表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: 月館望男
【第8部】情熱の国サン・ルーチャ・ルチャリブレ編 ~魔薬カルテル? 悪役令嬢が「教育的指導」してやります~
73/179

第073話 裏のメインイベント:震えて眠れ、悪党ども。朝まで続く「教育的指導祭(フィエスタ)」の開催ですわ!

 表の興行が終わり、熱狂が冷めやらぬ深夜。

 わたしたちの拠点である廃教会を含むスラム街一帯は、異様な静寂に包まれていた。


 虫の声ひとつしない。風も止まっている。

 だが、わたしの肌は感じ取っていた。闇に潜む、数百、いや千に近い数の殺気を。


「……懲りない連中ね」


 わたしは教会の屋根の上に腰掛け、眼下の闇を見下ろした。

 カルテルの残存勢力だ。

 ボスを失い、資金源を断たれた彼らは、最後の悪あがきとして「報復」を選んだのだ。

 重武装した構成員たちが、音もなくスラムを包囲している。手には松明と魔導銃。狙いは、わたしたちの抹殺と、スラムの住人たちへの見せしめとしての虐殺。


「焼き払え! ネズミ一匹逃がすな! 女子供も皆殺しだ!」


 闇の中から指揮官の声が響く。

 同時に、数カ所から火の手が上がろうとした――その瞬間。


「――おイタが過ぎるわよ、駄犬ども」


 わたしの声が、夜空に響き渡った。

 拡声魔法など使っていない。けれど、その声はスラムの端から端まで、包囲している敵全員の耳元で囁かれたかのように鮮明に届いた。


「な、なんだ!? どこだ!?」

「上か!? いや、後ろか!?」


 構成員たちが狼狽する。

 わたしは屋根の上で、ゆっくりと立ち上がった。

 身体強化の魔力ではない。もっと深く、重く、粘着質な「闇」の魔力を、丹田の底から汲み上げる。


 かつて、オルガ先生が見せてくれた「夜」の深淵。

 あの時は恐怖した。けれど今は――心地よい。


「教えてあげるわ。……夜というのはね、悪い子がお布団で震えて眠る時間なのよ」


 ドォン……。


 わたしの足元の影が、爆発的に膨張した。

 それは建物の影、路地の影、そして敵自身の影と繋がり、瞬く間にスラム全体を「わたしの領域」へと塗り替えていく。


「ひッ……!? 足が、影に沈む!?」

「明かりが消える!? おい、松明が点かねえぞ!」


 世界から光が消えた。

 完全な闇。

 その中で、わたしの声だけが、全方位から響く。


「逃げられると思って? ……わたしは、この街の影」


 ゾワリ、と数百人の背筋が一斉に凍る。


「わたしは、この街の闇」


 敵の足元の影が、生き物のように足首に絡みつく。


「――ここにも、そこにも、どこにでも。『わたしは、いる』」


 宣言と同時。

 スラム全域の影から、無数の「黒い茨」が一斉に噴き出した。


「ギィヤァァァァァッ!!?」


 悲鳴が重なる。

 棘の生えた影の蔦が、武器を持つ腕を締め上げ、逃げようとする足を貫き、悲鳴を上げる口を塞ぐ。

 数百人の武装集団が、たった一瞬で、影という檻に囚われた。


「さあ、いらっしゃい。……特等席へ」


 わたしが指を招くと、影に囚われた数百人が、ズブズブと地面の影の中へ沈められ――そして次の瞬間、わたしの目の前、教会の広場にある巨大な影の水溜りから、次々と吐き出された。


 ドサッ、ドサッ、ドサッ……!


