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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: 月館望男
【第9部】無人島サバイバル編  ~悪役令嬢、無人島に漂着す。大自然が相手なら、島ごと「整地」させていただきますわ~
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第079話 文化:悪役令嬢は葉物野菜と風呂を欲する。……ないなら育てるし、掘ればいいじゃない!(温泉回)

 ――漂着、3日目:夜。


 ダンジョンでお宝(冷蔵庫や調理器具)を手に入れ、意気揚々と拠点へ戻ったわたしたちだったが、一つだけ解決していない問題があった。

 それは「野菜不足」だ。


 ことの発端は、昨日朝の出来事だった。

 ビタミン不足を懸念したわたしが採ってきた黄色い果実を、ミリアが「農家の娘の胃袋は鉄壁です!」と豪語して食べたのだが……。

 数分後、彼女は顔を青くしてトイレに駆け込んだ。どうやら一般人には「毒」レベルの刺激物だったらしい。

 わたしの「獣の穴」仕込みの胃袋は参考にならないことが証明された瞬間だった。


 そんな経緯があり、わたしたちは今、猛烈に「安全な野菜」を欲していた。

 このサバイバル生活がいつまで続くかはわからないが、生鮮野菜や果物が摂れなければ壊血病の不安もある。あと肌荒れとか口内炎も困る。


 そんなわけでダンジョン(お散歩)から戻った、拠点前の広場では、ミリアがリュックをひっくり返し、底の方を漁っていた。


「あ、ありました! サン・ルーチャの市場で、スパイスの調合研究用に買っておいた『種』と『実』です!」


 ミリアが取り出したのは、数種類の植物の種だった。

 さっそく、ダンジョンで手に入れた新装備『賢者アスケンの眼鏡』を装着する。


「鑑定します! ……これは『サンチュ(包み葉野菜)』の種! こっちは『エゴマ(大葉)』! そして『トウガラシ』! ……全部、発芽可能です!」


「でかしたわミリア! これで焼肉が何倍も美味しくなるわ!」


 わたしは歓喜し、広場の地面を見下ろした。

 そこは雑草が生い茂る荒地だ。整地するだけならともかく、満足な道具もなく開墾までとなると時間がかかるだろう。


 ――だが、今は違う。

 魔力が解放され、魔法が使えるようになった今、わたしにはとっておきの相棒がいるのだ。


「アリス! ミリア! 下がっていなさい」


 わたしは影から『漆黒の玉座』を取り出した。


 ズヌゥッ……。


 久々の登場に相棒もやる気を出しているようだ。黒鋼(クロムアダマン)の重量と頑丈さが今はなにより頼もしい。

 そして、わたしは『玉座』の背もたれを下にして、地面に突き立てる。


 ズンッ……。


 イメージするのは、前世のトラクター、今世の牛牽きプラウだ。


「耕すわよッ!!」


 ズドドドゴゴゴゴゴッ!!!


 わたしは玉座を地面に押し付けたまま、猛烈な勢いで走り出した。

 身体強化フルパワー。

 土が爆ぜ、根が断ち切られ、一瞬にして地面が掘り返されていく。

 縦に走り、横に走り、最後に綺麗に土を盛って(うね)を作る。所要時間、3分。


「……開墾完了。ミリア、種を蒔きなさい!」


「は、はいッ! それにしても早すぎます! レヴィーネ様! 今度その技教えてください! 実家に帰ったときに役立てます!!」


 ミリアが感動に震える手で種を蒔く。

 だが、普通に育てていては収穫まで数ヶ月かかってしまう。

 そこで、アリスの出番だ。


「アリス! あなたの『聖女』の力、ここで使わずにいつ使うの!」


「ええ~? 確かに前は聖女のお仕事で豊穣の恵みのお祈りとかしたけど……。あれって本当にお祈りレベルなんだよ~。役に立てるのかなあ……」


 サン・ルーチャ王国での『覚醒』で、これまでの「光魔法の素地」は「聖女の力」として完成したと思うのだが、どうにも本人はイマイチ自信がなさそうだ。


「お祈りでもなんでもいいわ。上手くいったら儲けもの程度でいいのよ」


 わたしが促すと、アリスが『星光の聖杖』を掲げる。

 無限の魔力供給。彼女がイメージするのは、植物の生命力の活性化。


「育て! 太陽の恵みよ、命を育め! ――『超・光合成(ハイパー・グロウ)』ッ!!」


 カァッ!!


