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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: 月館望男
【第10部】東の島国・トヨノクニ開国(物理)編 ~悪役令嬢、黒船になる。鎖国? ならば「開国(物理)」して、美味しいお米と温泉をいただきますわ~
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第094話 三英傑(?)の宴:うつけと悪役と風雲児。戦う理由は「おにぎり」の中にありました

 黒鉄隊による開墾が軌道に乗り、「ODA」による領土拡大が始まったその日の夕暮れ。

 わたしは、オワリ城の天守代わりとなっている高台のテラスで、二人の男と酒を酌み交わしていた。


 一人は、オワリの主、オダ・ノブナガ。

 もう一人は、海運の快男児、サカモト・リョウマ。


 眼下には、黒鉄隊によって耕されたばかりの広大な農地と、夕餉の支度をする炊き出しの煙が広がっている。

 香ばしい味噌と米の香りが、風に乗ってここまで届いていた。


「……壮観じゃな」


 ノブナガが盃を干し、ふっと笑った。いつもの豪快な笑いではない、静かで知的な笑みだ。


「これまで余は、多くの戦をしてきた。敵を殺し、領地を奪い、天下を統一することが正義だと信じてな。……だが、どうだ」


 彼は眼下の光景――兵士たちが武器ではなく鍬を持ち、笑い合いながらおにぎりを頬張る姿を指差した。


「大軍を率いて合戦に勝ち、領土を切り取る。戦に常勝、天下布武などというても、戦に人死にが出ないことなどない。……戦をするのは誰だ? 勿論武将が率いる。武士は戦うのが本分じゃ。だが実際泥にまみれ殺し合うのは雑兵よ」


 ノブナガの声に、怒りが滲む。


「雑兵とはなにか。自領や吸収した領地の百姓どもよ。食うにも困る中、わずかな金銭で徴兵し、殺し合わせる。……そんな戦で領土を得たとしてなんとする? 田畑を守り、食料を作り、国力をあげる、その為の百姓がおらん。そんな無駄なことをしておるのだ」


「……ええ」


 わたしは「タカニシキ」の塩むすびを一口かじり、同意した。


「腹が減っては戦ができぬと言いますが……戦をしていては、腹を満たす暇もありませんものね」


「その通りじゃ。戦に勝ったところで得るものがあまりにも少なすぎる。そんなことにも気づかんほど、今のトヨノクニは狂っておるのよ」


 ノブナガは、自身の腰にある刀を一瞥した。

 彼が妖刀『魂喰』の影響を受けなかった理由。

 それは、彼の魂の規格が、刀一本で満たされるほど小さくなかったからだ。「天下」という漠然とした概念ではなく、「民の生活」という実利を見ていたからこそ、彼は狂気から逃れられたのだ。


「商売も同じじゃき」


 リョウマが、焼き魚をつつきながら口を挟む。


「客が生きてなきゃモノは売れんき。死人と商売できるのは葬儀屋くらいじゃが、今のトヨノクニはその葬儀屋すら餓死しそうじゃき。……わしはな、この国を『洗濯』したいがぜよ。古い慣習も、妖刀の呪いも、全部洗い流して……誰もが自由に商売し、飯が食える国にな」


 リョウマは境界を歩く者(アウトサイダー)だ。

 かつて高千穂で「天の逆鉾」を抜いた際に得たという天啓と知識。そして一つの場所に縛られず、常に新しい風を取り入れる彼だからこそ、この国の閉塞感を打破できる。


「……皮肉なものよ」


 ノブナガが、盃を見つめたまま静かに言った。その瞳には、かつての友を思うような哀惜の色が浮かんでいた。


「公方様……ムネノリは、決して暗愚な君主ではなかった。むしろ、その逆よ」


 ノブナガの脳裏に、かつての将軍の姿がよぎる。

 それは、剣の稽古に汗を流し、地方の領主の声にも熱心に耳を傾ける、生真面目な青年の姿だった。


「剣の道にも、(まつりごと)にも、誰よりも誠実であった。己の器量が足りぬと思えば、恥を忍んで臣下に教えを乞い、正しき言であれば身分の低い者の言葉でも採り入れる……。名君と呼ぶには優しすぎたが、良き主君であろうと足掻いておったわ」


「へえ。……それが、どうして?」


 わたしが問うと、ノブナガは悔しげに眉を寄せた。


「誠実すぎたのじゃろうな。……『歴代の剣聖たちに比べて自分は弱い』『もっと強くなければ国を守れない』。そんな焦燥を、あの妖刀『魂喰』……いや、その中に巣食う『ナニカ』に見透かされたのよ」


