第081話 【無人島編完結】出立:家ごと引っ越し(物理)。漆黒の魔導要塞(元イカダ)で、いざ極東の国へ!
――漂着、10日目。
――建造、6日目。
クラーケン討伐から数日。
島の入り江には、クラーケンの強化骨格とダンジョンの廃材、そして古代樹を組み合わせて建造した、巨大な「イカダ」が浮かんでいた。
イカダというか、見た目は完全に魔導戦艦だ。動力にはダンジョンの魔導タービンを搭載している(冷蔵庫ごと引っこ抜いてきた)。
だが、まだ完成ではない。わたしには、最後の仕上げが残っていた。
「うわぁ、真っ黒……。でもこれ、塗料に使うにはさすがに臭くない? 生臭いよぉ……」
アリスが鼻をつまんで顔をしかめる。
浜辺には、解体したクラーケンから丁寧に取り出した、巨大な墨袋が置かれていた。中には大量の魔力を含んだ墨が入っている。
「失礼ね。これは勝利の証よ。……それに、ただ捨てるなんて『獣の穴』の流儀に反するわ」
わたしはニヤリと笑い、島の火山地帯を指差した。
「この墨をベースに、火山の近くで見つけた黒曜石と、地層に埋まっていた炭化木を混ぜ合わせるの。……ミリア、調合比率は任せたわよ」
「はい! 接着剤代わりの松脂と、防腐効果のある薬草も加えましょう! お料理と同じですね!」
わたしは巨大な岩の窪みを「すり鉢」代わりにして、黒曜石と炭化木を放り込んだ。
「硬い素材を粉末にするには、これが一番よ」
ズドン!! バキバキバキッ!!! ゴリュォッゴリュォッゴリュォッ!!!
わたしは『漆黒の玉座』を杵のように振り下ろし、鉱石を物理的に粉砕・微粒子化していく。
そこへ、アリスが涙目で魔法をかける。
「くっさぁ~! ほんともう臭いのだけは勘弁してよね! 『浄化』! ……あ、なんか光が墨に吸い込まれていく?」
アリスの聖なる光による浄化と、わたしの魔力を帯びた玉座による物理撹拌。
そしてクラーケンの墨に含まれる強力な魔力が化学反応を起こし、窪みの中の液体は「闇よりも深い、星空のように輝く黒い液体」へと変貌した。
「ミリア! 『眼鏡』でチェックして!」
「はいッ! 装着!」
ミリアが『賢者アスケンの眼鏡』を装着し、出来上がった液体を凝視する。
すると、彼女の顔色がサァーッと青ざめ、次いで紅潮した。
「す、すごいです……! 表示された成分表が文字化けしていますけど……かろうじて読める効果だけでもとんでもないです!」
ミリアは震える声で読み上げた。
「名称『深淵の防汚塗料』……。効果:物理耐性(極大)、魔法耐性(極大)、自動修復機能……そして、『威圧感補正+500%』!? ちなみに食用は『不可』だそうです!!」
「上出来ね。さあ、イカダをこの『黒』で染め上げるわよ!」
――数時間後。
完成した巨大イカダは、不気味なほど艶やかな漆黒に塗り固められていた。
しかし、その上には何も乗っていない。今はまだ、ただの広い甲板だ。
浜辺では、増築を重ねて要塞化し、さらにダンジョンの遺物で近代化改修されたログハウス「ヴィータヴェン城(DX改)」の前で、ミリアが柱にすがりついて泣いていた。
「……うっ、ううっ……」
「なにをしんみりしているのよ? ようやく脱出できるっていうのに湿気るわねぇ」
わたしが声をかけると、ミリアは涙目で振り返った。
「だってレヴィーネ様! イカダが完成したら、この島とも、いよいよお別れなんですよね……」
ミリアは愛おしそうに、システムキッチンや、手作りの燻製小屋を撫でる。
「ここまで快適にしたヴィータヴェン城の寝室も、リビングも、キッチンも……あとキッチンとも、それにキッチンとも! お別れになっちゃうんですよぉ? この『三口コンロ』ともお別れなんて……私の青春がぁ……!」
「キッチンへの未練が重すぎるよミリアちゃん!」
アリスがツッコむが、ミリアの嘆きは止まらない。
わたしはきょとんとした後、呆れたように、しかし不敵に笑った。
「……は? 何を言っているの、あなた」
わたしはドレスの裾をまくり、手袋をキュッと締め直した。
「あらやだ、言ってなかったわね。作ったもの、奪ったもの、拾ったもの。――全部持っていくわよ?」
「……え?」
ミリアとアリスが固まる中、わたしはヴィータヴェン城の土台(基礎部分)に手をかけ、深く腰を落とした。
身体強化フルパワー。筋肉全開。
「ふんッ!!!」
ズゴゴゴゴゴ……ッ!!!