 畑全体が、直視できないほどの強烈な閃光に包まれた。

 土の中で種が弾け、根を伸ばし、芽を出し――そして、爆発的な速度で成長していく。


 ボボボボボッ……!!


 数秒後。

 光が収まったそこには、瑞々しく、そして少しサイズがおかしい(通常の三倍はある)巨大な葉野菜が、森のように生い茂っていた。


「……やりすぎたかな?」

 アリスが冷や汗をかく。


「いいえ、上出来よ!」


 わたしは巨大なサンチュを一枚もぎ取り、パリッとかじった。

 新鮮な水分と、青々とした香り。毒などない、純粋な野菜の味。


「……美味しい。これなら、いくらでも肉が食べられるわ」


 その日の夕食。

 魔導コンロの鉄板で焼かれたジューシーな魔獣肉カルビ。

 それを、ミリア特製の甘辛ミソだれにつけ、アリスが育てた巨大サンチュとエゴマで包み、一口で頬張る。


「ん~~~~ッッ!!」


 シャキシャキとした野菜の食感と、溢れ出す肉汁。

 こってりとした脂を、野菜がさっぱりと中和し、いくらでも胃袋に収まっていく。


「やっぱり、焼肉には葉野菜ね!!」

「はいッ! 野菜の栄養も食物繊維も摂れてバッチリです!」

「これならお腹も痛くならないよー!」


 こうして、わたしたちは壊血病の恐怖と、野菜不足による口内炎の危機を、物理と魔法の力で完全に克服したのだった。



 ――漂着、3日目:深夜。


 畑を作り、焼肉を堪能した後。

 満腹になったわたしたちを襲ったのは、南国特有の湿気と、労働による汗の不快感だった。


「……ベタつくわね」


 わたしは不快そうにドレス(サバイバル仕様)の襟元を寛げた。

 海で泳ぐのはもういい。塩水ではなく、真水で、それも温かいお湯でさっぱりしたい。


「お風呂……入りたいなぁ。シャワーだけでもいいから……」

 アリスがテーブルに突っ伏して嘆く。

「ドラム缶風呂なら作れますけど、ドラム缶がありませんし……」

 ミリアも困り顔だ。

 ダンジョン《古代遺跡》から部材でも引っ剥がしてくればできないこともないかもしれないが、さすがに溶接はできない。サバイバル生活は不便なのだ。


 わたしは立ち上がり、地面を足の裏で探るように踏みしめた。

 「獣の穴」でのサバイバル生活で培った感覚。地脈の流れ、熱の気配。

 この島には火山がある。ならば――。


「……あるわ」


「え? 何が?」


「『温泉脈』よ。……ここから東へ500メートル。岩盤の下から、熱気を感じるわ」


 わたしはニヤリと笑い、タオル(ドレスの端切れ)を肩にかけた。


「行くわよ。……今夜は『源泉かけ流し』よ!」


 指定のポイント――岩肌が露出した斜面に到着したわたしは、影から『漆黒の玉座』を取り出した。


 ズヌゥッ……。


 相棒がやる気を出しているが今回も武器としての出番ではない。

 「耕運機」の次は――「掘削機」だ。


「アリス、結界で湯を受け止める準備を。ミリア、岩を削って露天風呂を作るわよ」


 わたしは玉座の脚を岩盤の割れ目に突き立て、身体強化フルパワーでねじ込んだ。


「――『穿て(ドリル)』ッッ!!!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴッ!!!


