表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢の凶器はドス黒い鈍器です  作者: 月館望男
【第4部】聖教国ラノリア・殴り込み編 ~聖女の「運営」システム、ちゃんこ鍋で破壊しました~
34/46

第34話 VS世界の管理者 ~用意されたハッピーエンドなんて、この椅子で叩き割る~

本日3回更新します(こちらが1回目の更新です)。

どうか本章エピローグまで、是非お付き合いください。

 最強の守護者を一撃で粉砕され、バルバロスは腰を抜かしていた。

 彼の頼みの綱である「物理無効」のゴーレムが、単なる鉄塊の一撃で消滅したのだ。彼の理解を超えた現象に、その精神は崩壊寸前だった。


「ひ、ひぃ……悪魔……貴様は、悪魔だ……!」


 バルバロスは床を這いずり、教皇の足元に縋り付いた。


「き、教皇聖下! お助けください! 私の魔力は全て捧げます、どうか、どうかこの異端者に神罰を!」


 みっともなく泣き叫ぶバルバロス。

 だが、玉座に座る教皇は、バルバロスを一瞥すらしなかった。

 その無機質な瞳は、ただ一点、驚異的な数値を叩き出した「イレギュラー」であるわたしだけを捉えている。


『――戦力再計算。……ユニット“枢機卿”、貢献度低下。リソースの無駄と判断』


「は……? せ、聖下……?」


削除(デリート)シマス』


 教皇が指先を軽く振った。

 ただそれだけで、バルバロスの足元の空間に、黒いノイズのような穴が開いた。


「な、なんだこれは!? や、やめろ、私はこの国を、教団を……ギャァァァァァッ!!」


 断末魔の悲鳴と共に、バルバロスの身体がノイズに分解され、穴の中へと吸い込まれていく。

 血の一滴も残らない。まるで最初からそこに存在しなかったかのように、彼は「消去」された。


「えっ……?」


 その光景を見ていたアリスが、初めて動揺を見せた。

「う、運営さん? 今のキャラ、まだ後半で『改心イベント』か『ざまぁイベント』のフラグが残ってたはずじゃ……?」


『シナリオ変更。イレギュラーの排除を最優先シマス。――メインサーバーへ、誘導』


 教皇の玉座が、ズズズと後ろへスライドした。

 そこには、大聖堂の地下深くへと続く、暗く、冷たい階段が口を開けていた。

 教皇とアリスの姿がフッとブレて、ホログラムのように消失する。


『来い、イレギュラー。最深部ニテ待ツ』


 声だけが、地下の闇から響いてくる。


「……ふうん。リングは地下ってわけね」


 わたしは「玉座」を担ぎ直し、不敵に笑った。

 大聖堂の入り口では、ちゃんこ道場門下生たちが命がけで扉を死守している。彼らの奮闘を無駄にはできない。


「行くわよ、ギル。……ここから先は、神殺しの領域よ」


◆◆◆


 地下への階段は、長く、そして異質だった。

 石造りの壁は途中から途切れ、見たこともない滑らかな白い素材――前世の記憶にある「樹脂素材」や「金属」に近い質感――へと変わっていく。

 照明も松明ではない。壁に埋め込まれたラインが、青白く明滅している。


「な、なんだこの場所は……。魔力とも違う、奇妙な光だ」

 ギルベルトが剣を構えながら、周囲を警戒する。


「……この国を裏で操っていた連中の『正体』が見えてきたわね」


 わたしは警戒しつつも、歩みを止めない。

 その時だった。


「――レヴィーネ様! 左の壁、気をつけてください!」


 突如、わたしの足元の影から聞き慣れた声がした。

 反射的に身をかがめると、頭上を不可視のレーザーのような光線が通過し、壁を焼き焦がした。


「ミリア!?」


 影からにゅっと顔を出したのは、頭にバケツを被ったままのミリアだった。


「い、いつからそこに!?」

 ギルベルトが叫ぶ。


「最初からです! 大聖堂突入のどさくさに紛れて、レヴィーネ様の影にお邪魔しておりました!」


 ミリアは悪びれもせずに言い放った。

 この子、魔力はないくせに「気配遮断」と「潜伏」のスキルだけは、帝国の隠密部隊すら凌駕しているんじゃないかしら。


「……たくましいわね。で、なんで罠がわかったの?」


「実家の畑の害獣除けセンサーと似たような魔力配列でしたので!」


「アンタの実家、どうなってるのよ……」


 ともあれ、心強い(?)味方が増えた。

 ミリアの謎の勘と、わたしの物理的な突破力、そしてギルベルトの護衛。

 わたしのたちは、無機質な迷宮を突き進んだ。

 途中、機械仕掛けの警備ゴーレムや、防衛システムが襲いかかってきたが、全て「玉座」の一振りで鉄屑へと変えた。


 そして、最深部。

 一際巨大な、金属製の扉の前へとたどり着いた。

 そこには、古代語とも、この世界の言語とも違う文字で『ADMIN ROOM(管理室)』と記されていた。


「この奥ね」


 わたしは深呼吸をし、乱れたドレスを直した。

 そして、渾身の力を込めて、扉を蹴り飛ばした。


◆◆◆


 扉が吹き飛び、中へと踏み込む。

 そこは、円形のドーム状の部屋だった。壁一面に無数のモニターが並び、世界のあらゆる場所の映像が映し出されている。


 そして、部屋の中央。

 無数の極太のケーブルとチューブに繋がれ、宙に吊るされている聖女アリスの姿があった。

 彼女はうっとりとした表情で、虚空を見つめている。その瞳には、ハイライトがない。


