珠のような淡い光沢を持つパールホワイトに、淡い紫のメッシュですか、新様と変わらない厨二病っぷりです、ご主人。」
「厨二病じゃない、俺のときめきが反応したんだ。」
「はいはい、ご主人。ではコレで決定いたします。」
身体的特徴は、VRギアで事前にスキャンし、特に変えずに設定していく為、早い。イゾルデが調整用のアイコンを操作すると眼前に仮の<投影体>が立ち上がる。
「前もって<VRギア>が身体スキャンを行った為、調整が楽ですね、ご主人。」
「調整時間を含めても30分足らずか、早いな。」
「いえ、本当にこだわる方は、ログアウト制限時間限界・・・8時間以上掛かっても出来ない方もおられます、ご主人。」
<F/OR.E>での自分自身を創造するんだ、以前の俺なら兎も角。今の俺は自動人形の造形に理想を求めた場合は湯水の如く時間を消費し設計するため、気持ちは判る。
「まぁ、F/Oの時は、どこも全く変えずに<投影体>にしたから早かったが…まわりの驚愕っぷりは、あれは何だったんだろうな。」
「不気味の谷みたいな養殖物ばかりだった世界に、ご主人の様な天然物の美少女っぽいのが現れたせいですよ。はい、仮の<投影体>を出しますね。」
まじまじと、できあがったばかりの俺の<F/OR.E>での分身である<投影体>を見る。
髪の毛がパールホワイトに変わっただけで幾分か印象は違うが俺そのものだ…が。
「見事です、ご主人。立派な美少女っぷりです。」
「イゾルデ、髪型と髪の色だけで後は、変えてないよな?」
「ええ、100%混じりけなしのご主人ですよ?」
「マジ?」
「はい、AIは嘘は申しませんよ、ご主人。」
目の前にある<投影体>は、俺自身をスキャンして投影したのは確かだ。
それなのに、それなのに。
目の前に、髪の毛を後ろで無造作に纏めた。中性的な美少女もしくは、美少年の<投影体>が立ち上がっている。
「AI的判断から見ても、現実世界のご主人と同じで可愛らしい<投影体>です。」
「男らしくする事は?」
「出来ますが、まず<VR酔い>が発生します。例えれば、この顔で天満様のお父様の筋肉質な身体をベースに構成しても、凄まじい違和感が発生いたしますよ、ご主人」
同級生の天満君のお父さんの姿を思い出し、ガテン系さわやかマッチョと脳内で眼前の顔と合成しみてみる。
ニカッと笑いキラリと光る歯に俺の顔に、鍛え上げられすぎたワセリン等でテカテカと光る筋肉の盛り上がり。そのマッチョが取るポージングは<モストマスキュラー>と呼ばれる有名かつ、力強いポージング。
とたんに、拒否反応というか、凄まじい悪寒が身体を駆け巡る。
「判った…これでいくけども…。」
気になる事部分がある。
瞳の色だ。
元々の色…、俺の瞳は母親譲りの<黒曜石>に例えられる位に黒い瞳。そのままでも、十分に<投影体>に使えるくらい印象に強く残るらしい。だが、あるプレイヤーから<あの瞳の色が気にくわない><見下されている気がする>と言う良く判らない理由から文句を付けられ、GMが介入する事があった。
もちろん、自分勝手な思い込みの為に放った罵詈雑言と差別発言の為、そのプレイヤーはアカウント永久停止処分となり事態は終結したのだが…。
「イゾルデ、瞳の調色だが。」
「はい、ご主人。」
「イゾルデの<龍眼>と同じ様に調色できるか?」
「…出来ますが、ご主人?」
「つまらない感傷と、気分。後はイメージを変えたい…かな。大丈夫だ、イゾルデもイカズチさんも変わったって言ってくれた、だから大丈夫だ。」
「判りました、それでは。」
イゾルデが調整用のディスプレイを表示して、目の前の<投影体>の瞳の色を調整する。
徐々に瞳の色が変わっていく<投影体>の姿を見ながら、過去を振り返り、現在に足を付け、未来に思いを馳せる。
「折角の<新作>であり<続編>だ、くだらねぇ過去なんぞ、ぶっちぎってやるよ…。」
イゾルデが、クスッと笑う声が聞こえて、ふと見れば。
眼を細めて笑うイゾルデの姿。
「ご主人、言葉使いが、戻ってますよ?」
「ああ、戻ってた?興奮するとまだ駄目だな、気をつけないと。注意してくれてありがとう、イゾルデ。」
「いえいえ。では、出来ましたので、<投影体>の登録と統合を行いますね?準備はよろしいですかご主人。」
「ん、よろしく頼む。」
その瞬間、目の前の<投影体>が俺に重なるように吸い込まれていった。
* * *
<投影体>の統合は、違和感も何もなく完了した。
先ほどまで網掛けポリゴン状態だった俺の身体は、統合処理されて血の通う色味のある肌になる。
<F/O>でお馴染みの初期装備である、白いコットンシャツとズボンを装着した状態で表示されている事をまずは確認。
目の前に<身体動作確認チュートリアル>と表示され、開始の表示枠に触れる。