地響きと共に、巨大なログハウスが一軒まるごと、ズズズと持ち上がった。
「「えええええええええええっ!!??」」
「物理的な『引っ越し』だコレ!!」
アリスの絶叫をBGMに、わたしはヴィータヴェン城(DX改)を担いで浜辺を歩き、そのまま海に浮かぶ巨大イカダの上へと設置した。
ドズゥゥゥン!!!
イカダが大きく沈み込み、そして安定する。完璧なサイズ感だ。
「よし。これで『船室』の完成ね」
さらにわたしは影魔法「暗闇の間」を全開にしながら、わたしの「影」を島中に広げた。
この十日間、この狭い孤島でわたしが足を踏み入れなかった場所などない。
――ここにも、そこにも、どこにでも。『わたしは、いる』。
「あ、あのヤシの木、日除けにいいわね」
ズボッ。(引っこ抜く)
「温泉が湧いてた岩場、露天風呂として持っていきましょう」
バキィッ。(岩盤ごと切り取る)
「ダンジョンの入り口の石像、魔除けにいいかしら」
ヒョイッ。(回収)
島のめぼしいものを次々と「収納」し、あるいはイカダに積んでいく。
「レヴィちゃん……それ、出航っていうか……『領土の強奪』だよ……」
アリスが遠い目で呟く。
かくして――。
漆黒に塗られ、家を乗せ、完全に「動く島」と化した船の上で、わたしたちは優雅にティータイムを始めた。
潮風が心地よいテラス(元・家のベランダ)で、冷えたトロピカルジュースを飲む。
「快適ね。……さて、目指すは東。黄金の国よ」
いざ出航。
わたしが魔導タービン(動力)に魔力を流し込んだ、その瞬間だった。
『ヌゥォオオオォォォォォォォォォォォォォォン…………』
船のどこかから、腹の底に響くような、地獄の釜の蓋が開いたような、重苦しくも禍々しい「音」が鳴り響いた。
汽笛などつけていない。
それは、塗料に含まれたクラーケンの魔力と、船の構造体が共鳴して生まれた、魂の叫びのような音だった。
「ひぃぃぃッ!? なに今の音!? 船が唸った!?」
アリスが腰を抜かす。
「す、凄まじい重低音……! お腹に響きます!」
ミリアもリュックを抱きしめて震えている。
だが、わたしはフッと笑った。
「……いい産声じゃない」
わたしは黒い鉄扇を開き、高らかに宣言した。
「野郎ども、聞きなさい! この声こそが、我らが進撃の合図よ! 邪魔するものは、幽霊だろうが海賊だろうが、その悲鳴で道を空けさせなさい!!」
『ヌゥォオオオォォォォォン…………!!』
もはや怪獣映画の登場シーンのような威圧感を撒き散らしながら、漆黒の要塞ヴィータヴェン号は、東の海へと滑り出した。
最強の悪役令嬢は、家ごと、そして禍々しい「黒船」と共に旅をする。
目指す舞台は、極東の島国。
彼らがこの船を見てどんな顔をするのか、今から楽しみで仕方がない。
まさかの「家ごと引っ越し」エンドでした。漆黒の塗料で威圧感マシマシの要塞船ヴィータヴェン号、いざ出航です! これにて第9部・無人島サバイバル編、完結となります。【第9部完結】
無人島編にお付き合いいただきありがとうございました! 次章、いよいよ「和風ファンタジー」な国での大暴れにご期待いただける方は、評価とブックマークを何卒よろしくお願いいたします!




