第203話 外伝・通信ログ③ 件名:産休に入ります(仕事は持ち込みます)。
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【通信No.014】
送信者:ミリア・ラノリア(旧姓コーンフィールド/連邦皇国宰相 兼 ラノリア王妃)
受信者:ギルベルト・ラノリア(ラノリア国王・夫)、アレクセイ・ガルディア(連邦皇国王配)
CC :イリス(統合管理AI)
件名:【重要】業務引き継ぎおよび「プロジェクト・ネクスト」始動のご報告
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拝啓 ギルベルト陛下、アレクセイ殿下。
季節の変わり目、タカニシキの穂が黄金色に輝く季節となりました。
さて、予てよりお伝えしておりました通り、私、ミリア・ラノリアは、来週より無期限の長期休暇――すなわち「産前産後休業」に入らせていただきます。
正直なところ、不安しかありません。
私がデスクを離れることで、V&C商会の株価が暴落しないか、レヴィーネ様が退屈のあまり新しい山脈を粉砕しないか、イリスの演算サーバーがパンクしないか。
胃痛の種は尽きませんが、腹の中の「新しい命」が、最近元気に私の胃袋を蹴り上げて主張してくるのです。「母上、そろそろ休んで栄養を寄越せ」と。
つきましては、私の不在期間中における「世界経済のモニタリング」および「レヴィーネ様の暴走抑制(経理面)」の権限を、一時的にアレクセイ殿下とイリスに移譲いたします。
私の人生の収支決算を預けた夫がいるラノリアにて、安心して出産に臨めるよう、鉄壁のバックアップをお願い申し上げます。
追伸:
ギルベルト様。先日の検診で、子供の性別が判明しました。……ふふ、どちらだと思います? 帰国したら一番にお伝えしますね。
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【通信No.015】
送信者:ギルベルト・ラノリア
受信者:アレクセイ・ガルディア
件名:妻の帰国と、君への頼み
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アレクセイ殿。
ミリアからの連絡、確認した。
いよいよだ。あの仕事の鬼だった彼女が、母になる。
私がラノリアで彼女を迎える準備は万全だ。筋肉神官団による護衛、最高級の医療スタッフ、そして彼女の好物である「ミソ・スープ」の予備も確保した。
そこで、君に頼みがある。
ミリアが休んでいる間、この世界の「舵取り」を頼めるのは君しかいない。
レヴィーネ姐さんは「あら、ミリアがいないなら私が全部殴って解決しますわ」と言い出しかねない(実際、昨日の会議で言いかけた)。
それを止め、論理と政治で解決できるのは、君だけだ。
かつて、東の樹海で泥まみれになりながら道を拓いた君の粘り強さを、私は知っている。
どうか、ミリアが安心して休めるよう、世界を支えてやってくれ。
追伸:
……正直に言おう。怖いのだ。
国の行く末ではない。父親になることが、だ。
生まれてくる小さな命を、このゴツゴツした手で抱けるのだろうか?
君は既にエレノア様の父として、その道を歩んでいる。
もしよければ、心構えなどを……いや、忙しい君にこのような個人的な相談は迷惑だろうか。無視してくれて構わない。
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【通信No.016】
送信者:アレクセイ・ガルディア
受信者:ギルベルト・ラノリア、ミリア・ラノリア
件名:Re: 妻の帰国と、君への頼み(および添付資料150点)
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ギルベルト、そしてミリア殿。
まずは祝福を。
新しい命の誕生は、どんな国家事業よりも尊く、そして予測不能なプロジェクトだ。
世界経済のモニタリング? 我が妻レヴィーネの制御?
任せておけ。私とイリスがいれば、大陸の塵一つ見逃さない。ミリア殿は安心して、ラノリアの離宮で足を伸ばしていればいい。
さて、ギルベルト。
君の不安は痛いほど分かる。
私もノアが生まれる前夜、震えが止まらず、意味もなく城壁の補強工事図面を見直していたものだ。
「無視してくれ」とあったが、そうはいかない。
先輩パパとして、そして友として、君たちに必要な「データ」を送ろう。
【添付ファイル:ガルディア式・育児の心得と対策.pdf】
主な内容:
1. 「妊婦の食欲はドラゴンの如し」
レヴィーネの時は凄まじかった。真夜中に「西方のアンチョビと東方の焼き芋を同時に食べたい」と言い出し、私が転移魔法で走り回った記録を添付する。ミリア殿も今は理性的だが、ホルモンバランスの変化は論理を超越する。ラノリア中の食材リストと、即応可能なシェフのシフト表を作成しておくことを強く推奨する。
2. 「マッサージの極意」
大きくなったお腹は、腰への負担が甚大だ。私が開発した「妊婦専用・魔力循環マッサージ」の術式を伝授する。君の筋肉ならば、絶妙な力加減が可能だろう。ただし、指圧の角度が1度ずれるだけで妻の機嫌は氷点下になる。練習用のマネキンを用意しろ。
3. 「出産は攻城戦である」
レヴィーネの出産の際、皇城の壁が物理的に半壊した件は知っているな? ミリア殿はレヴィーネほどではないにせよ、農作業で鍛えた「生活筋」の持ち主だ。陣痛の際に握りしめる「手すり」は、ミスリル合金製に交換しておけ。普通の木製ベッドでは、握力で粉砕されるぞ。
4. 「産後のメンタルケア」
これが最も重要だ。……いや、書ききれない。
今夜、専用回線を開く。朝まで語り合おう。
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【通信No.017】
送信者:イリス(統合管理AI)
受信者:ミリア・ラノリア
件名:モニタリング状況報告(と、アレクセイ様の異常行動について)
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マスター(ミリア様)。
現在、業務の98%は私とアレクセイ様で分担し、正常に処理されています。
株価変動、物流トラブル、レヴィーネ様の突発的な「お散歩(地形変更)」……全て想定範囲内です。
ですが、報告すべき異常値があります。
アレクセイ様のテンション係数です。
ギルベルト様からの相談を受けて以来、彼の処理能力が通常の300%に向上しています。
「友が父親になるんだ。完璧な環境を整えねばならん」と呟きながら、片手で国務をこなしつつ、もう片方の手で「赤ちゃん用・揺れない魔導ゆりかご」の設計図を引いています。
さらに、「ノアの時はこうだった」「あの時の失敗は繰り返させない」と、自身の育児ログを高速で検索し、ギルベルト様へのアドバイス資料を作成し続けています。
……マスター。
かつて「男のケジメ」とか「成果を出すまでは連絡しない」などと言って、3年間も貴女の胃に穴を開け続けたあの面倒くさい男と、同一人物とは判定できません。
人間とは、環境要因(主に配偶者と子供)によってここまでアルゴリズムが書き換わるものなのでしょうか?