手のひらを握りったり開いたりして動作の確認を行い、最後にはラジオ体操と言った大振りな動作を持って終了する。
「お疲れ様でした、ご主人。」
「あー、久々に<投影体>制作したけど、8年前と動きが違うな。何というか動作がより自然に近い。昔は、慣れるまで、今だから理解したが、自動人形の初期挙動や、AIの初期設定みたいな微妙な動作が目立っていたな。」
「そうですね、<ジズ>規格は元々<VRFPS>の規格です。より本人に近い動作を行う事を目的として開発され、初回から挙動誤差が無いスムーズな動きが認められ、某国の軍事訓練にも取り入れられていますよ、ご主人。」
「なるほどなー。っと、戻ろうか。」
と、言ってみたものの。
イゾルデの姿を見て、気になった事が出来た、
「いや、少し待ったイゾルデ。<鏡面>出して。」
「はい?どうしましたか、ご主人?」
ログアウト準備を中断したイゾルデが、<鏡面>を表示し、俺はその前に立つ。
「イゾルデ、横に並んでみてくれるか?」
「はい、ご主人。」
と、答えると直ぐに。音も無く、それで居て自然な動きを持ったイゾルデが、鏡面に映るように俺の横に並ぶ。
髪の色は違えども、瞳の色は一緒で…俺の方が少し背が低い。
「なにか、私たち<姉弟>みたいですね?ご主人。」
はにかみながら本当に嬉しそうに言う、イゾルデ。確かに<兄妹>にしか見えないが、<キョウダイ>と言う言葉に違和感を感じたので問うてみる。
「どっちが、年上に見えるか、率直に言ってくれるか?」
「ご主人、答えるまでも無く、私です。」
「だよなぁ…。」
軽く凹んだ俺は、諸処の設定を行ってイゾルデと共にログアウトを行い<現実>に帰還した。
* * *
<投影体>制作後は、何気なしにイゾルデと一緒に、大学の研究室に顔を出したり。
掲示板やWiki等の情報を流し読みし、直接プレイヤーの能力に直結する<アビリティ>や、行動する事によって経験値を貯め、Lvが上がる毎に成長し、武器防具や魔法による攻撃力上昇や新規<戦技><魔法>の獲得及び、製造や採取おける品質の向上や、採取率上昇等の恩恵のある<スキル>の構成を妄想…いや、考えながらのんびりと日々を過ごしていく。
イゾルデはイゾルデで、oβ参加者のAIから<騎龍/サポートAI>が何が出来るかを聞いて、模索しているようだ。
そして、日々は過ぎ…。
* * *
現在、土曜日の午前11時28分。
待ちに待った<FantasmaOnline<Re. Earth >正式オープン当日。
「さて、本日。11時30分にログインサーバーが開放。12時ぴったりにワールドサーバー開放だな。」
「はい、公式の不手際か<アレ>何か行動を起こす等が無ければ。本当に楽しみですね、ご主人。」
イゾルデも、冷静を装いつつ久々とあってか、ウズウズしている、よほど楽しみなんだろう。
で、<F/O>名物の<アレ>。
公式ブログも立ち上げてるので、当然出てくるんだろうが…なるようにしかならない。
<アレ>は自然災害か何かと割り切った方が無難だ。
それに、引き継ぎ特典を言い出したのも<アレ>だそうなので、以前の無礼は許すとするか。
「<アレ>が関わってるから少し不安だが。引き継ぎ特典は、F/Oの<評価>によって変わると言う事だけしか公式に表記されていないから、ログインしてからのお楽しみだな。」
「AIにも一つだけ引き継ぎ特典があるとの事なので、どういった物なんでしょうかね、ご主人。」
うむ、頷き。AIに引き継ぎ特典となると、サポートスキルか何かかな、と考えていると。
手元にあった、11時30分にあわせた目覚まし時計が、高音の電子音を撒き散らすので、OFFにする。
イゾルデを見れば、腕を上下に振り回しながら。
「ほら、ご主人。ログインサーバーが開放されましたよ。はやく準備してください。」
「了解。」
ゴーグルを付けて、ベッドに寝転がり、ゴーグル越しに見える仮想パネルに表示された<F/OR.E>のログインボタンに触れ起動状態にする。
「ご主人、<FantasmaOnline<Re. Earth >ネットワークモード開始します。」
イゾルデの声が聞こえるやいなや、不思議な浮遊感と共に意識が引っ張られる感覚。
仮想空間に、移動する時の不思議な感覚だが、悪くはない。
それでは、VRMMO<FantasmaOnline<Re. Earth >を、楽しんで来ますか。
初めまして、こんにちばんわ。
ノリと勢いで脳内設定を書き出しつつ、ここまで書いてみましたが如何でしょうか?
人生で初めて小説と言う物を書きますが、なかなかに難しい物です。
言うなれば、ばっきーさん、反応が怖いの!と言った所です。
とりあえず書きためしつつ、表現力を上げる為、精進していきますので。
なまぬる~い感じで見守って頂けるとタスカリマス。