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悪役令嬢の凶器はドス黒い鈍器です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも、私の筋肉とパイプ椅子には勝てません~  作者: 月館望男
【第5部】帝都帰還・数値(ステータス)至上主義粉砕編 ~泥棒猫のチート能力、物理でへし折って差し上げます~
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第41話 前哨戦①:『必中』は掴めば止まるし、『絶対防御』は埋めれば終わる

本日2回更新です(こちらが2回目の更新になります)。

 皇帝陛下の御前試合まで、あと数日。

 学園内は、ケビンが優勝し、わたしを「賞品」として手に入れるという噂で持ちきりだった。


「……本当に、虫唾が走るわね」


 放課後の活動拠点(ちゃんこ道場)外。わたしは親衛隊のメンバーたちと共に、優雅に(ミリアが作った味噌汁を飲みながら)休憩していた。

 周りの生徒たちは遠巻きにこちらを見ているが、その視線は相変わらず冷ややかだ。


「レヴィーネ様、申し訳ありません……。私たちがもっと強ければ、あんな男に好き勝手言わせないのに」


 親衛隊の男子生徒が拳を握りしめる。

 彼らはリハビリ(スクワット)を繰り返し、少しずつ覇気を取り戻しているが、染み付いた「Fランク」の劣等感はまだ拭えていない。


「焦ることはないわ。筋肉は裏切らない。あなたたちの積み重ねは、いつか必ず――」


 わたしが言いかけた、その時だった。


 ヒュンッ!!


 鋭い風切り音がして、何かがわたしの眉間めがけて飛来した。

 殺気はない。だが、明確な害意がある。


 パシィッ。


 わたしは顔色一つ変えず、目の前に迫った「それ」を、人差し指と中指で挟み取った。

 それは、青白い魔力を纏った矢だった。


「……お茶の時間に矢文とは、随分と風流な挨拶ね」


 わたしが矢を指先でへし折ると、植え込みの陰から数人の男子生徒が現れた。

 胸には『S』ランクのプレート。ケビンの取り巻きたちだ。


「へえ、まぐれで取ったか? 俺の『必中弓』を」


 先頭に立つ狩人風の男が、ニヤニヤと笑いながら弓を構え直した。


「ケビン様からの命令だ。『試合前に少しばかり、田舎娘に分からせてやれ』とな。……安心しろよ、死にはしない。手足の二、三本動かなくしてやるだけだ」


「ひぃッ! 逃げてくださいレヴィーネ様! あいつは『魔弾の射手』! 狙った獲物は絶対に外さない、自動追尾のスキル持ちです!」


 親衛隊のメンバーが悲鳴を上げる。

 自動追尾。なるほど、ゲームでよくあるエイム補正というやつか。


「逃げる? なぜ?」


 わたしは立ち上がり、ドレスの埃を払った。


「雑魚の掃除も、ヒールの務めよ。……かかってきなさい」


「ナメやがって……! 思い知らせてやる! スキル発動――『ホーミング・アロー』ッ!」


 男が放った矢は、一本ではない。十本同時に、しかもそれぞれが生き物のように軌道を変え、わたしの四肢を狙って襲いかかってきた。

 右へ避ければ右へ曲がり、左へ避ければ左へ追ってくる。


「無駄だ無駄だ! 俺の矢は命中するまで追い続ける!」


 男が勝ち誇ったように笑う。

 アリスが「うわ、クソエイム救済スキルじゃん……」と呆れた声を上げる中、わたしはその場から一歩も動かずに鉄扇を開いた。


「……『必中』? それがどうしたの?」


 ガガガガガッ!!


 硬質な音が連続して響いた。

 わたしは鉄扇を高速で振るい、迫りくる十本の矢をすべて叩き落としたのだ。


「な、にィッ!?」


「確かに矢はわたしに向かって飛んできたわ。……でも、当たったからといって『刺さる』とは限らないでしょう?」


 わたしは冷たく言い放った。

 自動追尾だろうが必中だろうが、飛んでくる物体である以上、物理法則からは逃れられない。

 軌道が見えていて、速度がこちらの反射神経以下なら、叩き落とすのは造作もないことだ。


「ば、馬鹿な……! 俺のSランクスキルだぞ!? 物理で無効化できるわけが……」


 射手が狼狽える中、その後ろに控えていた巨漢が、ドスンと前に踏み出した。

 彼は全身を覆う巨大なタワーシールドを構え、その腕には不自然なほど太い筋肉が盛り上がっている。


「どけ、弓使い。……チマチマした攻撃など、所詮は小手調べよ」


 巨漢は不敵に笑い、わたしを見下ろした。


「俺は『絶対防御』と『超怪力』のダブルSランクホルダーだ。……貴様がいくら素早く動けたところで、この最強の盾と矛の前には無力だ!」


 巨漢が盾を構えたまま突進の構えを取る。

 その足元の地面が、踏み込みの圧力だけで砕け散った。


「俺の攻撃は、城門すら一撃で粉砕する! そして俺の盾は、あらゆるダメージをゼロにする! つまり俺は無敵の戦車だ! 潰れろォォッ!!」


 ドゴゴゴゴッ!!