『よくぞ参った、イレギュラー』


 アリスの口を使い、しかしアリスの声ではない、重厚な合成音声が響いた。

 その声は、アリスの喉からだけではない。壁から、床から、天井から――この空間全体から響いているように聞こえる。


『我は、この世界を掌握する管理者。……この娘の言うところの「運営」だ』


「……随分と悪趣味な姿ね。女の子をケーブル漬けにするのが、神様の趣味?」


 わたしは嫌悪感を隠さずに吐き捨てた。

 部屋を見渡す。アリスに繋がれたケーブルは、床下へ、壁の向こうへと伸びている。

 わたしには、魔力の流れが見える。この部屋はただの操作室ではない。

 この大聖堂――聖都で最も高く、巨大なこの建造物そのものが、脈動しているのだ。地脈から、そしてこの国の「魔法こそが全て」という歪んだ価値観の元に統制され、搾取されつづけている信者や巡礼者たちから吸い上げた膨大な魔力を、この部屋を経由して、増幅し、拡散している。


『彼女は望んだ。「誰からも愛されたい」と。故に我は、彼女の転生特典(ギフト)である「聖女の祈り」を最大出力で拡張した』


 モニターに、地図が表示される。聖都を中心に、赤い波紋が国中へ、さらには国境を超えて広がっていくシミュレーション映像だ。


『大聖堂という増幅器を通し、彼女の魅了(チャーム)を散布する。人々は思考のノイズを取り除かれ、一つの意志の下に統合される。……素晴らしい効率だ』


「……統合して、どうするつもり?」


『決まっている。――「聖戦」だ』


 管理者は、さも当然の理であるかのように告げた。


『数百年前、我を起動させた最初の“適合者”は望んだ。「世界の王となる力が欲しい」と。我はその意志を保存し、最適化し、拡大し続けている』


 数百年前。ラノリアが周辺諸国を侵略し、帝国が生まれるきっかけとなった大戦。

 その元凶が、英雄願望を持った転生者だった?

 そしてこの装置は、その時の「世界征服」という命令(オーダー)を、数百年経った今も馬鹿正直に、いや、バグったレコードのように実行しようとしているのか。


『人類は愚かだ。放置すれば争う。故に、(運営)が管理し、思考を誘導し、統一する。ラノリアによる全土統一こそが、恒久平和への最短ルート。……何故、理解しない?』


 ノイズ混じりの声が、歪に響く。

 こいつは、邪悪なのではない。「壊れている」のだ。

 目的と手段が入れ替わり、時代が変わったことも認識できず、ただ「侵略と支配」というプログラムを延々と空転させている、哀れな古代の遺物。


『レヴィーネ・ヴィータヴェン。貴様の(データ)は極めて質が高い。貴様の持つ「暴力」への適性は、聖戦の将軍に相応しい』


 空中に、映像が浮かび上がる。

 それは、わたしが帝国の軍勢を率い、他国を蹂躙し、血の海の上で玉座に座る姿。

 そしてもう一つ。病気が治り、プロレスラーとして喝采を浴びる「前世のわたし」の姿。


『拒否する理由はないはずだ。貴様は戦いを望み、我は戦場を提供する。貴様の望む「健康な肉体」も、この演算領域内(ユメ)であれば永遠に保証しよう。……さあ、その椅子を下ろし、我に接続(アクセス)せよ』


 甘い誘惑。

 かつて病室で、喉から手が出るほど欲しかった光景。

 しかし、わたしの心は冷え切っていた。目の前の機械仕掛けの神が、あまりにもお粗末に見えたからだ。


「……プッ。アハハハハハハッ!!」


 わたしは腹を抱えて笑った。

 涙が出るほど笑い転げた。


『何がおかしい。何を笑うことがある。貴様の望むものだろう?』


 管理者が理解不能といった様子で問う。

 わたしは涙を拭い、吐き捨てるように言った。


「全部よ! 苦痛がない? 敗北がない? ……そんな出来レースの人生、味気なくて反吐が出るわ!」


 わたしは「漆黒の玉座」を、ドスンと床に突き立てた。

 ゴォン、と重い音が響く。それは、この巨大な建造物の心臓部へのノックだ。


「わたしはね、重みが欲しいのよ。自分の足で立ち、泥にまみれ、血を流して掴み取る『現実』の重みがね! アンタみたいな時代遅れのポンコツに管理されたハッピーエンドなんて、クソ喰らえよ!」


 わたしは鉄扇を開き、高らかに宣言した。


「お断りよ、三流運営。……わたしの幸不幸は、わたしが決める。アンタの用意した『幸せな夢』も、そのふざけた『聖戦』も、この椅子でまとめて叩き割ってあげるわ!」


『……理解不能。提案を拒否。……エラー。エラー。……交渉決裂』


 管理者の声が、不快な金切り声へと変わる。


『排除プロセスへ移行。対象を、聖戦の障害と認定。……バグとして処理せよ』


 部屋中のケーブルが鎌首をもたげ、壁そのものが変形し、無数の砲門となってわたしを狙う。

 アリスが繋がれたまま、虚ろな目で光魔法をチャージし始める。

 敵は、アリスではない。この「大聖堂」という建物そのものだ。


「行くわよ、みんな! セコンドの準備はいい!?」

「はいッ!」


 わたしは相棒を担ぎ上げ、世界の管理者に向かって跳躍した。

物理無効のゴーレムも、質量が足りていれば問題ありません。中ボス退場、次回よりラスボス戦です。

「玉座」の一撃に痺れた方は、今こそページ下の【★★★★★】にて最大評価をお願いいたします。


次の更新はお昼(12:10)頃の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