005:取引
005:取引
5人目と6人目は2人がかりで仕留めに来る。
敬次は顔の前にガードを置いて、2人の攻撃を防ぎながらカウンターを模索する。
しかし2人がかりというのが、中々にチャンスを作れず防戦一方となる。
どうにかしなければいけないと5人目の方の腰にタックルして持ち上げた。
そのまま直下式のブレーンバスターをお見舞いする。
敬次が地面に尻餅着いているのを見ている6人目は、サッカーボールを蹴るように蹴って来る。
それを後ろに倒れ込むようにして避けた。
通り過ぎたのを見てから敬次は首はね起きをして立ち上がり構え直す。
6人目は敬次の腰に向かってタックルしようとする。
姿勢からタックルして来るの読むと、敬次はカウンターを合わせるように跳び膝蹴りを6人目の男の顔面にブチ込んでKOさせる。
倒れたのを確認してから敬次は、残り2人の方を見る。
すると男たちはナイフを懐から出して向けて来る。
敬次はチッと舌打ちをした。
「おい! 素手で闘うんじゃなかったのか? 今さらナイフを出して来るなんて女々しい野郎が!」
「おいおい、チャカは使わんて言うたんやど? ナイフを使わんなんて言うてあらへんやろ」
「本当に女々しい野郎が……良いぜ、相手してやるよ」
素手で闘うんじゃ無いのかと敬次は、秀利を問いただすがチャカを使わないだけで、ナイフを使わないとは言っていないと屁理屈を言って来た。
これは口論しても仕方ないと敬次は諦める。
なんならけちょんけちょんにして黙らせてやると、スーッと息を吸ってなら構える。
7人目の男はジリジリと近寄って、敬次の顔面に目掛けてナイフを突き刺して来た。
それを敬次はパッと右に避ける。
右肘でナイフを持っている腕の内側をドンッと殴る。
7人目の男は腕を殴られ体勢を崩し、敬次が見逃す事なくナイフを持っている腕を掴んで背負い投げをした。
背負い投げをした事で体勢的に有利だと思った8人目の男が、敬次に向かってナイフを振り上げる。
危険を察知した敬次は、押さえ込んでいる7人目の男のナイフを使って8人目の男の足にナイフを突き刺す。
思っているよりもサクッとナイフが刺さった。
8人目の男は痛みで「いっ!?」と声を上げ、動きが止まった事で隙が生まれる。
敬次はガラ空きの顔面に頭突きをかます。
そのまま最後の男に馬乗りになって顔面を殴る。
気を失ったのを確認して立ち上がる。
「おい! こっちを見んかい!」
「ん? て テメェ……やっぱりクソ野郎だな」
秀利は敬次の名前を呼ぶ。
何かと思って振り返ると、そこにはボロボロに殴られ気を失いそうになっている円がいた。
そして秀利は円の頭にチャカを向けている。
明らかに約束を破るつもりだったのだろう。
この不義理に敬次は、クソ野郎だと罵る。
「わしらがクソ野郎やて? そらあそうやろ、クソ野郎じゃなきゃヤクザなんてやっとらんわい。わしらは負けん為に、どんな手ぇつこても勝つんや!」
「テメェらにはプライドとか、根性とかはねぇのかよ!」
「根性、プライド? そんなんを大切にして飯が食うていけるんけ? この世界は綺麗事で生きていけるほど、生優しい世界とちゃうんやで」
「クソ野郎なテメェらが、根性やプライドを捨てたら何が残るんだ? ただのクソの塊が残るだけだろ!」
こんな裏切りのような事をしたとしても、勝たなければ意味が無いと秀利は笑っている。
ふざけた行為に敬次はプライドや根性は無いのかと、今やっている行為を非難する。
これに秀利は真顔になって答えた。
綺麗事でやっていけるほど、この世界は優しくない。
秀利の発言に敬次は、プライドや根性を捨てたクソ野郎は、ただのクソの塊だと言い放った。
