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高校生のメール事情

作者: 上村華月

高校生の僕には付き合って1ヶ月になる同級生の彼女がいる。名前はメグ。本名は恵美でエミなんだけど、なぜかメグ。小柄で目が大きて少しぽっちゃりしているが、僕は彼女のなんとなくかわいいところが大好きだ。けど困ったことが一つだけある。それはメールのやりとり。1日100通は届く上、しかも僕は返事が苦手で、朝から晩まで常にメールの返信のことばかり考えている。文面によってつまらない人に思われたくないし、何より返信の内容が悪くて彼女から振られるのだけは避けたいと思っている。なぜならメグとは今のところ手をつないだことしかないが、今後の更なる進展が期待できる関係だからだ。


今日は水曜日。今朝もメールに起こされた・・。

「おはよう。今日はいい天気だね。」

もうこんな時間か。ベッドから出なければ学校に遅刻してしまう。けど返事をしなければ・・・

「おはよう。清々しい朝だね」とすがすがしいという知的な日本語&漢字で高感度UP。

「やばー、遅刻しそう。」知的パンチはすかされた。

「俺も遅刻しそう。今自転車で猛ダッシュ中!」やべっ、自転車で猛ダッシュ中にメールなんて打てるわけないのに。しまった!

「私も自転車ダッシュ中。今子犬がいたよ!」

ふう、危ない。自転車の矛盾は気付かれなかったか。

「メグは子犬好きだよね。俺も子犬になりたい。」

「君は人間だぞ!」

うわっ、ちょっとかわいい。俺ってば君呼ばわりされちゃったよ。けど俺が子犬になりたいって書いた意味通じたのかな?子犬に嫉妬しているってことなんだけどな。

「いや、子犬になればメグにもっと好きになってもらえるかなってさ」

「君はちょっとキモイよ」

しまった!朝だということを忘れていた。清々しい朝なのに子犬になりたい発言は確かに適切ではないな。よしリベンジだ!

「そういえば友達のチワワが子ども生んだんだって。それもらえるかも!」

「うぁーメグチワワ大好き、来週私誕生日だよ」

これは・・困ったことになった。友達のチワワ話は嘘なのに。どうしよう・・。

「誕生日プレゼントは内緒だよ、その日会えるよね?」

「チワワがいい」

「えっ、会えないってこと?」俺はこの日に決めてやるって思ってたのに。冷や汗が出てきた。

「君はチワワくれるの?」

泥沼だ。ここは適当にごまかすか。

「チワワは生後3ヶ月は母親から離れられないんだって。だから間に合わないよ。」

「ふーん、けど楽しみにしてることは変わらないからね!」


朝からハードだった。というか俺は実はまだ家にいた。ずっとメールの返信内容を考えていたからだ。というかまだベッドの上にいて、母親からものすごい勢いで早く学校に行けと怒鳴られている。けどメールって便利だ。彼女にこの情けない怒られっぷりが聞こえるはずがないからだ。


「数学の杉山超ウザいんだけど」

またメールが来た。杉山とは先生の名前だ。

「杉山はウザいよね、俺もそう思うよ」適当に見えるこのあいづちだが、実はある根拠に基づいている。それは女性の会話は同調を求めているのであって、解決策を求めていないという科学性だ。ネットでこないだ調べた知識だ。

「本当ウザい。汗キモイ。」

「うん、汗キモイよね」

「なんか君の返事適当じゃない?」しまった!科学性に頼りすぎて、タブーその一のつまらない人になってしまった。というか俺は今本当に自転車をこいで学校に向かっている。今返事をするとやぶへびだ。学校に着いたらじっくり考えて返事を書くことにしよう。しかしすぐメールが届いた。


「ねえ、今何してるの?返事がなくて寂しい。。」

しまった!メグを寂しがらせてしまった。自転車を止めて返信することにした。

「ごめん、ちょっと小テストでさ、俺も返事できなくて息苦しかったんだよ」

てか息苦しいのは必至に自転車をこいでいたからなのだが。

「えっ何小テストって、君は今国語だよね、ちょっと教えてよ何が出るの?」

今度は別の意味で息苦しく、息が詰まってきた・・もうヤケクソだ。

「小テストっていってもすっごい小テストだから、ほんとあるかもしれないしないかもしれない」

「何もったいぶってんの、たかが小テストでしょ?君かっこ悪いよ。てかおなかすいた。何かお菓子持ってない?」

ごまかしきれたのかな?あっ、またメールが来た。

「チョコある?バナナ系」

「あるよ。昼休み一緒に食べよう!」というか、チョコを持っているなんてのはこれまた実は真っ赤な嘘。今朝はいろいろメグのポイントを下げてしまったから、彼女のためにもこれから買いに行くことにしよう。

