第062話 逆転:私の相棒(椅子)を蹴ったわね? お返しに特大の「断罪ホームラン」をプレゼントします
わたしがマットに倒れ伏していると、VIP席からドン・ゴルドーが降りてきた。
勝利を確信した彼は、わたしにとどめを刺す命令を下すため、わざわざリングサイドまでやってきたのだ。
「ハッハッハ! どうだレヴィーネ! これが敗北の味だ!」
ゴルドーは金網の外からわたしを見下ろし、嘲笑った。
そして、彼の足元にあったもの――わたしが入場時に設置した『漆黒の玉座(軽量化状態)』に目を留めた。
「なんだこの薄汚い椅子は。……目障りだ」
ゴルドーは邪魔そうに、椅子を蹴り飛ばそうと足を振り上げた。
――その瞬間。
わたしの目から、演技の色が消えた。
(……今、わたしの相棒を。……ガラクタと言ったか?)
――解除。
わたしは遠隔で魔力を操作し、椅子の「軽量化」を解いた。
黒鋼本来の質量。数百キロの鉄塊へと戻る。
ゴルドーの革靴の爪先が、椅子に直撃した。
ゴキィッ!!!
「ふんッ! ……ギャアアアアアアアッ!!??」
鈍い音と共に、ゴルドーの絶叫が地下闘技場に響き渡った。
椅子は微動だにしない。代わりに、ゴルドーの足がありえない方向に曲がっている。
「い、痛いッ! 足が、足の指がぁぁッ!!」
のたうち回るゴルドー。
わたしはむくりと起き上がった。
乱れた髪をかき上げる。その表情は、もう「悲劇の令嬢」ではない。
全てを凍らせるような、絶対零度の冷笑。
「……あら。随分と『重い』蹴りでしたわね? 私の相棒への挨拶にしては、無作法じゃなくて?」
「き、貴様……! まだ動けるのか!?」
「ええ。演技は終わりよ」
わたしはガルフに向き直った。
獣王が戸惑いながらも拳を振り上げる。
「ガァァァッ!」
わたしは右手を掲げた。
影から取り出すのではない。魔力で、その場に「凶器」を形成する。
「――『教育的指導』の時間よ」
カッ!
わたしの手の中に、魔力で構成された『贋作パイプ椅子』が顕現した。
わたしはガルフの懐に飛び込み、無慈悲な連撃を開始する。
「腹ァッ!」
ズドンッ!!
強烈な前蹴り――腹砕き。
内臓を突き上げる衝撃に、ガルフが声もなく「く」の字に折れ曲がる。
「背中ァッ!」
バギィッ!!
前屈みになった無防備な背中に、パイプ椅子をフルスイング。
背骨がきしむ音と共に、ガルフが膝をつく。
そして。
ガラ空きになった後頭部へ、三撃目。
「飾りなさいッ!!」
ガシャアアアンッ!!!
脳天への直撃。
パイプ椅子の座面が衝撃で貫通し、ガルフの首にすっぽりとはまる。
彼は白目を剥き、ひしゃげたパイプ椅子のフレームを悪趣味なネックレスのようにぶら下げた。
これぞわたしの黄金コンボ。
『恐怖の首飾り』の完成だ。
――だが、まだ終わらない。
これではただの「オブジェ」だもの。片付けなくては。
「ふぅ……。いい角度でハマったわね」
わたしは手ぶらになった右手を振ると、すかさずもう一脚、新たな『贋作パイプ椅子』を生成し、握りしめた。
目の前には、椅子の残骸を首から下げて膝立ちになっている巨体。
まるで、ティーバッティングのボールだ。
わたしは足を大きく広げ、腰を落とし、パイプ椅子をバットのように構えた。
「さあ、場外へ飛んでいきなさい! ――『断罪のフルスイング』ッッ!!!」
ズドォォォォォォォォンッ!!!!!
出力一割ながらも全身全霊のスイング。
わたしの椅子が、ガルフの首にある「椅子のネックレス」ごと、その巨体を真横に叩き抜いた。
椅子と椅子が激突する金属音と、肉が弾ける音が重なり、衝撃が増幅される。
ガルフの巨体は水平に吹き飛び、金網を紙細工のように突き破り、そのまま観客席の奥深くまで突き刺さった。
さらに、その衝撃の余波で、頑丈に組み上げられていたはずのデカゴンの金網が、支柱ごと根こそぎひしゃげ――まるで安い舞台の書割が倒れるように、四方八方へと全て倒壊した。
もう、リングすら存在しない。
あるのは、瓦礫の山と化したステージに立つ、わたしだけ。
「う、うわぁあああぁあッッ!! 闘技場の最高傑作が!! ガルフーーーーッッ!!!」
VIP席から、ゴルドーの絶叫が響き渡った。
彼は顔面蒼白になり、手すりにしがみついて泣き叫んでいる。
「嘘だろ!? 金も時間も魔力も注ぎ込んだ、私の最強の商品が!! なんであんな鉄屑の一撃でェェェッ!!」
自分の足の痛みも忘れ、資産の喪失に泣き崩れるゴルドー。
わたしは倒れた金網の上を悠然と歩き、外へ出て、彼の方へと歩み寄った。
「契約破棄よ。……ここからは『教育的指導』の延長戦だわ」
相棒(椅子)への侮辱は、レヴィの逆鱗です。魔力解放からの椅子攻撃連打、そしてネックレス・オブ・フィアーからの特大ホームラン! これぞカタルシス!
「スカッとした!」「これが見たかった!」と思っていただけましたら、ぜひ最大評価をお願いいたします!




