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SCUM〜敗者たちの讃美歌〜  作者: 灰谷 An
第1章・兵庫県統一 編
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002:腕っぷし

002:腕っぷし

 10歳の少年が、母親の足にしがみついて泣いている。

 あまりにも大きな声で泣いているので、母親はどうしたら良いのかとアタフタしてしまう。

 どうにかしようと母親は少年に目線を合わせる為、しゃがみ込んで肩に手をポンッと置く。

 優しい笑みを浮かべながら優しく話しかける。



「どうしてお母さんと離れ離れにならなきゃいけないの! どうしてお母さんたちは着いて来ないの!」


「これはね、敬次の為なんだよ……お母さんと、お父さんの近くに居たら幸せにならないの。だからお婆ちゃんのところで、健やかに暮らして欲しいんだ」


「普通じゃなくても良いから、お母さんたちの近くにいたいよ!」



 この少年は7年前の敬次だった。

 敬次の母親は自分たち両親の側に敬次が居たら幸せになれないと、東京から兵庫県にある母親の実家に敬次を預ける事にしたのである。

 それなら幸せになれるからと。

 しかしそんな事を10歳の少年は認められない。

 両親と離れて幸せになるくらいなら、近くに居て不幸の方が自分は良いと泣きながら主張する。

 その様子に母親も涙が出て来る。



「姐さん、どうしますか?」


「無理矢理にでも連れてっておくれ……じゃないと、私たちみたいに不幸になっちまうからね」


「分かりました! キッチリと送り届けますので!」



 母親の事を姐さんと呼ぶ若い男が、どうするのかと母親に決断を求めて来る。

 泣き叫ぶ敬次にクルッと背中を向けた。

 そして何があっても連れて行けと若い男に言って、その指示に男は覇気のある声で返事をするのだ。

 泣き叫んでいる敬次を男は、抱き抱えると車に乗せて兵庫県に向かって出発した。

 敬次は車の後部座席から後ろを振り返って母親を見る。

 そこには声を押し殺して涙を堪えている母親の姿があって、敬次は「お母さぁあああん!」と叫ぶのである。


 叫び声が頭の中に響きながら敬次は目を覚ました。

 目をキョロキョロとして状況の確認をするが、目を覚ましたのは普通に自分の部屋の布団の上だった。

 嫌な夢を見たと上半身を起こすと背筋を伸ばし、頬を2回叩いて「よし!」と目を覚ます。

 そして起き上がると部屋から出て階段を降り、リビングにいる祖母に声をかける。



「婆ちゃん、おはよー」


「おぉやっと起きたか、おはよーって10時じゃぞ!」


「いやいや、昨日は遅かったもんだからさ。今日の朝メシは何?」


「もう無いわ、冷めたら美味しく無いから作っとらん。そんなに食べたいなら外で食べといで!」



 昨日の夜も円と、一緒に外を出歩いていた。

 だから起きるのがお昼になってしまった。

 その為お腹が空いているので、朝メシは無いのかと聞くのだが作っていないというのだ。

 そんなに食べたいなら外に行けと言われてしまった。

 確かに祖母の言う通りだと、敬次は財布を持って欠伸をしながら家を出るのである。

 今からでもやっているのは、祖母の知り合いで昔から通っている定食屋だ。

 そこなら安いし美味いと歩き出した。


 今日も平和だと思いながら街の中を歩いて、店の前に到着した。

 いつもと同じようにボロボロで汚い店だ。

 しかしこういうところの方が美味しい気がする。

 敬次はスライド式の扉に手をやったところで、店の中から「この野郎!」という声が聞こえて来る。

 どうしたのかと思って店の中に入る。

 するとそこには、いつも通りのお婆ちゃんとコワモテのスーツを着た男が居た。

 コワモテの男は、お婆ちゃんの胸ぐらを掴んでいた。



「おいおい、お婆ちゃん! どうかしたのか?」


「あっ! 敬ちゃん!」



