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散歩

作者: エリchan

海岸沿いにある、島で一番大きな道を島内部に向かって折れると曲がりくねった小径が畝っている。

古民家やほぼ空地の様な畑に支えられ五分ほど進んだところにそれはあった。

小豆島霊場、第四十番礼所、保安寺。お遍路さん小豆島版だ。

と云っても私はお遍路さんに興味はあるものの、順序はおろかまともに四国に行ったことすらないのだから話にもならない。

四国のお遍路さんと、小豆島のお遍路さんがある事も住職らしき人物に尋ねるまで知らなかった程だ。

たまたま小豆島に行く予定があり、ぶらぶら歩いていたら偶然見つけただけの話である。

急峻な坂道を登ると、正面に石垣の塀が見え、左方には竹林を背景に小さな畑と家畜小屋がある。

早朝でもないのに雄鶏が鳴く様は牧歌的で、 なおかつ静けさと相俟って荘厳な雰囲気を醸造していた。

右方には民家の後ろに少し開けた土地があり、なにかの段々畑になっているようだ。なにかは知らん。

坂を登りきると塀に沿って石畳の道が続いている。左側は保安寺への入口。一本の桜の木が畑の端からどっしりと伸び、入口を鮮やかに彩っている。右側は後にわかることだが、へんろ道に繋がっていた。

保安寺へ向かう。が、特筆すべき点は無かった……。

これは単に私の知識不足と想像力の欠如が要因であり、寺社に問題は無いのだが、やはり特筆すべき点は無かったというしかない。

はっきり言ってしまえば寺自体は寂れていて見所が無かったのである。

見る人間が見れば、また違う結果になったと言えようが。

おっと、一つ忘れていた。

敷居を跨いだところで直ぐ近くから数度、犬の吠え声がした。何処と見回してみると、敷居の左脇に犬小屋があり、柴犬が控えめに顔を覗かせている。

こんな寂れた場所を健気に守るその様はさながらハチ公の様で思わず胸を打たれてしまった。

近づくと犬小屋からちょこんと身を乗り出し、訝しげにこちらを見ている。

警戒してはいるが敵対的ではなく、手を犬の口もとに運び好きなだけ臭いを嗅がせてやると直ぐに落ち着いた。

犬という生き物は元来人懐いものなのだ。

誰にでも吠えたてたりする様なのは飼い主に問題がある。人間との信頼関係をうまく構築出来ていないのだ。

ここの柴犬は、侵入者には吠えるが来訪者とわかると穏和しくなる。かといって飼い犬の様に甘えることもなく毅然としている。

良い番犬である。

暫し犬小屋の前で腰を屈め手を嗅がせていると、犬小屋から出てきて足下にちょこんと座った。

円な瞳でこちらを見上げるのでなんだか離れ辛い。何か期待されている気がしたので下顎を掻いてやる。

そうすると、心地よさそうに目を細め、掻きやすい様にかは知らんが顎を上向ける。

来訪者も余りいないであろうに恐らく長年番犬を続けているのだろう。犬が飽いたり倦んだりすることはないとは思うが、寂しい気持ちはあったのではなかろうか。

五分ばかり番犬を労わってやり、寺を出た。やはり犬は良い。

もしかするとこの犬を目当てにまた訪れることがあるやもしれん。

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