「好きに言うたらええけど、われらの命日は今日や。これでわしらのメンツは保たれる」
敬次を殺す事で自分たちのメンツは保たれると、秀利はチャカを敬次に向ける。
もうこうなってしまったら無理だと死を覚悟する。
秀利は引き金を引いて、敬次を撃ち殺そうとした。
その瞬間、林一家の事務所の扉がバンッと開く。
いきなり扉が開いたので、秀利は敬次に向けていたチャカを入り口に向け「誰だ!」と叫ぶ。
「おぉ尾田組の幹部が、カタギのガキにチャカを向けて何やっとんねや? しかもそいつはわしの連れやど?」
「ぼ 坊ちゃん!? なんで坊ちゃんが、こんなとこに!」
「そこにおる敬次くんに会いに行ったら、ここに向かったって言うから来てん……われらは何してんだ?」
事務所にやって来たのは、尾田組々長の実子であり組長代行を務める天馬だった。
その天馬の登場に秀利はビクッと席から立ち上がる。
あまりにもいきなりだったので、秀利は動揺を隠していられない。
そんな秀利に天馬は、何をしているのかと聞く。
しかし動揺をしている秀利は、質問を質問で返してしまうのである。
天馬は素直に答えた。
敬次に会いに来たと。
こうなったら秀利も答えるしかない。
「このガキが、ウチの組員をボコボコにしたんでケジメをとっとーとこです……」
「ほぉ? 敬次くんが林一家の組員をボコボコにな……なんで喧嘩になったのか知っとんのけ?」
「え? いえ、詳しゅう知りまへんが……このガキが、いちびって喧嘩を売ったんとちゃうんやろか」
「われのとこの組員が、カタギの婆ちゃんに絡んで金を巻き上げようとした。それを敬次くんが止めに入った……これが事の全てや」
ボコボコにされたケジメをとっているだけだと話すと、天馬はどうして喧嘩になったのか知っているかと聞く。
しかし詳しくは知らなかったらしい。
敬次と組員が喧嘩した理由について説明した。
どうやら天馬は敬次が、ここで揉めているのを知って調べ上げていたみまいだ。
それを聞いた秀利は「くっ!」と何も言えなくなる。
「もう敬次くんと、そこの友達を連れて行ってもええな? なんも言い返す事はあらへんな?」
「ちょっと待って下さいや! こっちはねぶられたまま許すなんて選択肢はおまへん! そのガキを置いてって下さいや、坊ちゃんに介入する資格はあらへんはずです!」
「おい…誰に口聞いとんのか、分かっとんのか? われみたいなチンピラが、わしに意見してええわけあらへんやろ」
「す すんまへん……」
全ての話が終わったと天馬は言った。
だから敬次と円を連れて帰っても良いかと、ニコニコしながら聞くのである。
しかし秀利は、これは自分たちの問題であり天馬にすら口を話す権利は無いと主張した。
ただの幹部に大きな口を利かれた天馬は真顔になる。
そして秀利をチンピラと言って、低い声とタダならぬ殺気で秀利を脅すのだ。
「まぁ林にも意見があるんは、よう理解した。ほな取引と行こうやんけ」
「と 取引ですか? 一体どんな取引を……」
「われのとこ半グレのガキをつこて、薬局やっとーやろ? もう証拠は十分に揃うとるんやど、うちが薬ご法度かて知っとってやっとるんやろ?」
「な なんでそれを……情報は完全に封じとったはずやのに」
「そやからなんべんも言いよんねやけどな? われの目の前におるんは、どこの誰や思いよるんや?」
天馬は秀利に交換条件を提示した。
それは敬次と円を解放する代わりに、秀利たちが藤田たちを使って薬物を売り捌いている事を黙るというものだ。
尾田組では薬物は御法度である。
だから交換条件として成立している。