 泣きそうになっていた、お婆ちゃんは敬次の顔を見て少し安心するのである。

 これに対しコワモテの男は「あぁん?」と敬次の方を見ると、お婆ちゃんの胸ぐらから手をパッと離す。

 そして今度は標的を敬次の方に変える。



「おい、ガキっ! 見せもんとちゃうぞ、あつかましいから目の前から消えろや」


「このお婆ちゃんは、昔からの付き合いなんすよ。何があったのか、教えて貰っても良いすか?」


「この飯に髪の毛ぇ入っとったんやわ! こんなん客に出すとか、ふざけとーやろがい!」


「おぉ! それはそれはですねぇ、ここは俺が代金を払いますから抑えては貰えませんかね?」



 どうして怒っているのかと敬次は男に聞いた。

 すると提供された飯の中に、お婆ちゃんの髪の毛が入っていたらしい。

 それを聞いた俺は、金を払うから抑えて貰えないのかと交渉を持ちかけた。

 しかし男は敬次の胸ぐらを掴む。



「ガキ、こら金の問題か? わしを舐めとったら痛い目見るど?」


「痛い目って何だよ? こっちが下手に出てると思ったら、調子に乗り腐りやがってよ!」


「おう! やっちゃろか!」


「良いぜ、外に出ろや!」



 敬次は下手に出てやっているのに、ここまでの言い方をされたら溜まったもんじゃないと苛立ちを見せる。

 もうこうなったら喧嘩するしか無いと手を払って、顔面を男の顔面を近づける。

 男の方も敬次の挑発に乗って来た。

 だから2人で外に出ようと扉の方に歩いていく。

 お婆ちゃんは敬次の事を心配して「大丈夫?」と声をかけて来てくれたので、敬次はニコッと笑って「大丈夫だから心配しないで!」と返した。


 目の前で睨み合いをしてから殴り合いを始める。

 最初の一撃が敬次の顔面にクリーンヒットし、男の方はドヤ顔をして「ふっ!」と鼻で笑う。

 しかしスッと敬次は顔を正面に戻す。

 そして男に向かってニカッと歯を出して笑う。

 この敬次の態度に男もイラッとして、思い切り何度も何度も敬次の顔面を殴る。

 それでも敬次は両手を広げて聞いてないアピールをして男を煽りまくるのである。

 男は息を切らしながら、まだ殴ってやろうとする。

 だが敬次は「時間切れだわ!」と言って、たった1発で男をKOするのである。



「雑魚がカタギを脅してんじゃねぇよ! 弱ぇなら弱ぇらしく道の端っこ歩いてろ!」



 1発でKOするくらい雑魚ならカタギを脅すなと、腹を蹴り飛ばしてやるのである。

 満足した敬次は店に戻ろうとした。

 そんな時に後ろからパチパチと拍手する音が聞こえて来て、敬次は何かと振り返る。

 そこにはニコニコしている美形の青年と、その後ろに屈強な男が2人立っていた。

 敬次は目をキュッと細めて男を睨む。

 これはオーラを見ただけで、敬次が警戒するだけの何者かというところなのだろう。



「凄いなぁ、まさか本職の人間を1発で伸すなんてなぁ。しかも何発も本気でかちまあされた後にや」


「何すか、最初から見てたんすか?」


「そうやで、少年がかちまあされるとこからね。そやけど、わざと受けてからやり返すなんて……素晴らしい漢気や!」


「別に褒められるような事じゃないでしょ? こちとら腕だけで、ここで生きてるんすから」



 突然現れた男は敬次の事を素晴らしいと褒める。

 しかし褒められたところで、嬉しいなんて思わない敬次はおちょくられているとすら感じている。

 だからズンズンッと男の方に近寄る。



「さっきから何が言いたいんすか? 俺の事を、おちょくってるんすか?」


「いやいや! あんたの事をおちょくっとーわけとちゃうよ、たやな……あんたみたいな強い子ぉはめっさ好きや、わしの舎弟にならんか?」


「はぁ? アンタの舎弟だと?」



 男は敬次の事を気に入ったみたいで、自分の舎弟にならないかと言って来たのだ。

 いきなりの発言に敬次は困惑する。

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