011:若返り
011:若返り
悠馬若頭は自分が若頭なんだから、2代目を継ぐのは自分が相応しいと主張する。
しかし天馬組長代理は、先代が決めた事に文句を付ける事こそが筋違いだと否定した。
さすがに天馬組長代理の主張の方が正しい。
悠馬若頭は、この主張を諦める。
「それにしたかて、なんで若頭を外されとるんどいや!」
「さっきから何言いよるんや? 若頭から組長代理なんやから出世も出世やろや」
「普通は跡目を継ぐんは若頭やろがい! その筋を親父が曲げたんやったら、組長代理のわれが訂正しろや!」
悠馬若頭は今度、別の視点で主張をして来た。
それは組長になるのは天馬組長代理だとしても、どうして自分が若頭から外されなきゃいけないのかと言う。
だが天馬組長代理からしたら、若頭から組長代理なんだから出世だろと悠馬若頭の主張を否定した。
しかし若頭が跡目を継ぐのが、それが筋だろうと別角度で攻めて来るのである。
「おい! もうええ加減にしろ、ガキとちゃうんやから執行部の人間が駄々をこねるんとちゃうわい!」
「たかだか組長代理がいちびるなや! 親父に自分を跡目にするように言うたんちゃうんか!」
「頭っ! そら言うたらあきまへんよ。代理かて、この組やオヤジの事を考えて言いよるんですから」
天馬組長代理と悠馬若頭が口論になったところで、悠馬若頭が過ぎた言葉を言ってしまった。
これに佐久間本部長は、それは言ってはダメだと悠馬若頭を注意するのである。
注意を受けてから悠馬若頭はバツが悪そうにする。
「代理も代理じゃわい! そんな大事な事を執行部の我々に相談も無しに決めるんですから」
「そやから今、相談しとるんやろ? これから確実に代替わりは行なわれる。わしは尾田組を日本で1番の任侠団体にしたい思いよー」
佐久間本部長は天馬組長代理にも相談も無しに、跡目を決めたのには文句を付けた。
しかしそれにも冷静に天馬組長代理は反論した。
相談をして欲しいと思ったから、今ここで相談してるんだろうと主張する。
そして続けて自分の組長としての展望を話す。
尾田組を作り、今の地位まで押し上げたのは先代だ。
その先代の跡を継ぎ、意思を継ぎ、尾田組を日本一の組織にしたいと天馬組長代理は語った。
展望を聞いた執行部の人間たちは、グッと心を掴まれたように押し黙ってしまう。
次の瞬間、悠馬若頭のテーブルを叩いて立ち上がる。
視線は悠馬若頭の方に向くと、悠馬若頭は席を離れ扉の方に向かって歩き出した。
「悠馬! 執行部の会議中やど、どこに行くつもりや?」
「こんなふざけた会議に、これ以上付き合うつもりはあらへんわ! それと2代目に関しては、わしは認めとらんからな」
「われが認めようけど、認めまいが2代目の継承は来月の終わりに執り行われる事が決まっとー。われの意思とは関係のう」
「ちっ! わしは認めんからな……」
もうこんな会議に出席している意味は無いと、悠馬若頭は認めないと捨て台詞を吐いて出て行った。
執行部の人間たちは立ち上がる者や、頭を抱える者などがいて、てんやわんやしている状態だ。
そんな中で天馬組長代理はパンッと手を叩く。
音に反応して執行部の人間たちは、視線を音が鳴った天馬組長代理の方に向ける。
「悠馬への処分は後にするとして、話を先に進めるど?」
「これ以上の話があるんですか?」
「2代目体制にするにあたっての人事に関して、組長と共に話し合いを行なった。今から暫定の人事について話をする」
動揺している執行部の人間たちに、悠馬若頭への処分は後で考えると言った上で、話を先に進めると言う。
柴崎若頭補佐は、これからどんな話をするのかと聞く。
