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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: 月館望男
【第10部】東の島国・トヨノクニ開国(物理)編 ~悪役令嬢、黒船になる。鎖国? ならば「開国(物理)」して、美味しいお米と温泉をいただきますわ~
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第98話 上洛と献上:帝を救ったのは「黄金の味噌汁」。今日から我らが「官軍(グルメ・ポリス)」です

 「対テロ・プロレス」による鎮圧劇から数日後。

 物理的に正気に戻した『虚無宗』も『救済教』も、まとめて開拓地に後送した、わたしたちレヴィーネ・ノブナガ連合軍は、破竹の勢いで西へと進軍し、ついに京の都へと入城した。


 沿道には、「タカニシキ」の噂を聞きつけた民衆が溢れかえっている。


「これが新しいお米……!」

「オワリの軍が通った後は、ペンペン草も生えないどころか、稲穂が実るって噂だぞ!」


 わたしたちの行列は、軍隊というよりは、巨大な「移動市場」のようだった。

 先頭を行くのは、米俵を満載した荷車。

 続くのは、農具を担ぎ、街道の凸凹をその場で補修しながら進む黒鉄隊。

 そして、中央には、馬に乗ったノブナガと、相変わらず「漆黒の玉座」を御輿のように担がせて座っているわたし。


「……目立ちすぎじゃあないか? 姐さん」

 リョウマが苦笑しながら馬を寄せる。


「いいのよ。権力者に見せつけるには、これくらいの『圧』が必要だわ。それに、これは凱旋パレードの予行演習よ」


 わたしたちが目指すのは、御所。

 この国の象徴である「(ミカド)」に謁見し、将軍家討伐の正当性を認めてもらうためだ。


◆◆◆


 御所の広間。

 御簾(みす)の向こうに座る帝と、その周囲を固める公家たちが、戦々恐々とした様子でわたしたちを見下ろしていた。

 彼らは痩せ細り、顔色は青白い。都の貴族といえど、飢えと妖刀の呪いからは逃れられていないようだ。


「……して、オダ・ノブナガよ。異国の女を引き連れ、何をしに参った? 兵を率いての上洛、謀反の疑いありと言われても仕方あるまいぞ」


 公家の一人が、震える声で虚勢を張る。

 ノブナガは平伏もせず、堂々と胸を張って答えた。


「謀反? 滅相もない。……我らはただ、帝に『本物の食事』を献上しに参っただけにございます」


「食事、だと?」


 わたしの合図で、割烹着姿のミリアと、巫女服姿のアリスが進み出た。

 彼女たちが運んできたのは、豪勢な会席料理ではない。

 お盆に乗っているのは、土鍋で炊かれた艶やかな「タカニシキ」の白飯と、オワリの赤味噌と京の白味噌をブレンドした「合わせ味噌の味噌汁」、そして漬物だけ。


「なんという粗末な……! 帝になんてものを!」


 公家たちが眉をひそめる。


「食べてから文句を言いなさいな」


 わたしは鉄扇を開き、不敵に笑った。


「これは、この国の未来そのものですわ」


 帝が、静かに箸を手に取った。

 毒見役が止めようとするのを手で制し、白飯を一口。


「……!」


 御簾の向こうで、空気が変わった。

 咀嚼音が響く。一口、また一口。箸が止まらない。

 そして、味噌汁を啜る音。


「……あたたかい」


 帝の震える声が漏れた。


「なんと……力強い味か。……土の匂いがする。太陽の味がする。……民の、生きる力が……余の体に満ちていくようだ……」


 妖刀の呪いにより、帝自身もまた心を蝕まれ、衰弱していたのだ。

 だが今、その体に「生気」が戻っていくのが、誰の目にも明らかだった。米の持つ生命力が、呪いを内側から浄化していく。


「……美味い。……まことに、美味いぞ……」


 帝が完食し、箸を置いた。

 そして、御簾が上げられた。

 そこにいたのは、顔色を取り戻し、目に強い意志を宿した若き君主の姿だった。


「ノブナガよ。そして異国の姫よ。……礼を言う」


 帝は立ち上がり、宣言した。


「今の将軍は、民を飢えさせ、この国の魂を枯れさせた。……だが、そちたちは違う。土を耕し、民を満たし、こうして余の心まで救ってくれた」


 帝から、一通の書状が渡される。

 それは、将軍家討伐の勅命(ちょくめい)であり、わたしたちを「官軍」と認める証明書だった。


