018:乾杯
018:乾杯
敬次と藤田は、リーダーの男に売人のアジトまで案内させるのである。
到着したのはボロボロのアパートだった。
全くもって末端の末端の扱いというのは、とてつもなく悪いんだなと感じる。
しかしとりあえず部屋の中に入った。
部屋の中は、外ほどは汚くなく小綺麗にされていた。
これなら良いかと敬次は、部屋の中のソファに腰を下ろし、藤田は地面に正座する。
少し落ち着いたところで敬次は、懐から財布を取り出し万札を6枚取る。
そしてリーダーの男の前に差し出した。
「こ これは?」
「お前の病院代だよ、折っちまって悪かったな。少しイライラしてたもんで、お前にあたっちまった」
「い いえ気にせんといて下さい。それにしても6万は多すぎですわ、足る分はお返しします」
「お前って意外と真面目なんだな。良いよ、病院に行った後にでも美味い飯を食って来い。そうすれば少しでも早く指も治るはずだ」
男は敬次の顔と万札を交互に見てから、これは何かと困惑しながら聞く。
指を折ってしまったから申し訳程度の病院代だ。
しかし6万は多過ぎると、男は返そうとするのである。
さっきまでは売人たちのリーダーとして、悪い奴だと思っていたが、この男は良い奴だと敬次は笑った。
余った分は、それで飯を食べろという事だ。
美味い飯を食べれば、それだけ指の治りも早くなるだろうと敬次は語った。
男は申し訳ないと思いながら「有り難く頂きます」と感謝を述べてから自分の財布にしまう。
「それじゃあ行って来るんで、この部屋は自由につこうてくれても構いませんで。冷蔵庫の中にはビールもあるんで、それも自由に飲んでもうても構いまへん」
「あぁ言葉に甘えて、ビールを貰うよ」
敬次に言われた通り、病院に行く事にした。
少し気を許している男は、敬次たちに部屋を自由に使って貰っても良いからと言った。
言葉に甘えて自由にやらせて貰うと敬次は返事をする。
男は「それじゃあ」と言って部屋を出て行った。
「それであんなに渡してええんですか? あんな下っ端に、6万も渡す必要なんて……」
「なんだ? 俺の決定に文句でもあるのか?」
「ち ちゃいます! そういうわけでは……これから金も必要になるやろに、こんなところで使う必要なんて、っと思っただけなんです」
「お前の言いたい事も理解できるけどよ、アイツらは下っ端でこき使われているだけの市民だ。そんな市民の指を折っちまったんだから、金くらい渡しても罰当たりじゃないと思わないか?」
「た 確かに……さすがは兄貴です!」
藤田は男に6万も渡した事に疑問を持っていた。
その態度に敬次は、少しイラッとして藤田を睨みながら文句があるのかと問いただした。
しかし文句をつけたいわけじゃない。
これから金が必要になるから、ここで使う必要は無いのではないかと思っていたのだ。
もちろん敬次は、それを理解している。
だが指を折った相手が、ただの売人の下っ端であるという事でカタギの人間だろうと話す。
だから金を渡して穏便に済ませようとしたのだ。
敬次の狙いを聞いた藤田は「さすが兄貴」だと、普段よりも聞き分け良く納得するのである。
「アイツ、ビール飲んでも良いって言ってたし飲むか。大仕事をする前の景気付けって事で」
「ええっすなぁ! 飲みましょう、飲みましょう!」
敬次と藤田はアパートにある冷蔵庫からビールを取り、面倒な仕事の前にカシュッと開けて乾杯した。
2人はゴクゴクッと飲んでから「ぷはぁ!」と最高に美味いと全身で表現する。
藤田は立ち上がってツマミを探しに行く。
そのタイミングで藤田のスマホが鳴る。
画面を見てみると、そこ表示されていた名前は円のもので調べがついたのかと敬次もソファから立ち上がる。
藤田は敬次の顔を見てから電話に出る。
「もしもし」
『あぁ藤田の叔父貴ですか? 言われた通りに、高級ホテルについて調べてみましたよ』
「どうやった? なんか周について分かった事あるか?」
『はい、それっぽいところを見つけましたよ』
「そうか! それでどこが怪しいんや?」
円は言われた通りに、周総長が潜伏しているであろう高級ホテルのスイートについて調べた。
その結果はどうだったのかと藤田は聞く。
すると円は自分の操作網を駆使して調べた結果、めぼしいところを発見したと報告する。
話を聞いた藤田は「本当か!」と敬次の方を、チラッと見て頷くのである。
敬次はガッツポーズをした。
『センチメンタルホテル神戸ってところです。そこで不審な若い男たちが、スイートルームを出入りしてるって情報を手に入れました』
「センチメンタルホテル神戸ってホテルやな? 分かった、こっからはわしらでやるわ」
『まだ向こうの数も良く分かっていないんで、そこは慎重に動いて下さいね』
円から調べた事についての話を聞いて、再確認に復唱してから記憶する。
あとは全てこちらでやると電話を切ろうとした。
円は向こうの数は、まだ分からないから気をつけるように言ってから電話を切るのである。
電話を切った藤田は、パッと敬次の方を振り向く。
「兄貴、めぼしい場所を見つけましたわ。今からでも行ってみまひょか?」
「あぁ解決するのは早い方が良いからな。とりあえずセンチメンタルホテル神戸に行ってみるか」
今からでもホテルに向かうかと聞く。
敬次は缶ビールを一気飲みしてからテーブルの上に、バンッと缶を置いて立ち上がる。
直ぐにでも解決した方が良いからと外に出る。
藤田は舎弟としてタクシーを停めさせて、2人は言われた通りにセンチメンタルホテル神戸に向かう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
悠馬若頭は自分の事務所で、これからの身の振り方を子分たちと話し合っていた。
すると子分が転びながら事務所の中に入って来る。
これに「何を焦ってんだ?」と悠馬若頭は、重要な会議をしてるんだから邪魔するなと叱る。
「す すんまへん! けど外に……」
「外に何があるっちゅうんや? こっちは重要な話し合いをしとるんやど、そやからさっさと話せんかい」
「小笠原の親分と、酒井若頭が来とるんです!」
「なに!? 小笠和の親分たちが来たやと!? 直ぐに事務所の中に通さんかい!」
どうやら悠馬若頭の事務所に、小笠原組の小笠原組長がやって来たと言うのだ。
それを聞いた悠馬若頭は立ち上がって困惑する。
しかし待たせるわけにもいかないので、直ぐに事務所の中に入って貰えと準備をする。
数十秒後に小笠原組長と酒井若頭が入って来た。
「おぉ悠馬くん、せんどぶりやな。ごっつい大きなったんちゃうんか?」
「小笠原の親分、せんどぶりです。お元気そうで、何よりです……それで本日はどないしたんですか?」
「ちょっと大切な話をしとうてな、わしらと悠馬くんだけにしてくれんかいや?」
小笠原組長は大切な話があるから酒井若頭と悠馬若頭と3人だけにしてくれないかと頼んだ。
指示通りに組長室に案内し、他の組員たちは事務所の外に出ているように指示を出す。
これで人払いが終わったので小笠原組長の指示通りだ。
「それで詳しい話を聞かせて貰えまへんでしょうか?」
「おぉちょっとな、ナイーブな話なんやけどな……今回の話は口外せんでくれよ?」
落ち着いたところで悠馬若頭は、どんな話なのかと小笠原組長に本題を聞くのである。
これに小笠原組長は、ナイーブな話だから口外しないように前置きをしてから話を始めた。




