012:小笠原組
012:小笠原組
天馬会長が尾田組の事務所を出ると、敬次が深々と頭を下げて「オヤジ、お疲れ様でした!」と労う。
本当に疲れている天馬会長は、深く溜息を吐き「おう」と答えるのである。
そして車の近くに来たところで、敬次は扉を開ける。
天馬会長は扉を開けて車に乗るが、平手若頭は自分で扉を開けて乗り込むのだ。
丁寧に扉を閉めてから敬次は運転席に回る。
「オヤジ、このまま事務所に帰りますか?」
「いや、少し寄るところがある」
「そうですか、どちらに行きますか?」
「小笠原組の事務所に行ってや」
「お 小笠原組ですか? それって尾田組の上部団体……分かりました! 直ぐに向かいますね」
天馬会長が寄らなければいけないところとは、尾田組の上部団体である小笠原組の事務所だった。
それを聞いた敬次は少し驚いた。
だが直ぐに返事をして、エンジンをかけて車を小笠原組の事務所に向けて出発させる。
こんな時の為に敬次は事務所の場所を把握していた。
その為、迷う事なく真っ直ぐに事務所に向かっている。
「オヤジ、小笠原の親分は了承してくれるやろけ?」
「どうやろなぁ、あの人は扱いづらい人やからな。ちゅうよりも……いや、こら言わん方がええか」
「言いたいこと分かりますわ」
平手若頭は天馬会長に話しかけた。
その内容は小笠原組の小笠原組長に、何らかのお願いをして了承を貰えるかという話だった。
天馬会長は、その答えとして分からないと言う。
どうやら小笠原組長という人物は、癖のある人らしく扱いづらい人だと天馬会長は語る。
しかしもう1つ何かを言おうとしたが言葉を慎んだ。
平手若頭は天馬会長の言いたい事を汲み取って、その気持ちは理解できると肯定するのである。
そんな話をしていると小笠原組の事務所に到着する。
事務所の前で車を止めると、敬次は急いで車を降りて天馬会長の方の扉を開ける。
すると小笠原組の新入りの若衆が数人出てくる。
そして天馬会長たちに「お疲れ様です!」と挨拶する。
その若衆の1人に敬次が車のキーを渡し、止めて良いところに移動させる。
敬次からしたらオジキだが、そこは天馬会長の顔が立っているので、別に問題にならない。
「おぉ天馬とちゃうか! 事務所に顔を出すなんてせんどぶりやろ? 今日はどないした?」
「酒井の頭、せんどぶりです。ちょっと小笠原の親分に話がありまして、親分はおってですか?」
「おるどおるど! さぁ中に入れや」
天馬会長を出迎えてくれたのは、小笠原組で若頭を務めている《酒井 大禅》という男である。
敬次たちは事務所の中に入る。
すると小笠原組長が手を挙げて「せんどぶり!」と言って天馬会長を歓迎する。
そしてソファに座るように促す。
言われた通りに天馬会長と平手若頭はソファに座る。
案内をした酒井若頭は小笠原組長の隣に座った。
「それで今日はどないしてん?」
「今日は、うちの組長について話に来ました」
「ん? 秀三についてか? そういうたら秀三は、病気になって休んどーって話やったな?」
「はい、話っちゅうのも組長の病気の話なんです」
全員が着席して落ち着いたところで、今日はどうしたのかと小笠原組長は天馬会長に話を聞く。
天馬会長は現組長である秀三組長についての話だと伝えると、小笠原組長は秀三組長が病気であるのを思い出して心配してくれるのである。
話に食い付いてくれたので、天馬会長は秀三組長の病気の話だと付け加えた。
「容体が芳しゅうのうて、組長は引退される事を決意したんですわ」
「そ そうかぁ……秀三には期待しとってんけどなぁ。もう少ししたら本家の盃かて降ろして貰う手筈やったんど」
「親分にそこまで言うて貰えたら組長かて本望でしょう。これからはわしが跡目を継ぐんで、この先もよろしゅうお願いします」