 巨漢が猛スピードで突っ込んでくる。

 単純だが、それゆえに強力な質量攻撃だ。


(……なるほど。攻撃力と防御力を両立した、動く要塞気取りってわけね)


 わたしは鉄扇を閉じ、足元の影に手を伸ばした。


「アリス。あの盾の『絶対防御』スキル、『重量』への耐性はどうなってるの?」


 わたしが尋ねると、アリスは眼鏡の位置を直しながら冷静に分析した。


「えっとね……たぶん、ダメージ判定を無効化するだけだから、『重さ』そのものはキャンセルできないと思うよ。座標固定スキルまでは持ってなさそうだし」


「ふうん。……なら、答えは簡単ね」


 わたしは相棒の「贋作(フェイク)」……ではなく、足下の影から「本物(オリジン)」を引き抜いた。

 相手は無敵を謳っているのだ。中途半端な魔力構成体では失礼だろう。


 ズヌゥッ……。


 現れたのは、光さえ吸い込む『漆黒の玉座』。

 その絶対的な質量が、空間を歪ませる。


「……は? 椅子?」


 巨漢が突進を止めようとするが、慣性は消せない。

 その隙を見逃すほど、わたしは甘くない。


 わたしは『玉座』を、軽々と頭上へ放り投げた。

 そして、落ちてくる玉座の座面を、跳躍して上から思い切り踏みつけた。


「無敵なんでしょう? なら、これくらい耐えられるわよね!?」


「――『断頭台(ギロチン)』ッ!!!」


 わたしの体重+『漆黒の玉座』の超質量+身体強化による加速。

 それらが一点に集中し、突進してくる巨漢の頭上へ垂直落下する。


「ぐ、無駄だァ! 俺の盾は無敵……」


 ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!


 校舎が揺れるほどの轟音が響き渡った。

 巨漢の姿が消えた。

 いや、消えたのではない。


 地面に大穴が空いていた。

 その底で、巨漢は盾を構えたポーズのまま、地面に深くめり込んでいた。

 盾は砕けていない。彼自身も、スキルの効果で「ダメージ」は受けていないのかもしれない。

 だが、人間が耐えられる限界を超えた荷重によって、彼が立っていた石畳と土台そのものが崩壊し、彼は生き埋めになったのだ。


 わたしは大穴の縁に立ち、『玉座』を回収しながら見下ろした。

 埋まった巨漢は、白目を剥いて気絶している。ダメージはなくとも、衝撃と生き埋めの恐怖で精神が持たなかったらしい。


 その光景を見ていたアリスが、やれやれと首を振り、呆れたように呟いた。


「……あーあ。防御力は無限でも、足場の強度は有限だったみたいね」


「ひ、ひぃぃぃッ!?」


 残った射手と取り巻きたちが、腰を抜かして後ずさる。

 彼らの自慢の「Sランクスキル」が、物理という現実の前に、赤子のようにひねり潰されたのだ。


「お、覚えとけよ! ケビン様が……御前試合でケビン様が本気を出せば、お前なんて一捻りだ!」


 捨て台詞を吐いて逃げ出す彼らの背中に、わたしは鉄扇を広げて優雅に手を振った。


「ええ、楽しみにしているわ。……そのケビン君にも伝えておきなさい。『ステータス画面の手入れでもして、首を洗って待っていろ』とね」


 静寂が戻った中庭で、親衛隊のメンバーたちがポカンと口を開けていた。


「す、すげぇ……」

「ダブルSランクを、あんな力技で……」

「数値なんて、関係ない……本当に、関係ないんだ……!」


 彼らの目に、かつてないほどの熱い光が宿り始めていた。

 見えない檻にヒビが入った音が、わたしには確かに聞こえた。


「さあ、休憩は終わりよ。スクワット再開!」


「は、はいッ! 姐さんッ!!」


 こうして、前哨戦はわたしの圧勝で幕を閉じた。

 だが、本番はこれからだ。

 御前試合。そこでわたしは、このふざけた数値至上主義ごと、ケビンを公開処刑する。

スキル頼みの相手を物理で圧倒。必中も絶対防御も、現実の質量には勝てません。

この爽快感を共有していただけましたら、ぜひ評価ポイントをお願いいたします。

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