 ノブナガは忌々しげに吐き捨てた。


「……真面目な人ほど、追い詰められると脆いものね」


 わたしは呟いた。前世の記憶にある、過労で倒れるまで働いてしまうサラリーマンのような危うさを、その将軍に感じたからだ。


「ムネノリは言っていた。『刀が語りかけてくる』とな。『悲劇こそが国を強くする』『絶望こそが民を団結させる』……そんな狂った『筋書き(シナリオ)』をな」


 国の在り方を変えるような悲劇と絶望のシナリオ――それはラノリアでの「管理者(運営)」による洗脳にも似た不気味さを感じさせる。


「……なるほど。『脚本家』、というわけね」


「じゃきに、こん国を、民を、将軍も救わねばならんのじゃ」


 リョウマが真剣な眼差しで継いだ。


「あの人を……トヨノクニを、悪い夢から叩き起こしちゃるのが、わしらの役目じゃろう」


「ふふ。奇遇ね」


 わたしは二人を見回し、鉄扇を開いた。


「わたしも同じよ。……生産者がいなければ、消費者は楽しめない。美味しいご飯を作る人がいなければ、わたしのような食いしん坊は困るのよ」


 生きることは、食べること。

 食べることは、命を繋ぐこと。

 そんな当たり前の循環を、将軍家と、その裏にいる「脚本家」は断ち切ろうとしている。

 「死」を美徳とし、「滅び」をエンタメとして消費しようとしている。


「……許せないわね」


 わたしは呟いた。


「ノブナガ。リョウマ。……わたしたちの敵は、将軍一人じゃないわ」


「うむ。……影におる『ナニカ』か」


「ええ。人々に死を甘受させ、絶望を肥大化させる舞台装置。……そいつをぶっ壊さない限り、この国に本当の夜明けは来ない」


 ノブナガが立ち上がり、夕日に染まる空を睨みつけた。


「ならば、やることは一つぞ! 死ぬために生き、殺すために産ませる……そんな狂った理をへし折り、我らは示すのだ!」


 彼は拳を握りしめ、宣言した。


「『食うために生き、笑うために戦う』! ……その当たり前を取り戻す戦いぞ!」


「おう! やっちゃるぜよ!」

「ええ。……最高の『興行』にしてあげましょう」


 三人の心が一つになったところで、リョウマがふと真面目な顔つきになり、切り出した。


「ところで姐さん。……ちっくと頼みがあるんじゃが」


「何かしら?」


 リョウマは懐から愛用の短銃を取り出し、くるくると弄びながら海の方角を見やった。


「わしの加護は、元々『水龍さま』のもんじゃき。……(おか)でできるのは、せいぜいが道案内か、小競り合いまでじゃ。陸の戦場で姐さんや信長の旦那と肩を並べて戦うにゃあ、ちくと分が悪い」


「……へえ。水龍、ね」


 わたしは彼の言葉に耳を傾けた。

 彼がナガサキで出会った時、「海」の匂いを強く纏っていたのはそういうことか。


「ほいじゃき、わしは織田の殿さんと姐さんらの進軍を、『海』から支えようち考えちゅう」


 リョウマはニカッと笑い、わたしを指差した。


「そこでじゃ。……姐さん、|あの船《海洋移動要塞ヴィータヴェン号》、わしに貸しちくれんかのう?」


「ヴィータヴェン号を?」


「おう。あの船は化け物じゃ。ダンジョンの動力に、クラーケンの装甲……あれなら、海から関ヶ原、そしてエドまでの沿岸部を完全に制圧できる」


 彼は地図を広げ、指でなぞった。


「陸を行く本隊は、どうしても補給や足場の悪さに悩まされる。……じゃが、海からわしが物資を運び、邪魔な敵の砦を艦砲射撃で吹き飛ばせば、姐さんたちは全力で直進できるじゃろう?」


「なるほど……。陸の『黒鉄隊』と、海の『ヴィータヴェン号』。……二方向からの進軍というわけね」


 ノブナガが膝を打つ。


「面白い! 採用じゃ! ……余の軍船もリョウマに預けよう。海路は任せたぞ、土佐の龍よ!」


「おう、任されたぜよ!」


 わたしは苦笑しながら、影の中に意識を向けた。

 停泊している「()」の鍵を貸すようなものだ。


「いいわ、リョウマ。……ただし、傷一つつけたら修理代は高くつくわよ? あの中にはミリアの大事なキッチンもあるんだから」


「わかっちゅう! 姐さんの『城』じゃき、大事に使わせてもらうぜよ!」


 こうして、リョウマは「ヴィータヴェン号」の臨時艦長となり、海路からの支援を担当することになった。

 陸と海、二つの龍が動き出した。

 オワリの地から、トヨノクニ全土を巻き込む革命の嵐が、今まさに吹き荒れようとしていた。

三人の英雄(?)による決起集会。目的は天下統一ではなく「美味しいご飯」のため。海と陸、両面作戦の開始です。


彼らの野望(食欲)を応援してくださる方は、ぜひ【★★★★★】評価をお願いいたします!

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