今回の議題は2代目が天馬組長代理が内定しているという話では無いのかと疑問を持ったのだ。
しかしこれから話をされるのは、2代目体制になるにあたって新人事についてである。
まだ暫定ではあるが、役職が変わるのは重要な事だ。
その為、執行部の幹部たちに緊張感が走る。
「まずは新しい若頭についてだが、佐久間組の《佐久間 信也》に任そう思いよー」
「はい! 任して下さい」
新しい若頭に選ばれたのは、初代では本部長を務めていた佐久間組の佐久間組長である。
名前を呼ばれた佐久間本部長は、机の下でガッツポーズをしてから立ち上がって頭を下げて挨拶した。
それに天馬組長代理が「うんうん」と頷く。
「次に本部長やけど……柴勝連合の《柴崎 勝栄》総長に任そう思いよー」
「おし! わしは任してーてくれてや!」
組織のNo.3である本部長は、数いる若頭補佐の中から柴勝連合の柴崎若頭補佐が選ばれた。
この柴崎若頭補佐に関しては、隠す事なくガッツポーズをして天馬組長代理に挨拶をする。
その姿に天馬組長代理は笑みを溢す。
「若頭は2人……1人は米英会の《米沢 英樹》組長。もう1人は瀧川組の《瀧川 将一》組長や」
『よろしゅうお願いします』
若頭補佐に選ばれたのは、前回から若頭補佐である米沢若頭補佐であり、若頭補佐に出世したのは普通の幹部だった瀧川組の《瀧川 将一》幹部である。
2人は冷静に挨拶をして喜んでいるようでは無かった。
その2人の反応に気合が入っていないように見えるが、天馬組長代理は目の奥のやる気を感じている。
これが暫定で決まった新人事だ。
このメンバーは何より、少し前の人事によって執行部の若返り化で幹部入りした人間たちである。
だから全員が、ヤクザの世界からしたら若い。
佐久間本部長は24歳、柴崎若頭補佐は30歳、米沢若頭補佐が23歳、瀧川幹部が32歳だ。
何なら組長になる天馬組長代理は21歳である。
「ええか? 組長は少し前に、この組を若返らそうと人間を大いに入れ替えた……そら故に歳は若なったけど、逆に他組織から若いからとねぶられるようになった。そんな事は絶対にあったらあかん! わしらはこれから2代目になるにあたり、本気で日本の頂点を狙うど!」
『はいっ!!!!!』
天馬組長代理は最後の最後に、若返りを果たした自分たちだが周りから舐められているのを口にする。
それを聞いた幹部たちの表情が変わる。
ヤクザの世界では舐められたら終わりなのだ。
だから天馬組長代理は、これから2代目になったら本気で日本一の任侠団体にすると喝を入れる。
その喝に呼応するように執行部たちは返事をした。
組員たちの気合いを感じた天馬組長代理は「うんうん」と頷いてから「以上!」と言って笑った。
そのまま会議室を後にする。
執行部の人間たちは「お疲れ様でした!」と頭を下げ、天馬組長代理が出ていくのを待つ。
「オヤジ、どないでした?」
「ん? そらあ大変な事になったど。悠馬は途中で勝手に部屋を出ていくし、執行部の人間の顔はおとろしいしな」
「そら大変でしたね、これからどうします? このまま事務所に戻りまっか?」
「このまま事務所に往んで、一杯やりたいとこやが……寄らなあかんところがあるからな」
部屋を出た天馬会長のところに、平手若頭が駆け寄って会議はどうだったか聞く。
それはそれは大変だった事を天馬会長は話した。
聞くだけで疲れそうだと平手若頭は笑って返す。
これから天翔会の事務所に帰るかと平手若頭が聞くと、早く帰って酒を飲みたいと天馬会長は愚痴を溢す。
しかしそういうわけにはいかないらしい。
これから少し寄らなければいけないところがあるらしく神妙な顔をして事務所の外に出る。