「次の休み時間教室まで持ってきて」

あっ、絶対無理。

「俺次体育だから、着替えとかで時間ないからその次でいい?」

「今日はサッカーだよね!メグの席から校庭のかっこいい君を見てるよ」

しまった!チョコを買いに行ってっていてはサッカーに間に合わず、まだ登校中だということが確実にバレる。よしっ、まずは登校しよう。

「OK!君にシュートをささげるよ」



というわけでそれこそ猛ダッシュして何とか体育の時間には間に合った。ただし制服を着ている。

「ねぇ、君は何で制服着てるの?」

準備運動中にもメールは来る。制服を着ているのは確かに俺だけだ。多少遅刻してでもジャージに着替えてくるべきだった。

「ちょっと着替える時間なくってさ。別にジャージ忘れたわけじゃないよ」

「あっ、嘘はいけないぞ君。本当は忘れたんでしょ?」

あー、えいっ。

「ごめん、かっこ悪い嘘ついちゃった。」

「嘘つきキライ。」

涙が出てきた。俺の童貞卒業が・・・。ジャージ忘れたなんて言わなければ良かった。

そして、試合が始まった。

「嘘つきはゴール3つ決めること!」

「了解。さっきはごめん。サッカー頑張るよ」

事なきを得た。思えば朝から息も詰まる攻防を繰り返している。


「ほら、ってかもっと前行かないとシュート決められないよ」

それは、無理だ。俺は制服を着ているという理由でキーパーになってしまったからだ。

「俺はキーパーというポジションになったよ。誰もやりたくないって言うからさ、率先して名乗り出たんだ。」

よーしこういえばチームワークのある男として評価が上がるはずだ。

「何それ、それじゃ点入れられないじゃん、メグのためのゴールは?」

「ゴールを入れられないようにメグのために・・・」

と書いたところで点を決められてしまった。

「あーあ。みっともない。バカ!」


その後もメールのやり取りは続いた。そもそも携帯電話を操作しながらサッカーで活躍する選手を見たことがない。この日は5点決められてしまった。

そうだ、チョコを買いに行かなければ!3時間目の授業はボイコットし、近くのコンビニに行った。しかしバナナ味のチョコなどないではないか。少し遠いがチェーンのスーパーまで自転車をこいだ。売場にはやはりバナナ味がない。マンゴーならある。今メグは体育の授業で、俺は自分の時間に集中出来る時だ。メグは体育の時間にメールを出さないからな。

その時ふと隣町にチョコバナナの屋台が出ていたことを思い出した。そしてチョコバナナなんとか手にすることに成功した。時間はその時既に11時45分だった。



「チョコのバナナ楽しみだな!」

「うん、チョコのバナナというかチョコバナナなんだけど」

「何それ、家から持ってきたの?冷やしとかないと腐っちゃうよ」

「クーラーボックスに入れてきたから大丈夫」

俺はここまで嘘をつける人間になっていた。何も無い普通の日にクーラーボックスにチョコバナナを入れて登校する高校生がいるだろうか?

さらには今自転車を乗り捨てタクシーで学校まで移動をしている。昼休みには何とか間に合いそうだが、クーラーボックスがない。というかチョコバナナが溶け始めて既に素手がどろどろだ。


「チョコバナナってチョコなのかバナナなのかハッキリして欲しいよね(爆)」

「バナナとメグどっちが好き?」などメグからの厳しい突っ込みはこの間も続く。

そして学校に近づいてきた。

「うん、チョコまで後5分!」俺の携帯はもはやチョコまみれだ。

「チョコチョコ♪やっぱイチゴがいい。イチゴある?」


「運転手さん、すみませんここで止めてください。」

俺は道端のソープランドへ一目散に飛び込んだ。


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