僕たちが今日を過ごすのは本当に一度目なのか。
ある日。公園のベンチに座ってご飯を食べていた。すると、隣のベンチに座っている現代の日本には見合わない中世貴族のような服装をしている男がいる。そいつは呟いた。
「僕たちが今日を過ごすのは本当に1度目なのか。」と。
僕たちが今日を過ごすのは一度目なのか?
「一度目に決まってる。」
あまりに意味不明な疑問に思わずそう答えた。すると男は微笑んで言った。
「もし、1日が終わったとき世界の時間か巻き戻されて、かつ人間の記憶はリセットされるとしたら?本当に1度目だと断言できるのかい?」
そう言われると言い返せなくなる。なんとか反論を考えてみる。
「記憶がなくなって時も戻るなら前回の1日と同じ行動をするってことだろ?それならデジャヴとか、身体が覚えてたりするんじゃないか?」
男はまたも微笑む。
「デジャヴなんて過去に似た経験があっただけで感じるのだから根拠にはならないし、身体が覚えてるなんて感覚的すぎて論理的じゃないよ。」
正直、返す言葉もない。再び反論を考えている内にその男は立ち上がる。
「悪いが僕はそろそろ行くよ。用事があるのでね。」
手をひらひらと振りながら去っていく。
気づけば空が赤い。もう夕方だ。
「帰るか。」
そう言って帰路をたどるが、どうしてか先ほどの疑問が頭にちらつく。本当は分かっている。きっとこの疑問に答えはない。だれも分からないのだから。しかしどうしても答えがほしい。昔から一度気になるとずっと考えてしまう。やはり、答えのない疑問に対して時間を浪費するのは勿体ない。そう結論付け、思考のせいで止まった歩みをもう一度進めようとすると、肩に手を置かれた。ビクッと体を震わせながらも後ろを見る。そこには白髪のロングヘアで、どこか気の抜けた顔の人間が立っている。身体的特徴から男だと思われる。その男は俺に対し話しかける。
「あー。悪いんだけどさ。このあたり久々で迷っちゃって。駅までの道教えてくれない?」
駅?このあたりに駅はないはずだ。確か親が子供の頃にはあったと聞いた気もするが、この男は若く見える。
「えーっと。このあたりに駅はありませんよ。何十年か前にはあったらしいですけど…。」
男はキョトンとしてしばらく悩み、2分ほどして口を開く。
「そっかー。駅なくなったかー。やっぱり下調べはしとくべきだな。ごめんね?引き止めて。」
なんというか、マイペースな男だ。
「あー。そうそう。少年よ。なにか悩み事とかないかい?等価交換の法則ってのがあってね?僕が君に質問したのだから君からも一つ僕に質問する権利がある。」
……。答えのない疑問と分かっていても、人それぞれ違う答えがあるのだからなんとなく気になる。この独特な雰囲気を放つ男なら面白い回答をしてくれるかもしれない。
「あなたは、今日を過ごすのが1度目だと思いますか?もし、1日が終わると時間が巻き戻り、生き物の記憶が消去されるとしても。1度目だと言えますか。」
正直、すぐに答えを出すのは難しい質問だ。意味不明だし、なによりも駅がないと言っただけで2分もフリーズするような男だ。聞く相手を間違えたか…?そんな考えは次の瞬間吹き飛ぶ。男は断言した。
「僕たちが今日を過ごすのは1度目だし、明日も、明後日も1度しか経験しないよ。理由が気になるのかい?簡単だよ。世界は同じ1日を何度も繰り返させる。なんて無駄なことしないのさ。世界は無駄なことなんか1つもしない。」
率直に疑問を投げつける。
「なら事故や落ちてきた鉄柱で人が死んだりするのにも意味があるって言うんですか?」
男はおかしそうに笑う。
「まさか。そんなの世界の行ったことじゃないだろ?事故の原因となる自動車を作ったのも人間。運転したのも人間。信号を作ったのも人間だ。鉄柱だってそうさ。作ったのは人間の作り出した機械だし、それを縛るロープも、場所を決めたのも、吊るし上げるのに使う機会もすべて人間が作ったものだ。世界が作ったものじゃない。」
確かにその通りだ…。しかし自然現象はどうだろうか?
「噴火や津波と言った自然災害は?意味があるんですか?」
男は困ったように笑う。
「あいまいな表現で申し訳ないけど、自然災害は地球の行う生理現象のようなものさ。地球にとって都合が悪いから自然災害が起こるんだ。あー。それから捕捉すると世界イコール地球じゃないぞ。世界という言葉は宇宙全体やその外側を指す。まぁつまりだね。世界はわざわざ同じことを繰り返すという無駄なことを繰り返したりしない。だから今日も明日も明後日も1度しかない。それが僕の結論だよ。満足してくれたかな?それじゃあ僕は行くよ。じゃあね〜。」
この答えのない疑問を呟いた男と同じように手をひらひらと振ってどこかへ歩いていく。正直、彼の言葉に納得した。すくなくとも、否定するためのロジックが思いつかなかった。まぁ、疑問に答えがないよりは、他人の出した答えでもいいだろう。
「さて。」
そう言って家のドアに手をかけ、開けてからいつもよりもどこか清々しい声で言う。
「ただいま。」
この話は別に考えを押し付けようとかそういうのじゃなくて自分の思ったふうに書いてるだけなので各々の答えを出していただけたらと思います。至らぬ点が多いと思いますが、楽しんでいただけていたら幸いです。ではでは。




