013:汚れ仕事
013:汚れ仕事
約22年前、明石市に1つの半グレ集団があった。
そのチームの名前は〈チーム尾田〉である。
総長は後に天馬と悠馬の父親となる《尾田 秀三》だ。
チーム尾田がアピールポイントとしていたのは、圧倒的な武力と肝の座った根性である。
本職のヤクザともバチバチにやり合うだけの力を持っていて、周りからは恐れられていた。
「総長、またコイツらが司馬組と揉めたみたいです」
「またかいや。どこで揉めてん?」
「大窪付近です。どうやら向こうが、店を出したみたいです」
「そうか、司馬組が手ぇ出して来たのか……おい! 直ぐに動ける人間は、どんだけおる?」
「今すぐにですと、20人くらいですかね」
「よし! 準備させろ、明石で店を出すリスクを教えちゃろうぜ」
チーム尾田と4代目司馬組は、何回も喧嘩を繰り広げている因縁の相手だ。
今回は司馬組の組織が、チーム尾田の縄張りである明石市でキャバクラを出したのである。
報告を受けた尾田総長は人間を集めさせる。
これは明らかに喧嘩を売って来ているとして、直ぐに対処しなければいけないと言うのだ。
チーム尾田はメンバーを揃えて、司馬組が開いた店に押し寄せるのである。
20人で一気に飛び込んだ。
するとそこにはチャカを装備したヤクザが、5人も立っていたのである。
そして全てのチャカが尾田総長の方を向いている。
こっちはチャカを持っていないので動きが止まる。
何も仕掛けて来ないのを、どうしてなのかと思っていると5人の後ろから1人の男が出て来た。
「おぉわれらが司馬組に、なんべんも喧嘩を売っとー不良やな?」
「ワレ、誰どいや? ここがチーム尾田の縄張りやって、知っとって店を出しとんか?」
「おぉ当たり前やろ! わしは司馬組で若衆をやらして貰うとー小笠原組の小笠原ってもんや」
ここに店を出したのは、当時は若衆だった小笠原組の小笠原組長だった。
一向にチャカを下げないので、尾田総長たちに緊張感が走り続けるのである。
チラチラとチャカを見ながら話し続ける。
明らかにチーム尾田が怒ってくるのを理解した上で、小笠原組長は明石市に店を出したのだ。
「こっちとしてはな、ここでわれらを撃ち殺したってええんやぞ? やけど、それをせん理由が分かるか?」
「そんなん知らんわ! 殺すなら殺せや、こっちは命乞いはせんど! 撃たれて殺される前に1人の鼻を引きちぎって、目ぇくり抜いて、喉元を食い千切っちゃる!」
「その意気込みは褒めちゃるけどよ、こんなところで死ぬんは勿体あらへん思わんか? 人間っちゅうんはよ、死場所っちゅうんがあるんやど。われらの死場所は、こんなとこじゃねぇんやで」
入って来た瞬間に撃ち殺しても良かったのに、どうしてそれをしなかったと思うかと小笠原組長は聞く。
それに対して知らないと答え、殺すのならば命乞いをしないから殺せと両手を広げて言った。
その際は死ぬ前に暴れる準備はできていると宣言する。
普通ならば撃っていても良いが、小笠原組長は一向に撃とうとしないのである。
何なら「ここは死場所じゃない」という言葉を使って生きるように説得して来るくらいだ。
「何が言いたいんか、一向に分からんわ! われはわしらを殺す為に、ここまで来たんちゃうんか!」
「われらを殺すんやったら、もっと上手うやっとーわ。わしがここまで来たのは……われらをスカウトする為や」
「わしらをスカウトしに来た? また分からんくなって来たわ……われはわしらが邪魔なはずやろ? なのに、なんでスカウトなんて言うとるの」
もう言いたい事が分からなくなった尾田総長は、小笠原組長に何をしたいのかと聞いた。
本当に殺そうとしているのならば、こんなところじゃなくて、もっと上手くやれるところでやっているという。
小笠原組長の本当の目的はスカウトする為だった。
しかし殺そうとしているのに、スカウトという相対する言葉が出て来て尾田総長は、また一気に混乱してしまう。
「このままじゃあ、司馬組の本家は本気で抹殺しに動き始める。本職のヤクザが本気になったら、さすがのわれらでも手に負えんくなるど? そうなったらチーム尾田は壊滅……いや、全滅するやろな」
「そうなったかて最後まで戦うまでや! わしら半端者は、そうやって戦わな生きていけんねや!」
「われは確かにそうかもわからんな。われの子分たちにもぎょうさんの大切な人がおるんやど? こんなところで子分が死んだら、その人数の分だけ悲しむ人が増えるんや。そんな食うに食えんプライドの為に、子分の大切な人を泣かすんけ?」
このまま司馬組と揉めたままでは、司馬組が本気でチーム尾田を潰しに来るという。
本気になった本職のヤクザに勝てる見込みは薄い。
そうなればチーム尾田は壊滅どころか、全滅してもおかしくは無いと小笠原組長は進言する。
忠告を受けた尾田総長だが、そんなので逃げるはずが無いと最後の最後まで戦う事を覚悟していると言った。
しかし小笠原組長は神妙な顔をして話す。
尾田総長は自分自身が死ぬ分には良いだろうが、子分たちが死んだら死んだ人間の数だけ悲しむ人がいると真っ当な事を小笠原組長は語った。
言われてみれば確かにと尾田総長は言葉を失う。
「そやからな、大切な人を守るって意味でもウチに入らんかい。ほんなら明石にも手ぇ出さんように、わしが本家に話を通しちゃる。それじゃああかんか?」
「ほんまに明石から手ぇ引いてくれるんけ? われの子分になったら、わしらで明石を回さして貰えるか?」
「あぁわしが男として約束を守っちゃる!」
「分かった……いや、分かりました。チーム尾田は、小笠原組にお世話になりますわ」
こうしてチーム尾田は、小笠原組に入る事になった。
名称もチーム尾田から尾田組に変更し、小笠原組の人間たちではできなかった武闘系の仕事を引き受けた。
そしてそこから大きく活躍し、尾田組長は小笠原組長を本家の若頭にまで押し上げたのだ。
天馬会長は小笠原組長と口論になった際、尾田組長がして来た事を主張する。
そう小笠原組の人間ではできなかった汚れ仕事のほとんどを、尾田組がして来たのだから感謝して欲しいのだ。
それを明らかに忘れているみたいである。
「アンタらは何考えとるんや? 汚れ仕事もできん、まともに戦う事もできん……そんなアンタが、司馬組の頭になれたのは、尾田組が代わりにやっとったからやろ! それをわっせていちびるのもええ加減にせえ!」
「天馬、われまさか組を割るつもりとちゃうやろな? そんな事をしてみぃ、われのとこの組なんて潰しちゃるからな!」
「勘弁して下さいや、別にわしは喧嘩をしに来たわけとちゃうんですから。わしはただ組を継ぐんは自分やと、それを伝えに来ただけなんすよ」
ピリピリしたムードに、小笠原組長は天馬会長に組を割るつもりかと恐る恐る聞いてみた。
しかしさっきまで怖い顔をしていた天馬会長だったが、ニカッと子供のような笑みを浮かべる。
自分たちは2代目を伝えに来ただけで、別に喧嘩をしたくてしに来たわけじゃないと言うのである。
この落差に小笠原組長は「はぁ……」と溜息を吐く。
どこまでふざけた奴なのかと。




