私のスキルは婚約破棄返し
「リリアーヌ・ヴァルロワ! お前との婚約を破棄する! お前のような不貞を働く悪女は、我が公爵家にふさわしくない!」
きらびやかな王宮の晩餐会。その中心で、私の婚約者であるオズワルド公爵令息が、勝ち誇ったような笑みを浮かべ宣言した。
彼の隣には、怯えた表情で彼にしがみつく男爵令嬢の姿がある。
周囲の貴族たちは、私を哀れむような、あるいは嘲笑うような視線で見つめていた。
この世界では、15歳になると誰もが神から「スキル」を授かる。私のスキルは鑑定の結果、名称不明の【特殊カウンター】という、戦闘ですら発動しない。謎スキルだと判定された。
一方のオズワルドは、最高峰の宮廷スキル【追放の宣告】。
だからこそ、彼は私を「無能の役立たず」と見下していたのだ。
だが、彼は致命的な勘違いをしている。
私のスキルの本当の名前は、【特殊カウンター】ではない。
「……オズワルド様。本当に、私との婚約を破棄されるのですね?」
「あぁ、何度でも言ってやる! お前との婚約は今、この瞬間を以て破棄された!」
オズワルドが声を大にして叫んだ瞬間、私の脳内に、澄んだ鐘の音のようなシステム音が響き渡った。
――『条件が二重に達成されました。固有スキル【婚約破棄返し(カウンター・ブレイカー)】を二重に発動します』――
まさか私の、一生発動するはずのないハズレスキルが発動する日が来るなんて……しかも、発動条件の婚約破棄を二度も宣言するなんて笑いが止まらないわ。
そう。私の真のスキルは、理不尽に婚約破棄を公衆の面前で突きつけられた瞬間、相手がこれまでに得た利益、名声、魔力、そして婚約によって得ていた恩恵をすべて奪い取り、屈辱を数倍にして相手に送り返すという、あまりにも限定的で、あまりにも凶悪な10倍返しのカウンター・スキルだった。
しかもバカなオズワルドは、まんまと私の策略に引っかかり二度も宣言したのだ。
「っ……!? な、何だこれは……身体が、熱い……!?」
オズワルドが突然、胸を押さえてその場に膝をついた。彼の身体から、目に見えるほどの濃厚な魔力と、黄金の「輝き」が抜け出し、光の粒子となって私の中に流れ込んでくる。
「ああ、心地いいわ……」
私の中に、オズワルドが持っていた【追放の宣告】のスキルと魔力、そしてヴァルロワ公爵家が彼の後ろ盾として貸し出していた莫大な財産と利権の「所有権」が、凄まじい勢いで上書きされていく。
「な、何をしたリリアーヌ! スキルが……僕の『追放の宣告』が使えない……!? それに、頭が割れそうだ!」
「何もしていませんわ。あなたが望んだ通り、婚約が『破棄』されただけです」
私は冷ややかな笑みを浮かべ、彼を見下ろした。
「オズワルド様。あなたが我が家の支援で通っていた魔術学院の学費、我が家が融通していた領地間の交易ルート、そして……あなたが私に突きつけた『不貞の冤罪』。そのすべてを、今ここで精算します」
直後、王宮の扉が勢いよく開いた。息を切らせた公爵家の使者が、オズワルドの元へ駆け寄る。
「オズワルド様! 大変です! ヴァルロワ家からの支援が完全にストップし、我が家の全事業が差し押さえられました! さらに、あなたが裏で男爵令嬢に公金を横領して貢いでいた証拠が、今、国王陛下の手元に届いたと……!」
「な、なんだと……!? そんな馬鹿な、証拠は隠滅したはず――」
【婚約破棄返し】の最も恐ろしいところは、世界を書き換えてしまうところ。相手の「罪」をも倍にして瞬時に社会にフィードバックすること。
このスキルは相手の主張の善も悪も関係なく、公衆の面前で婚約破棄という蛮行をひっくり返すスキルなのだ。
そして彼が隠していた悪行や身に覚えのない悪行も、すべて白日の下に晒された。
「あ、あなた……私を騙したのね!? 公爵家を継ぐからって言ったじゃない!」
隣にいた男爵令嬢が、手のひらを返してオズワルドを突き飛ばし、這うようにして私に擦り寄ってきた。
「リ、リリアーヌ様! 私は無理やり彼に迫られて……!」
「近寄らないでくださる? 汚れますわ」
私が一歩下がると、王宮の近衛兵たちが一斉に踏み込んできて、オズワルドと男爵令嬢を拘束した。
国家反逆罪および横領罪。彼らに待つのは、二度と這い上がれないどん底の未来だ。
「リリアーヌゥゥゥ! 貴様、許さな――」
見苦しく叫ぶ元婚約者が引きずられていくのを、私は冷めた目で見送った。
気がつけば、晩餐会の会場は静まり返り、貴族たちは恐怖の眼差しで私を見つめている。
オズワルドの魔力を完全に吸収した私の周囲には、かつてないほどの濃密な魔力が渦巻いていた。
「さて……」
私はドレスの裾を優雅につまみ、誰よりも美しい一礼をした。
「無能の役立たずは退場いたしましたわ。皆様、宴を続けましょう」
理不尽に私を捨てようとした男は滅びた。
そして私は、奪い取った最強のスキルと富を手に、この陰謀と嫉妬渦巻く貴族社会で、誰よりも自由に、気高く生きていくのだ。