「オダ・ノブナガ。そちを新たな『征夷大将軍』……いや、それでは古いな」


 帝は少し考え、ニッコリと笑った。


「そちを『天下食料管理長官』に任ずる。……この国の全ての胃袋を、そちの米で満たしてみせよ」


「ははッ! 謹んで!」


 ノブナガが豪快に頭を下げる。


「そして、レヴィーネ。……そちは『救国の遊撃隊』だ。型にはまらぬその力で、この国にこびりついた汚れを、思う存分『洗濯』してくれ」


「ええ。お任せくださいませ」


 わたしは優雅にカーテシーをした。


 これで、大義名分は得た。

 あとは、東のエド城に巣食う元凶を叩き潰すだけだ。


「行くわよ、みんな! ……ここからは、正義の『殴り込み』よ!」


 わたしたちは京を後にし、東海道を東へ――最後の決戦の地へと向けて進軍を開始した。

 その背後には、米俵を担ぎ、鍬を持った数万の民衆(サポーター)が続いていた。


◆◆◆


 京を出て東へ進むわたしたちの前に、幕府軍の中規模な砦が立ちはだかった。

 兵数はおよそ八千。彼らもまた妖刀の瘴気に侵され、死兵と化している。


「ここを通したくば、我らの屍を越えてゆけ!」


 敵将が叫ぶ。


「……暑苦しいわね。少し、お静かになさって」


 最前線に立ったわたしは、鉄扇を掲げ、静かに告げた。


「展開。――影魔法『ブーダカン《崇高なる武道館》』」


 ズズズズ……ッ!


 わたしの影が砦全体を飲み込み、巨大な八角形の構造物を形成した。

 敵軍八千が、逃げる間もなくその「内部」へと隔離される。


「な、なんだここは!? 空が見えんぞ!?」

「壁だ! 黒い壁に囲まれた!」


 狼狽する敵兵たち。

 その足元から、無数の「黒い茨」が一斉に生え出した。


「なっ!? 剣が!?」

「槍が持っていかれるぅぅぅ!」


 シュルシュルと伸びた影の茨は、兵士たちを傷つけることなく、彼らが手にしていた武器、身につけていた鎧兜だけを器用に絡め取り、次々と地面の影(暗闇の間)へと引きずり込んでいく。


「ああっ! 名刀『兼定』がぁぁ!」

「俺の自慢の南蛮鎧がぁぁ!」


 悲鳴を上げる武者たち。

 その横で、ミリアが魔導計算機《電卓》を片手にホクホク顔で計算していた。


「素晴らしい収穫ですレヴィーネ様! 刀の鋼は純度が高く、溶かせば最高級の(くわ)と鎌になります! 鎧の鉄板は魔導耕運機の装甲に再利用しましょう! これで農具不足が一気に解消です!」


「ええ、資源は大切にしなくちゃね」


 わたしはリングの中央に立ち、丸腰になった八千の兵士たちを見回した。


「さて、皆さん。現在、あなたたちはわたしの結界の中にいます。ここから出るルールは一つ。……代表者による『一騎打ち』で、わたしを倒すこと」


「ふ、ふざけるな! 全員でかかれば……!」


 一人の兵士が殴りかかろうとするが、見えない壁に阻まれて前に進めない。

 それどころか、足元の影が変形し、強制的に彼を「観客席」へと座らせた。


「な、体が勝手に!?」

「立てない!? 座らされたままだ!」


「雑魚に用はないわ。あなたたちの役目は『観客』。……おとなしく座って、声援でも送っていなさい」


 強制的な観戦モード。

 結局、敵将との一騎打ちはわたしの一撃(デコピン)で終了し、砦は無血開城された。

 武器を奪われ、戦意をへし折られ、代わりに極上のエンターテインメント(と、試合後に配られるおにぎり)を与えられた彼らは、もはや敵ではない。ただの「ファン」だ。


「……ふぅ。ブーダカン級までなら余裕だけど、数万規模となると、少し心許ないわね……」


 わたしは汗を拭いながら、次なる決戦――関ヶ原を見据えた。

 そこには、幕府軍の主力五万が集結しているという。


「姐さん。……わしはここでお別れじゃ」


 リョウマが馬を寄せてきた。


「陸の戦いはおんしらに任せる。わしは海へ出て、『ヴィータヴェン号』の舵を取るぜよ」


「ええ、頼んだわリョウマ。……海からの援護、期待しているわよ」


「おう! 任せとき! 海岸線の敵はわしと黒船が吹き飛ばしちゃる!」


 リョウマはニカッと笑い、海の方角へと馬を走らせた。

 陸と海。二つのルートからの進撃が始まる。


 いよいよ、天下分け目の関ヶ原だ。

帝への謁見。派手な料理ではなく、素朴な味噌汁が心を動かしました。これで大義名分は整いました。いよいよ東へ。


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