いつも見守っているよ
選ばれし者・選ばれし者を見守る者・見守る者を見守る者
私の幼馴染みは特別な子どもだった。
産まれた時から特別な力を大地神様に与えられ、言葉を解するその前に難解な呪文が必要な魔法を無詠唱で発現することが出来たのだ。
彼と私が産まれた頃、世界はちょうど混乱の只中に在った。大空から降ってわいた魔物達が一国を滅ぼし、その亡国を拠点として世界に侵略戦争を仕掛けていた。幼かった彼は世界を統べる神聖王の御前へ連れて行かれ、そこで幼いながらこの混乱を鎮める役割を任じられた。予言があったと占星術師たちが言い、神の啓示が下されたと聖職者たちが口々に言う中で、当の本人は自分が成すべきことを理解せず、後に彼は気が付いたら救世主に奉り上げられていたと笑っていたが、笑い事ではないと私は主張しておいた。
―――こうして幼い頃から定められた戦いの人生を、彼は己の身一つで遂に成し遂げたのだ。
長い戦いの果て、大地に降り立った魔物たちを殲滅し、異なる世界と繋がり魔物たちが降り注ぐ大空の裂け目を閉じるのみとなった亡国の大地を私は踏み締めていた。
今しも裂け目を閉じんが為、大空に向けて光輝く神剣を振りかざしている幼馴染みは立派な成長を遂げて一人の青年となった。
そんな頼れる背中を此方に向けて大空に意識の全てを向けている彼へと魔の手が忍び寄る。魔物の生き残りが彼の邪魔をしようというのだろう。させるものかと私は手にしていた吹き矢で魔物の急所を静かに射抜く。音もなく倒れる魔物の気配に気付くことなく彼は力の全てを神剣に注ぎ込み、蒼い大空に刻まれた禍々しい色の裂け目を彼は縫い合わせるように光を解き放った。
大空から裂け目は消え、大地からも一切の魔物が消えた。
大空を見上げる青年はその達成感に浸り、清々しい涙を溢す。煌めく雫が大地に滴り、彼の足元から浄化の力が拡がっていった。
世界はこうして、平和になったのだ。
*
「私の幼馴染みは凄いんだから!」
これが彼女の口癖で、酒が入ると途端に饒舌になって「私の幼馴染みはこんなにも特別で凄い子なのよ」と鼻息荒く彼女の幼馴染みの冒険譚を語ってくれるのだが、俺はどうしても理解が出来ないでいる。
一人で偉業を成し遂げたという幼馴染みは勿論凄いことだ。神様に選ばれし特別な力を持つ救世主なのだから。
でも、そんな彼を影から見守り、時には助け、救世主としての偉業を最初から最後まで見届けた彼女もまた、特別な力を持った選ばれしなんちゃらなのではないだろうかと。
亡国のあった大地は毒に冒され生きとし生けるものの無い死の大地だったのは周知の事実。それを、彼女は平然と踏み締めたというのだから。
「凄いな」
「でしょ! 世界の英雄、救世主が私の幼馴染みなんて信じられないもの!」
「信じられないな」
「でも残念でした~、本当に彼は私の幼馴染みなんですう」
「はいはい」
ぐいぐいと酒を呷る彼女の視線は目の前の俺ではなくて遠く離れた隅っこの席へと注がれている。
救世主と、その恋人候補がいる席だ。
「もう何やってんの! 距離が開きすぎ! もっと詰め寄らないと駄目じゃない!」
彼女は世界が平和になった今も、こうして幼馴染みの彼を見守っているという。
とても短い。
この話の主人公は「見守る者(彼女)を見守る者(彼氏)」です。
選ばれし者と見守る者は単なる幼馴染みです。




