第18話 決闘騒ぎ(前編):その炎の魔剣、わたしの椅子で防げますか?
ズヌゥッ……。
影からせり上がってきたのは、煌びやかな命具の剣でも杖でもなかった。
無骨で、歪で、ドワーフが匙を投げた失敗作のような、黒い金属の塊。
ガチャリ、と重苦しい音を立てて、それが「椅子」の形になる。
「……は? い、椅子?」
「なんだあれ、ただの鉄屑か?」
アランが、そして数百人の観客たちが、理解が追いつかずに呆気にとられた声を上げた。
当然だろう。神聖な決闘の場で、令嬢が影から薄汚れたパイプ椅子を取り出すなど、前代未聞だ。
だが、これこそがわたしのスタイル。
わたしは、常人なら持ち上げることすら困難な重量級の「漆黒の玉座」を、片手で軽々と担ぎ上げた。
「さあ、課外授業の時間よ、熱血くん。――その熱い頭、物理で冷やしてあげる!」
「ふざけるな! そんなガラクタで、僕の魔剣が防げるものか!」
アランが激昂し、渾身の力で炎の斬撃を放ってきた。
岩をも溶かす高熱の刃が、わたしの「玉座」に直撃する。
ガギィィンッ!!!
甲高い金属音が響き渡り、火花が散った。
しかし、「玉座」は赤熱するどころか、傷一つついていなかった。
「な、なんだと……!?」
アランが目を見開く。
無理もない。これはただの鉄ではない。失われた古代技術で精製された「黒鋼」を、わたしの規格外の魔力とドワーフの秘技で鍛え直した、対物理・対魔法防御力SSS級のユニークウェポンなのだ。
「まだまだ! これならどうだ!」
アランは諦めず、二撃、三撃と打ち込んでくる。
わたしはそれを「玉座」の座面や背もたれで、的確に受け止めた。
カンッ! キィン! ガンッ!
重い衝撃が腕に伝わるが、身体強化したわたしの体幹は揺るがない。
炎の獅子が牙を剥くたびに、黒い鉄塊がそれを無造作に弾き返す。その光景に、観客席の嘲笑は消え、どよめきと畏怖へと変わっていった。
衆人環視の中、ついに「相棒」を抜きました。その硬度は折り紙付きです。
展開にワクワクしていただけましたら、ブックマークをお願いいたします。




