009:親交の中華そば
009:親交の中華そば
敬次の安全運転で事務所から目的地のみさき通り商店街には、30分程度で到着した。
車を安全なところに停めると、運転席から直ぐに降りると天馬会長の乗っている方に走る。
そして扉を開けて降りてくるのを待つ。
降りて店に向かったのを確認してから敬次は車の扉を閉め、天馬会長の少し後ろを歩く。
「おじちゃん、せんどぶり! いつぶりやろな?」
「おぉ坊ちゃんですか! 2年前の背広を仕立て直した時以来や思いますわ!」
「まだまだ元気そうで良かったど」
「そらあまだまだ現役ですからね! それで今日はどうかしたんですか? また背広を直したいとかですか?」
天馬会長は仕立て屋のお爺ちゃんと親しそうだ。
とても微笑ましいと思っていると、少しの世間話から用件は何かと本題に入るのである。
それを聞かれてから天馬会長はパッと敬次の方を見る。
そして敬次を指差しながら「コイツのスーツを仕立ててくれ」と頼むのである。
新しい依頼を聞いたお爺ちゃんは「ほぉ」と言いながら敬次に近寄って、隅々から観察してくる。
「ごっつい若いけど、天翔会の若い衆かいや?」
「あぁ今さっき盃を交わしたばっかりの新入りも新入りや。わしの会長付きにしてんけど、こんな服しか持っとらんって聞いたから、ここに来てん」
「ほぉほぉ話は分かりましたけど、今さっき盃を交わした割には会長付きとは期待しよるんですなぁ」
「あぁ期待しとーさ。根性を気に入ったけど、何よりも腕っぷしが尋常とちゃうんや。腕っぷしだけやったら天翔会……いや尾田組の中でも有数やろな」
「ほんまに気に入っとるんですなぁ……分かりましたわ! 会長付きとして恥ずかしないスーツを仕立てさせて貰います!」
お爺ちゃんは敬次の体から天馬会長の方に視線を移し、敬次は若い衆かと聞いた。
それに「あぁそうだ」と答えてから新人も新人であると笑いながら言うのである。
敬次は「ははは」と頭を押さえながら頭を下げる。
話し方からして敬次の事を期待しているのを、お爺ちゃんは感じ取った。
だから会長付きとして恥ずかしくないスーツを作るから待っててと言うのである。
「それでどれくらいで出来るんや? 1週間くらいか?」
「坊ちゃん、ねぶらんと頂きたい。まだまだ現役言うたでしょう、3日もあったら簡単じゃわい」
「すまんすまん! ちょっとボケてしもうたで、もちろん腕は知っとーからさ。どうかええものを作ってや」
「坊ちゃん、冗談がきついねや。もちろん素晴らしいものを作らして頂きますわ」
依頼が済んだところで、どれくらいで完成するのかと天馬会長は聞くのである。
その際に1週間は必要かと尋ねた。
明らかに空気がピリッとして、3日もあれば出来るから舐めるなと天馬会長に言い返す。
まさしく天馬会長の冗談だった。
直ぐに「すまん」と笑顔で謝って、その場は何も無かったが敬次は、この仕立て屋のお爺ちゃんも只者では無いと毛がゾワッとした。
「料金なんやけどよ、どれくらいかかりそうや?」
「普通なら10万はかかるやろな。そやけど今回に関してはタダでええですよ」
「タダ? なんでや、ちゃんと支払うど?」
「こら投資じゃわい! そこの少年は、私の目から見ても成長するタイプや思う。そこで今回は無料にするから、次からうっとこを贔屓にしてくれてや」
値段に関しての話になると、お爺ちゃんは今回はタダでやってやると言って来た。
そんなわけにもいかないから、キチンと金は払うと天馬会長は返した。
しかしお爺ちゃんは頑なに受け取らない。
これを縁に敬次には、自分のところを贔屓にして欲しいという事だったのである。
それを聞いた天馬会長は「ふっ」と鼻で笑う。
そして敬次の方を向いて「やとよ、どないすん?」と無茶振りのように話を振ってくる。
敬次は「ありがとうございます!」と感謝する。
大きな感謝の言葉にお爺ちゃんは「はっはっはっ!」と大きな口を開けて笑うのである。
「それじゃあ爺ちゃん、また3日後に顔出すわ」
「はい、待っとります」
依頼を終わらせてから敬次たちは店を出る。
店を出たところで敬次は、急いで車のところに走って車の扉を開くのである。
乗ったのを確認してから走って運転席の方に向かう。
そして乗り込んでエンジンをかけた。
「敬次、腹減っとらんか?」
「はい、減ってます」
「それじゃあオススメのラーメン屋にでも行かんか? この近くにあるんやど」
「分かりました! そこに向かいます!」
発進しようとしたところで、天馬会長は敬次に腹は減っていないかと聞いて来た。
敬次は朝飯を食べて来なかったので減っていた。
減っていると答えると、オススメのラーメン屋に行こうと言ってくれたのである。
じゃあそこに向かうと車を発進させた。
ラーメン屋は、このみさき通り商店街の中にあると言って近くの駐車場に向かう。
車を停めてからラーメン屋の方に向かって歩く。
そしてラーメン屋の前に到着した。
「オヤジ、ここですか?」
「あぁここやで、どや? 町中華って感じやろ」
「そうですね! 確かに美味そうって分かる見た目をしてますね、これは期待しちゃいますよ!」
天馬会長がオススメのラーメン屋は、まさしく町中華を体現するような見た目をしている。
明らかにボロボロで油でベタベタだ。
しかしこの外見が美味しそうと感じさせるのだから、不思議といった感じだろう。
とりあえず店の中に入る。
中には本当に作れるのかと思えるほど、ヨボヨボな爺ちゃんが立っていたのである。
心配になりながら敬次も店の中に入る。
「爺ちゃん、中華そばを2つ!」
「あいよ、中華そば2つね」
天馬会長は店主に中華そばを2つ注文する。
キッチンに入っていくのを見てから、敬次たちはテーブル席に腰を下ろすのである。
そして天馬会長は、手をおしぼりで拭きながら敬次についての話を聞く。
「敬次を調べた時に知ってんけどよ、ちんまい時から今の祖母の家で暮らしとるんやろ? なんかあったのか?」
「まぁ何とも説明しづらいんですけどね……俺の父親が、東京でヤクザをやってたんですよ」
「ほぉ関東でヤクザをな」
「両親は俺が、東京で暮らすのは危険だからって送り出したんですよ。それから一切連絡は取ってませんから、どんな思いだったとかは知りませんけど」
「そかそか、そんなに辛い事があったんやな。わしの子分になったからには、寂しいとか思う間もあらへんくらいあつかましゅうしちゃるからな」
敬次は天馬会長に全てを話した。
後から知った事ではあるが、敬次の父親は東京でヤクザをやっている人間だったらしい。
ここに息子を置いていたら危険だからと、敬次の両親は兵庫の祖母のところに預けたのだ。
それなら両親とは連絡を取っていない。
話を聞いた天馬会長は、自分のところに来たからには寂しいと思わなくなるくらい忙しいからと笑いながら言う。
その言葉を聞いた敬次は、少しグッと来て涙が溢れそうになるのである。
ちょうど良いタイミングでラーメンが届いた。
「さぁ腹が減っとったら、いらん心配をしてまうもんだ! 飯を食うて頑張ろや」
「そうですね! それでは頂きます!」
2人は注文した中華そばを、小話で笑いながらズズズーッと啜る。
会って間もないが、絆が深まったように感じる敬次だったのである。