興味深いサンプルデータとして記録しておきます。
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【通信No.018】
送信者:アリス(アリス農林水産省・大臣兼アイドル)
受信者:ミリア・ラノリア
件名:そっちに行くよー!
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ミリアちゃーん!
お休み突入おめでとう!
今、レヴィちゃんと一緒に「特急ブラック・ヴィータヴェン号」の特別車両に乗ったところ!
もちろん、目的地はラノリアだよ!
レヴィちゃんが「ミリアの一大事に、主が立ち会わないわけにはいきませんわ。……それに、アレクがあんなに張り切ってマニュアルを作っているんですもの。実技指導も必要でしょう?」って、鉄扇をバシッ!て鳴らしてね。
なんと、皇都の留守番はノブナガおじさんと、マラグおじいちゃんに押し付けてきちゃった!(お二人が「ミリアの子ならワシらの孫(ひ孫も)同然! ワシらも顔が見たい!」って暴れたけど、レヴィちゃんが物理で説得してたよ……)
私も、「ゆりかごの加護」をかけに行くからね!
ノアちゃんの時もかけた、絶対無敵の守りの魔法だよ。
元気な赤ちゃん、絶対に取り上げてみせるから!
待っててね、戦友!
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【通信No.019】
送信者:ミリア・ラノリア
受信者:ギルベルト・ラノリア
件名:夫の変化について(少し、惚れ直しました)
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ギルベルト様。
アレクセイ様からの、あの膨大なデータ量のメール……読みましたか?
正直、笑ってしまいました。
「ベビーベッドの柵の強度はAランク以上を推奨」「夜泣き対応時の仮眠の取り方(3分刻み睡眠法)」……。
あのクールで冷徹だった「氷の皇子」が、今や「熱血お父さん」の鏡です。
かつて、大陸横断道路の工事中、私たちがどれだけ彼の「男のプライド」と「既読スルー」に胃を痛めたことか。
「完璧な成果を持って現れるまでは会わない」なんて、今思えば若さゆえの過ち……いえ、不器用な愛の形だったのでしょうね。
でも、今の彼は違います。
完璧さを求める方向が、「自分のプライド」から「家族の笑顔」へとシフトしています。
レヴィーネ様とノア様が、彼を変えたんですね。
あんなにマメに、あんなに必死に、友人のためにアドバイスをくれるなんて。
ギルベルト様。
貴方が「怖い」と漏らしたこと、嬉しかったです。
王として弱音を見せない貴方が、私と子供の前では、ただの一人の人間でいてくれる。
アレクセイ様も、貴方も、変わりましたね。
とても、素敵に。
私も負けてはいられません。
お腹の子も「任せとけ!」とばかりに蹴りを入れてきました。
ふふ、誰に似たのか、随分と力強い子ですこと。
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【通信No.020】
送信者:ギルベルト・ラノリア
受信者:ミリア・ラノリア
件名:Re: 夫の変化について(到着を待つ)
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ミリア。
アレクセイ殿との徹夜の通信を終えたところだ。
彼の熱意(と、若干の親バカ自慢)に圧倒されたが、おかげで迷いは消えた。
彼が言っていた。「父親になるのに資格はいらない。ただ、妻の隣でオロオロしながら、それでも手を握り続ける根性があればいい」と。
……あのプライドの塊だった彼が言うと、説得力が違うな。
レヴィーネ姐さんとアリス殿も向かっているそうだ。
賑やかになりそうだ。
君の言う通り、アレクセイ殿も私も、そして世界も変わった。
だが、私たちの「絆」だけは変わらない。
最強の助っ人たちと、最強の妻(君)がいれば、何も怖くはない。
待っている。
我が愛する共同経営者よ。
人生最大のプロジェクトを、共に成功させよう。