 積み上げられる男たちの山。

 恐怖で顔を引きつらせ、ガタガタと震える彼らの前に、わたしは月光を背負って降り立った。


「……た、助けてくれ……! 俺たちはただ命令されただけで……!」

「悪魔だ……こいつは人間じゃねえ……!」


 命乞いをする彼らを、わたしは冷たく見下ろした。


「命令? だったら、その命令ごとへし折ってあげるわ」


 わたしは両手を広げた。

 その頭上に、魔力で構成された無数の「贋作のパイプ椅子(フェイク)」が、星々のように浮かび上がる。

 その数、百、二百、いやもっと。


「さあ、始めましょうか。二度と悪さを考えられない体にするための――」


 わたしはニヤリと笑い、指揮者のように腕を振り下ろした。


「――『教育的指導祭フィエスタ・デ・ラ・マタンサ』の開催よッ!!!」


 シュババババババッ!!!


 豪雨のように降り注ぐパイプ椅子の群れ。

 鈍い打撃音と、骨の折れる音、そして男たちの絶叫が、スラムの夜を賑やかに彩る。

 逃げようとしても、影から伸びた棘のある蔦が、男たちを捕まえては持ち上げて地面に叩きつける。


「あーれーッ!?」

「痛てぇえええ!! 骨が、骨がァッ!!」


 わたしは、リズムに乗りながら、逃げ惑う(影で足を縛られているので逃げられないが)男たちの脳天に、的確に、ある意味慈悲深く、そして一切の容赦なく椅子を叩き込んでいく。


「はいそこ! 悲鳴が小さい!」

 バコォン!


「アンタは子供を殴った罪!」

 ドガァン!


「アンタは食料を奪った罪!」

 ガシャァン!


 終わらない夜。終わらない宴。

 恐怖と痛みという名の教育が、彼らの骨の髄まで刻み込まれていく。


 教会の窓から、こっそりとその様子を覗いていたミリアとアリスが、顔を見合わせて震えていた。


 そこには、松明を持って襲撃してきた数百人のカルテル構成員たちが、たった一人の女性――レヴィーネによって、次々と宙を舞っている光景があった。


 レヴィーネは楽しそうに指揮者のように腕を振っている。

 彼女の影から無数に伸びた黒い蔦が、男たちを捕らえ、ぶん回し、地面に叩きつけているのだ。さらにおびただしい数のパイプ椅子が舞い飛び、男たちを打ちすえる。


「……うわぁ。リズムに乗ってるね、レヴィちゃん」

 アリスが引きつった笑顔で呟く。


「はい。まさに『教育的指導祭フィエスタ・デ・ラ・マタンサ』ですね。……あ、あそこの人、綺麗にブリッジして埋まりましたよ」

 ミリアが冷静に実況する。


「助けてくれぇぇ! 悪魔だァァ!」

「反省します! ママァァァ!」


 命乞いの合唱。


「……レヴィちゃん、楽しそうだけど……あれ、絶対子どもたちには見せられないよね?」

「大丈夫ですアリスさん。ちゃんと『峰打ち(椅子の平らな面)』ですから! ……たぶん」


 スラムの住人たちは、外から聞こえる「お祭り騒ぎ」のような音を聞きながら、安心して朝まで眠りについたという。

 それは、この街から「悪」が一掃される音だったのだから。


 ――そして、夜が明けた。


 教会の広場には、綺麗に整列して土下座をする数百人の男たち(全員、顔がパンパンに腫れ上がり、椅子の残骸を首から下げている)と、朝日を浴びて清々しい顔でラジオ体操をするわたしの姿があった。


「……ふぅ。いい汗かいたわ」


 わたしは屈伸運動をしながら、彼らに尋ねた。


「さて、皆さま。……二度と、この街に手を出さないと誓えますか?」


「「「ち、誓いますぅぅぅッ!!!」」」


 彼らの絶叫は、心からのものだった。

 こうして、サン・ルーチャ王国の裏社会は、たった一夜にして、物理と恐怖によって「完全浄化」されたのだった。

表の顔とは打って変わって、裏では容赦のない殲滅戦でした。影魔法とパイプ椅子の嵐、まさに「教育的指導祭」。悪党には恐怖を、民衆には希望を。これにて一件落着です!


徹底的な悪党退治にスッキリした方は、評価をいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