第21話 悪役令嬢、探偵をはじめる。……どうやら三流の脚本家(スパイ)が紛れ込んでいるようです。
その後、似たようなことが二度、三度と続いた。
図書室で、裏庭で、あるいは廊下の隅で。わたしは下位貴族や地方貴族出身のもの、あるいは平民出身の特待生などが、中央の高位貴族子弟によって理不尽に虐げられている場に遭遇すれば、迷うことなく介入した。
そのたびに、わたしの脳内では高速の安全確認が行われる。
(正当防衛よし! 耐久力Dマイナス! 『プラスチックバット』級パイプ椅子で!)
(先手確認よし! 身体強化微弱あり! 『木刀』級パイプ椅子で!)
「チェア!」
それぞれのパターンで魔力で形成された命具たるパイプ椅子を顕現させる。
そして手加減をしても確実に相手の身体を「く」の字に折れさせる、『獣の穴』直伝の超速かつ強力無比な腹砕きを打ち込み、前屈みになった背中にパイプ椅子を一撃。
そして、衝撃に膝立ちに崩れて、ガラ空きになった脳天へ、トドメの「躾」を振り下ろす。
ズドォン!! ドパァアアン!!! バコォオオン!!!
決着は早い。
打ち込んだパイプ椅子の座面を頭が貫通し、座面が宙に舞えば、パイプ椅子の残骸を悪趣味なネックレスのようにぶら下げた敗者の出来上がりだ。
そうして数人を殴打し、観察した結果、わたしの見立ては確信へと変わった。
パイプ椅子を脳天に受けた貴族子弟――つまりは常軌を逸した横暴を行っていた連中は、もれなく頭部を粘着質な黒いモヤに覆われていたのだ。
これは影魔法・闇魔法の使い手である、わたしにしか視認できていないもののようで、闇の魔力の残滓――それも悪趣味な洗脳魔法の痕跡だった。
そのことに気づいたものの、生憎と光魔法の解呪や浄化などできないわたしは、自分の闇の魔力を命具に流し込み、黒いモヤが押し出されるまで殴り続けることにした。
「チェア! チェア! チェア!!」
バコォオオン!!! バコォオオン!!! バコォオオン!!!
パイプ椅子を連続で顕現させては、闇の魔力をこめて脳天に叩きつける。
大体は三発も直撃させれば、黒いモヤは霧散した。手加減と引き換えに回数が増えるのは致し方がない。
ただ代償として悪趣味なネックレスを三重にかけた敗北者が転がることになったし、わたしは平気でオーバーキルをやらかす悪役令嬢として、さらに孤高の存在となってしまったけれど。
まぁそれはいい。
(……これは、ただのくだらない子供のプライド争いではないわね)
わたしは自室のソファに深く沈み込み、これまでの「症例」を分析していた。
何者かが意図的に、地方と中央、上位と下位、貴族と平民との間の分断を狙っているのだ。
この洗脳魔法は、対象の思考を完全に塗り替えるような高度なものではない。元からある「小さな差別心」や「増長」といった負の感情に、一定の方向性を持たせて誘導し、増幅させているだけだ。
「……まったく。こんなことをするバカがいるから、闇魔法は偏見を受けるのだわ」
わたしは吐き捨てるように呟いた。
同じ闇魔法の使い手として、このような搦め手で、しかも術者の品性が疑われるような使い方をされていることに、強いプロ意識の毀損を感じる。
これは、悪役としてのわたしの美学に対する、明確な挑戦状だった。
「いいでしょう。姿の見えない陰湿な脚本家さん。……貴方の撒いた種は、この『北の撲殺令嬢』が、根こそぎ刈り取って差し上げますわ」
わたしは影の中に「相棒」の冷たい感触を確かめ、静かに闘志を燃やした。
学園に蔓延る陰謀の影。物理的な「治療」を開始いたします。
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