 人間重機と化したわたしの回転力に、岩盤が悲鳴を上げて砕け散る。

 数メートル掘り進んだところで、プシューッ! という音と共に、白煙と熱湯が噴き出した。


「出たー! 本当に出たよ温泉!?」

「さすがレヴィーネ様! 温泉ソムリエの資格もお持ちだったとは!」


 湯が出れば、次は浴槽だ。

 ミリアが『永久の包丁アダマンタイト・ナイフ』を抜き放つ。


「お任せください! この岩を……こうッ!!」


 スパパパパパンッ!!


 ミリアが巨大な岩を包丁で撫でると、まるで豆腐のように岩が切り取られ、滑らかな曲線の「岩風呂」が一瞬で完成した。

 ダンジョン産の包丁、切れ味が鋭すぎて土木工事にも使える。


「仕上げは私だね! 水魔法と氷魔法で温度調整!」


 アリスが結界で閉じ込めた源泉と湧水をブレンドし、水魔法・氷魔法で適温にする。その間に、ミリアが竹のような植物を加工して「打たせ湯」と、どこから調達したのか「鹿威し(ししおどし)」まで設置する。

 カコーン……という風流な音が響いた。


 所要時間、15分。

 ジャングルの奥地に、秘湯「ヴィータヴェンの湯」が爆誕した。


「「「はぁぁ~~~~……生き返るぅぅ……」」」


 湯船に浸かり、夜空を見上げる三人。

 適度な硫黄の香りと、身体の芯まで温まる熱量。

 サバイバル生活の疲れが溶け出していく。

 露出の多い服を脱ぎ捨てた三人の肌は、月明かりの下で白く輝いていた。


「最高……。もうここから出たくない……」

「お肌がツルツルになります! むむっ……温泉体験とミソ・ディップをセットで売り出せば……!」


 三人が骨抜きになっていると、背後の茂みからガサガサと音がした。


「キキーッ!」


 現れたのは、温泉の匂いにつられた「温泉猿(ホット・モンキー)」の群れだ。

 魔獣化した猿たちが、わたしたちの服や荷物を狙って忍び寄っていたのだ。

 いわゆる「覗きイベント」である。


 アリスが悲鳴を上げようとした、その時。


 バシャン。


 わたしは湯船に浸かったまま、鉄扇を開き、片目だけで猿たちを睨みつけた。

 殺気ではない。

 「せっかくの湯浴みを邪魔したら、絶滅させるわよ?」という、絶対強者の『圧』を放つ。


「……キッ!?」


 猿たちの動きが止まる。

 彼らの本能が警鐘を鳴らしたのだ。この白い肌のメスは、この島の食物連鎖の頂点だと。


 数秒後。

 猿たちは持っていた果物や木の実を恭しくお盆(平らな石)に乗せ、湯船の縁に差し出した後、直立不動で「背中流しましょうか?」というジェスチャーを始めた。


「……わきまえているじゃない」

「えぇぇ……猿が給仕になったよ……」


 風呂上がり。

 ミリアが、猿たちが差し出した果物と、採取していたヤシの実のミルクを混ぜ合わせ、即席のミックスジュースを作った。


「お待たせしました! 『特製フルーツ牛乳風ドリンク』です!」


 わたしは腰に手を当て、冷えたジュースを一気に飲み干した。


「……プハァッ!!」


 甘みと酸味が、火照った体に染み渡る。


「……完璧ね。これで明日も戦えるわ」


 月明かりの下、ツヤツヤになった最強の悪役(ヒール)令嬢と仲間たちは、明日も続くサバイバル生活に向けて英気を養ったのだった。

焼肉には野菜、そして労働のあとにはお風呂。聖女の魔法で巨大化した野菜と、源泉かけ流しの露天風呂。もはや遭難ではなく、完全にバカンスですね。


「玉座の使い方が間違っている」と笑ってくださった方は、評価をポチッとお願いいたします!

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