治癒術と蘇生術って
7/28、タイトル変更。
「そういやさあ、ルーソラって」
本日一仕事終えた後の冒険者一行「暮明の茨」。
今晩泊まる宿の食堂で名物料理の腸詰の煮込みをつつきながら、
ドワーフのフンケが仲間のハーフエルフへ尋ねる。
「治癒術ってどの辺まで使えるの?蘇生とかできるの?」
ルーソラは苦笑いしつつ答える。
「無理無理。というかね。治癒術と蘇生術って、別物なのよ」
「え、そうなん?てっきりすっごい治癒術が蘇生なのかと思ってた」
今料理を頬張りながら発言したのは、フンケの従姉妹であるマイセル。
顔つきも体形もよく似ているが、彼女達の母親が双子だそうだ。
共に硬い髪質で、赤茶色の癖毛を後ろにまとめている。
ルーソラは続けた。
「治癒術ってのは魔素を消費して傷とか状態異常を治す術だけど、
蘇生術の本質は、肉体から剝がれた魂魄を引き戻す術なのよ。
その時、対象となる肉体が損傷していたら、それも治すの。
なので比較にならないぐらい難易度が違うのよ」
「ほわぁ~」
口をあけて変な声を出したのはクズリ。白黒髪の猫耳獣人である。
料理人もやっている彼女は腸詰の煮込みに興味津々だったのだが、
こちらの話にも興味をひかれたようだ。
さらに話は続く。
「でね、魂魄の引き戻しってものすごく体内魔素を消費するの。
わたしも体内魔素は多い方だけど、仮に使えたら一回で空っぽね。
だから普通なら蘇生術は数人で行うのよ。
主術者が魂魄の引き戻しを担当して、副術者は損傷の修復担当。
時間の経ったご遺体だと、損傷の修復に十数人は必要になるわ。
治癒術は自分と相手の体内魔素を使うのが一番楽なんだけど、
ご遺体に体内魔素はないから、副術者の負担もかなり大きいの。
それを主術者と同期させながら行うわけ」
「んじゃ、一人じゃ蘇生術なんて使えないんだ」
と、フンケ。頷くルーソラ。
「そうね。
歴史上一人で蘇生術を行えたって話はいくつかあるんだけど、
大半が神話とかで、実際に確認出来るのは約百五十年前の例だけ。
大聖女オブシディアナ様ぐらいのものだわ」
◆
大聖女オブシディアナ。ルーソラの憧れである。
ハーフエルフの彼女は、自らの子供を望めない。
人間と亜人種、あるいは異なる亜人種同士では子を成すことが難しい。
大半は生まれず、生まれても死産、あるいは早世するのがほとんど。
その中でも比較的多く成人できるのはハーフエルフの場合だが、
人間相手でもハーフエルフ同士でも、まず子は成せない。
己の子を成すことが、幸せとは限らないし幸せの全てではないが、
好いた相手が出来ようとも、普通の女の一生など過ごせないのだ。
血脈の悪戯か、極稀に人間同士の間からでもハーフエルフが生まれるが、
彼女は正にそれである。それで差別や虐待を受けたりはしなかったが、
彼女の両親もルーソラ自身も、この身体の宿命には心を痛めた。
現実は変えられなかったが、大聖女の存在はルーソラの心に光を与えた。
わずか六年弱の活動だが、精力的に数多くの民の傷を癒し病を退け、
さらには偉人達を蘇らせ国々を救った少女。自分もこうありたい。
自分自身は決して救われずとも、人々の力となりたい。と。
大聖女の短い生涯に自らの進むべき道を見たのだ。
十歳より神殿に入り、楽とは言えない修行の中、数々の神聖魔術を習得し、
こうありたいと思う自分を常に目指し続けた。
神聖魔術に限界を感じ、それでも傷ついた人々を癒したい、と思い、
修行の合間を縫って薬学を収め、薬師としても挑み続けた。
理不尽な暴力にも屈しないため、戦闘術をも学び続けた。
拝金主義の神殿に失望し、還俗した今でも大聖女は心の拠り所のままだ。
◆
「それで、どこまで治癒術が使えるのか、だけど」
ルーソラは話を戻す。
「生きてさえいれば、瀕死の状態でも治癒は出来ると思う。
わたしはまだそんな事態に出会ったことはないけどね。
ただ、もうすぐ寿命を迎える方はさすがに無理かな。
蘇生術でも天命は覆せないと聞いているし」
クズリが腸詰を頬張りつつ応じる。
「あ~、昼間の彼ら、死んだりしなくて良かったねぇ。
あれ下手すると助けられなかったじゃん?」
今回の護衛依頼は、かなり腕の怪しげな別の一行と同行していた。
全員自信に満ち溢れていたが、依頼書すらまともに目を通していない。
昼間のお粗末な戦闘を思い出し苦笑した。マイセルは笑って続ける。
「いやぁ、ああいう人達は意外と長生きすると思うよ?
最後の最後でな~ぜか助かっちゃうと見たね」
また全員苦笑した。
大聖女「やめてぇぇぇ~っ!伝わってる話は脚色入ってるから!崇高な志なんてなかったからっ!」




