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SCUM〜敗者たちの讃美歌〜  作者: 灰谷 An
第1章・兵庫県統一 編
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014:クリアしなきゃいけないこと

014:クリアしなきゃいけない事

 天馬会長は小笠原組長と口論になるが、最終的には笑みを溢しながら喧嘩をしに来てはいないと主張する。

 そんなわけが無いと小笠原組長は考えている。

 しかし面倒な事になると思ったので、何も言わずに黙って座っているのである。

 代が代わるって話もしたし、もう用事を終わったと考えた天馬会長は、出されたお茶を一気に飲む。

 そして「ふぅ……」と言ってから立ち上がる。



「それじゃあ話も終わったし、これから行かなあかんとこもあるんで失礼しますわ」


「ちょっと待たんかい! オヤジの話は、まだ話が終わっとらんって!」


「いやいや、終わったから。これ以上、わしらの邪魔をされても困るし……小笠原組には迷惑をおかけしまへんから」



 天馬会長が立ち上がったのを見て、敬次は扉の方に行ってガチャッと開ける。

 扉の方に向かって歩いていくのだが、その天馬会長に酒井若頭が呼び止めた。

 まだ小笠原組長の話は終わっていないと。

 しかし天馬会長は、もう終わっているからと言って、何も言わせないようにするのである。

 天馬会長は悪いようにしないからと言って、また出口の方に向かって歩き出す。

 すると天馬会長は「あ!」と言ってから小笠原組長の方をクルッと振り向く。



「言いわっせとったけど、尾田組の2代目継承の見届け人には蝮一家の斎藤総長に頼もう思いよります」


「蝮一家? 蝮一家って、あの岐阜県のか?」


「えぇ蝮一家の斎藤総長は、組長と五分の兄弟やったもんで」



 天馬会長が言い忘れたのは、2代目の継承式をする時の見届け人についてだった。

 見届け人に選ばれたのは、岐阜県全土をシマ内にしている〈蝮一家〉の《斎藤 道良》総長である。

 この斎藤総長は尾田組長と五分の兄弟分だったのだ。

 何よりも後ろ盾として最高の人材である。

 これに小笠原組長は、とてつもなく動揺して話をしようとするが、天馬会長は部屋を出て行った。



「オヤジ、どないします? うちらとしては天馬に、跡目を継がれるのは面倒ですよ」


「そら分かっとー……そやけどなぁ、蝮一家が後ろ盾になっとったら動くに動けんど?」


「やったら、悠馬を使うんはどないでしょ? 不満を持っとーであろう悠馬に兵隊とかを送り込んで、尾田組に弓を引かすんですよ。きっと執行部の中にも不満を持っとぉ、人間はおる思いますし」



