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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: 月館望男
【第10部】東の島国・トヨノクニ開国(物理)編 ~悪役令嬢、黒船になる。鎖国? ならば「開国(物理)」して、美味しいお米と温泉をいただきますわ~
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第089話 スモウ・デビュー:着物は筋肉で弾け飛びました。……張り手? いいえ、これは「掌底」ですわ

 オワリ領への道中。

 わたしたちは、国境を越えた瞬間に、空気の変化を感じ取った。


 それまでの荒れ果てた街道とは違い、オワリの領内は比較的整備され、道ゆく人々の顔にもわずかながら生気があった。

 もちろん、飢饉の影響はゼロではない。しかし、そこには「絶望」ではなく、何とか生き抜こうとする「覇気」があった。


「ノブナガという男、ただのうつけではなさそうですね」

 ミリアが馬車の窓から外を見て呟く。


「ええ。将軍の『米狩り』から、独自の手法で領民を守っているのかもしれないわ」


 そして、オワリの中心都市、ナゴヤの城下町に到着したわたしたちを迎えたのは、独特の香りだった。

 煮込まれた豆の香り。濃厚で、少し渋みのある、力強い香り。


「こ、これは……味噌の香り!? それも、色の濃い……!」

 ミリアが鼻をひくつかせ、興奮する。


「赤味噌ね。……前世の記憶にある、あのパンチの効いた味だわ」

 わたしも思わず生唾を飲み込んだ。この街は、美味しいものの気配がする。


 リョウマの手配した宿「シャチホコ屋」に荷物を下ろしたわたしたちは、早速、相撲大会への準備を始めることにした。

 まずは衣装だ。

 さすがにドレスで土俵に上がるわけにはいかない。かといって、廻し一丁になるわけにもいかない。


「郷に入っては郷に従え。……キモノ、というやつを用意してみたわ」


 宿の女将が用意してくれた、美しい絹の着物。

 わたしは早速、袖を通してみることにした。


「わあ、綺麗! レヴィちゃん、似合いそう!」

 アリスが目を輝かせる。


 ミリアが手伝ってくれ、帯を締め上げる。

 キュッ、キュッ。

 締め付けられる感覚。悪くない。コルセットに似ている。


「よし、着付け完了です! ……わあ、レヴィーネ様、よくお似合いです!」

「あら、そう? 意外と動きやすいかも……」


 わたしは鏡の前でポーズをとってみた。

 黒髪ではないが、金髪に和服もなかなか乙なものだ。

 気分が良くなったわたしは、相撲のシミュレーションとして、軽く四股(しこ)を踏んでみることにした。


「どすこい、ですわ!」


 腰を落とし、太ももに力を込める。

 わたし自慢の大腿四頭筋が、着物の下でムクリと膨れ上がる。


 ――ビリッ。


 不吉な音がした。

 え? と思う間もなく。


 ビリビリビリビリィッ!!!


 盛大な裂帛の音が響き渡った。

 太もも部分の布が弾け飛び、背中の縫い目が筋肉の膨張に耐えきれずに爆散する。

 帯が悲鳴を上げて千切れ飛び、宙を舞った。


 シーン……。


 鏡の中に映るのは、ボロボロになった布切れを纏い、太ももを露わにした、半裸の悪役令嬢。

 まるで、世紀末の救世主な戦士が本気を出した時のようだ。


「……あら?」


「あーあ……」

 アリスが顔を覆う。

「き、絹が……最高級の絹が、筋肉の圧力(物理)に負けました……」

 ミリアが呆然とする。


「……この国の布は、少し軟弱ね」


 わたしは赤面しつつ、ボロボロの着物を脱ぎ捨てた。

 やはり、普通の服ではわたしの出力には耐えられないようだ。


「ミリア、いつものアレ(戦闘用改造ドレスの素材)で、特製の道着を作りなさい。……動きやすく、破れないやつをね」

「はいッ! 伸縮性重視で縫い上げます! スパッツ型にしましょう!」


 気を取り直して、特製ウェア(和風アレンジのスパッツ&法被スタイル)に着替えたわたしは、リョウマの案内で、街の相撲部屋へと向かった。

 「道場破り」ならぬ「体験入門」だ。


「ここが、大会に出る力士たちが稽古をしゆう『カチコシ部屋』じゃ」


 リョウマに導かれるままに、道場(相撲部屋)の前に立つ。

 道場の中からは、激しい衝突音が聞こえてくる。

 バチン! ドスッ! ドスッ!!

 中に入ると、巨漢の男たちが汗を流しながらぶつかり合っていた。

 彼らの体からは、もうもうと湯気が立ち上っている。


「おお、リョウマか。……なんだ、その嬢ちゃんたちは? 見学か?」

 親方らしき男が、怪訝な顔でこちらを見る。


「いいえ。……相撲大会の参加者よ」


 わたしが一歩前に出ると、力士たちが一斉に動きを止め、そしてドッと笑った。


「ぶははは! 女が相撲だと?」

「嬢ちゃん、おままごとじゃないんだぜ?」

「怪我しないうちに帰りな」


 嘲笑。

 まあ、予想通りの反応だ。見た目はただの華奢な(?)令嬢なのだから。


「……笑止ね」


 わたしは冷ややかに笑い、土俵の縁に立った。


「口より先に、体が動くのが力士でしょう? ……誰でもいいわ。少しかかってらっしゃい」


「へっ、ナメられたもんだな。……おい、テッポウ山。軽く相手してやれ」


 親方の合図で、一番大柄な力士が進み出てきた。

 身長2メートル、体重は150キロはあるだろうか。岩のような巨体だ。


「嬢ちゃん、泣いても知らねえぞ!」


 テッポウ山が、ドスドスと足音を立てて突進してくる。

 迫力満点。普通の人間なら、恐怖で足がすくむだろう。

 だが。


(……遅い)


 わたしは一歩も動かず、彼を待ち受けた。

 衝突の瞬間。


 ドォォォンッ!!!


 激突音が響く。

 しかし、吹き飛んだのはわたしではない。

 わたしの体にぶつかったテッポウ山が、見えない壁に激突したかのように静止していた。


「な、なんだ!? びくともしねえ!?」


「……軽いわね。朝ごはん、食べてないのかしら?」


 わたしはニッコリと笑い、テッポウ山のまわしを片手で掴んだ。


「顔洗って出直していらっしゃい。……ハイッ!」


 ブンッ!


 わたしは腕一本の力だけで、150キロの巨体を軽々と持ち上げた。

 そして、そのまま背負い投げの要領で、土俵の外へと放り投げる。


 ドッゴォォォォンッ!!

 バッシャァアァァンッ!!


 テッポウ山が道場の壁を突き破り、中庭の池へと着水する音が聞こえた。


 シーン……。


 道場内が、完全な静寂に包まれる。

 親方の口から、キセルがポロリと落ちた。


「……ルールは確か、『足の裏以外が地面につく』か『土俵の外に出る』と負け、でしたわよね?」


 わたしはパンパンと手を払い、凍りついている力士たちを見回した。


「シンプルでいいルールだわ。……さあ、次は誰? まとめてかかってきてもよろしくてよ?」


「あ、悪魔だ……」

「南蛮の黒鬼だ……!」


 その日、オワリの相撲界に激震が走った。

 美しき怪物、レヴィーネ・ヴィータヴェン。

 彼女の噂は、風よりも速く城下町へと広がっていった。

服が弾け飛ぶのは仕様です。相撲(物理)の始まり。どんな競技でも、筋肉があればなんとかなります。


筋肉で着物を弾き飛ばす令嬢を応援してくださる方は、評価ポイントをお願いいたします!

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