秀三組長の容体が芳しくないと知った小笠原組長は、とても残念がるのである。
期待してくれていたみたいで、もう少し時間が経てば司馬組の盃をやって直参に上げるつもりだったと天馬会長に話した。
天馬会長はお世辞で、そんな事を言って貰ったら本望だろうと感想を伝える。
そして天馬会長は続け、自分が跡目を継ぐからこれからもよろしくお願いしますと頼んだ。
それを聞くと小笠原組長の動きがピクッと止まった。
顔をゆっくり上げながら「天馬くんが継ぐんか?」と聞いて来たので、天馬会長は「えぇ、まぁ」と答える。
「わしが聞いた話じゃあ、2代目に関しては悠馬くんが継ぐって聞いたど? それがなんで天馬くんが継ぐ事に?」
「組長としては決めかねとったみたいですけど、最終的に自分が2代目を継ぐ事になりましてん。空いた組長代理の席には、その悠馬が着く事になったわけです」
「おいおい、2代目は普通、若頭が継ぐんが筋やろ? それで組長代理の天馬くんが、舎弟頭か相談役に下がるんが流れやろ」
「確かにそれが普通なのかもしれまへんが、こら先代が決めた事ですからね。それをわしらが文句を言うて変えるんは、それこそ筋違いでっしゃろ?」
小笠原組長が聞いていたのは、悠馬若頭が2代目を継ぐという話らしい。
ここまでの経緯を天馬会長が詳しく伝える。
それを聞いても納得できずに、筋目の話をして来た。
天馬会長は同じ話をしなければいけないのかと、少し不機嫌そうに溜息を吐いてから自分の意見を話した。
「それにしても2代目を継がすなら、悠馬くんの方がええんやんけ? ほら文句をつけてくる人間がおらんとも限らんやろ?」
「親分の言いたい事も理解できるし、その意見はめっさありがたい限りです。そやけど、もう決まった事なんで言いたい事がある奴がおったなら好きに言わしておいたらええんですよ」
「そういうわけにもいかんやろ? 周りから筋を違えた言われたら厄介やど?」
「親分、これ以上の内政干渉は止めて貰えます? もうわしらは決めた道を行くだけなんで」
天馬会長の主張を聞いた小笠原組長だが、全くもって聞く耳を持っていない。
何度説得しても2代目は悠馬若頭に継がせろと言う。
波風をできるだけ立てたくない天馬会長は、貰った言葉はありがたいが言いたい事がある奴が居たとしても、もう決まった事だから言わせておけば良いと突っぱねる。
しかしそれでも小笠原組長は引き下がらなかった。
この問答で我慢していた天馬会長だったが、遂に小笠原組長に内政干渉はしないで欲しいと、キッパリと言った。
すると酒井若頭がテーブルを叩いて怒鳴る。
「天馬っ! オヤジに対して、その物言いはなんや? オヤジは、われらを心配して話して下さっとるんやど!」
「そやから、それが内政干渉や言いよるんですわ!」
自分のオヤジに対して、そんな口を聞いた天馬会長に対して酒井若頭は注意を行なった。
もう堪忍袋の尾が切れている天馬会長は、それが大きなお世話で内政干渉だと思っている事を全てぶち撒けた。
今度は小笠原組長が「おい!」と怒鳴る。
「ガキのわがままは、これまでにせえ! われらのような他組織のはぐれ者たちを、この地位まで引き上げたのはわしらやろがい!」
「いちびんな! われらに助けられた事なんてねぇよ、この組織の汚れ仕事をやっちゃったのはどこの誰や……わしらやろがい! それにワレを、本家の頭にまでさせたのは親父やろが!」
怒鳴られた天馬会長は、完全に言い返すのである。
小笠原組の汚れ仕事をやったのは尾田組であり、小笠原組長が司馬組本家の頭になれたのは尾田組のおかげだ。
そう主張され小笠原組長は「な……」と言葉を失う。