 酒井若頭は部屋を出て行った天馬会長たちについて、小笠原組長にどうするかと聞いた。

 小笠原組からしたら天馬会長が跡目を継ぐのは、それはそれは面倒な事になりそうだと思っている。

 だからどうにかしなければいけない。

 それは小笠原組長も理解しているが、後ろ盾として蝮一家が現れたら手を出しづらい。

 蝮一家は兄弟の盃を交わすまで、何回も尾田組と激しい抗争をした武闘派集団である。

 そんな人間と真っ向から戦うわけにはいかない。

 だから頭を抱えているのだ。


 そこで酒井若頭は悠馬若頭を、使うのはどうかと小笠原組長に進言するのである。

 悠馬若頭と執行部の中にも不満を持っている人間がいるだろうから、ソイツらに空気を入れて弓を引かせようと考えているのだ。

 場合によっては小笠原組の人間を出す事も考える。

 それを聞いた小笠原組長は、ソファの背もたれにもたれかかって顎を触り「おぉ」と納得している感じがした。



「よし、わしらは悠馬を支持するど。場合によっては、うちの人間を兵隊として出しても構わん!」


「分かりました、とりあえず悠馬に接触してみますわ。そっから話を詰めていきましょ」


「絶対に天馬にバレんように慎重に動けよ?」


「はい、慎重に動きます」



 酒井若頭の考えを採用し、小笠原組長は悠馬若頭を支持する事を決めた。

 そして兵隊も出してやれと言うのだ。

 その上で天馬会長にバレないように、慎重に慎重に動くように念を押すのである。


 一方で事務所を後にした天馬会長たちは、敬次の運転で天翔会の事務所に向けて出発する。

 その車中で敬次はミラーで天馬会長の方を、チラチラ見ながら話しかける。

 それは尾田組の2代目を継ぐ話だ。

 敬次からしたら、今さっき初めて聞いた話だ。



「オヤジ、尾田組の2代目を継ぐんですね。あの時、初めて知ったんで声が出そうになりましたよ」


「そうやな、われには言うとらんかったさかいな」



 敬次には言わずに、小笠原組に行ったので天馬会長は悪ガキのようにニヤニヤしながら楽しそうにしている。

 とりあえず敬次は「おめでとうございます」と言った。

 この祝福に天馬会長は「おう!」と答える。

 すると今度は天馬会長は、運転している敬次に「そや」と言って話しかける。



「敬次、われが天翔会の2代目を継げや」


「はい!……ん? えっ!?」



 いきやり天翔会の2代目を継げと言われた敬次は、一瞬理解できずに普通に返事をした。

 しかし頭が理解した瞬間、困惑してハンドルを間違えて車がギギッとスリップしそうになる。

 ギリギリで車体を戻した。

 だが今だに敬次は動揺している。



「ど どういう事ですか? どうして自分が、天翔会の2代目を継ぐって話に……あぁ冗談ですか! もうオヤジは、冗談が好きなんですから」


「こんな大切な事で冗談なんか言うか。ちゃんとわれに、天翔会を継がせよう思いよるんや」


「いや、それにしたってどうして俺なんですか。代理がいるわけでも無いですし、正当にいけば平手の頭が2代目を継ぐはずじゃあ」



 敬次は動揺しながらも冗談じゃないかと「止めて下さいよぉ」と苦笑いしながら言った。

 しかし天馬会長は真剣な表情で冗談じゃないと話す。

 本当なのかもしれないと思った敬次は、それにしても別に継ぐ人がいるんじゃないかと謙遜する。

 その候補として平手若頭が筆頭だろうと思っている。

 だから平手若頭に継がせた方が良いと意見した。



「わしも1度は考えてんけどな、平手に断られてん」


「私は歳ですし、オヤジが尾田組の2代目を継いだら舎弟になって隠居の準備をしよう思いよるんですわ」


「そういう事ですか……」


「それに他の人間たちは自分の組を持っとーし、持っとらんのは敬次だけやしな。わしが武力で作り上げて来た天翔会を継げるんは、もう敬次しかおらん思いよー」



 平手若頭が継ぐ話も出たが、本人は歳だし引退する準備を始めているからと辞退した。

 他の人間たちも自分の組織を持っているので、持っていない人間が敬次しかいなかった。

 そして何よりも武闘派として自力で、会を大きくして来た天馬会長からしたら、武力が会でも随一な敬次しかいないと思ったのである。

 それを聞いた敬次は、胸がジーンッとした。

 今まで必要として貰った事が無かった。

 だから敬次は感動しているのだ。



「皆さんが良いと言って下さるのなら、是非とも天翔会を継がせて頂きたいです!」


「それでええんや、われには期待しとるんやからな。それと敬次が天翔会を継ぐ上で、クリアして貰わなあかん事が1つある」


「く クリアしなきゃいけない事ですか?」



 敬次は天翔会を継ぐ覚悟をした。

 この覚悟に天馬会長は賞賛を贈る。

 しかし天翔会を継ぐ上で、やらなければいけない事が1つあると伝えるのである。

 敬次は運転しながら「やらなきゃいけない事?」と何をしなきゃいけはいのかと疑問を持つ。

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