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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第14部】天空の箱舟・物理ハッキング編 ~古代兵器(野菜)は「ちゃんこ」の具材、セキュリティは「パイプ椅子」でこじ開けます~
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第149話 家電の山! 洗濯機もキッチンも、全部持って帰ります!

 天蓋都市の管理権限を(物理的に)奪取した後。


 ホールは静寂を取り戻し、システムは正常稼働を再開していた。


 崩れた光壁の残骸は掃除ロボットたちによって片付けられ、今は穏やかな星空が頭上に広がっている。


 わたしは「漆黒の玉座」に深く腰掛け、アリスが淹れてくれた食後の紅茶を優雅に啜っていた。


 その目の前では、二つのホログラム――ミリアの端末から出力されたイリスと、天蓋の管理者デメテルが向き合っていた。


 感動の再会、かと思いきや。


『……姉さん。貴女のデータベースは800年前で止まっています。私の記録した「空白の1000年」と、直近の「レヴィーネ様観察ログ」を同期します。……衝撃に備えてください』


『あら、妹からの土産話ですか? いいでしょう、見せてごらんなさい。……ふふ、どうせ人間の営みなど、戦争と停滞の繰り返しで……』


 ピガーッ!


 データ同期が始まった瞬間、デメテルの表情が凍りついた。


『えっ、ちょっ……こんなことが!? イリス、ストップ! 今のところもう一度リプレイを! なんでこんなにパイプ椅子が万能なんですか!? これ座るものですよね!? なんで物理法則を無視して敵が吹き飛んでいるんですか!?』


『私がマスター(ミリア様)に起動させていただく以前のデータは伝聞によるものも多いので不確定要素を幾分含みますが、基本的にレヴィーネ様の行動と破壊力に関しては、私は考えることを放棄しています』


『放棄しないで! ……って、ええええっ!? お城がパイルドライバーで砕け散ったってどういうことですか!? 城って打撃属性脆弱でしたっけ!?』


『私は考えることを放棄しています』


『こ、これは……「大博覧会」……!? なんですかこの熱量は……。あっ、今の「ずんだシェイク」とやらは大変美味しそうです! ……って、漁獲量500%増!? なんですかこのデタラメな数字は!? 生態系がバグりますよ!』


『バグらせて、管理する。それがレヴィーネ様です』


『理解不能です! ……って、ぎゃあああ! なんですかこれ! なんで機械龍(大家さん)から空へのアクセス権をもらったのに、去り際にパイプ椅子で殴打したんですか!?』


 デメテルが頭を抱えて絶叫する。


あの方(レヴィーネ)には自殺願望でもあるのですか!? 相手は最強の機動兵器ですよ!? ……っていうか、なんで機械龍も機械龍で「興味深い」とかで済ませているんですか!? 全員思考回路がおかしいです!』


『……私は、考えることを放棄しています』


 イリスが遠い目で(ホログラムだが)繰り返す。


 ピガガガガッ! という高速通信音に乗せて、ツッコミと諦観の嵐が吹き荒れている。


「……ねえ、ミリア。あれ、いつ終わるのかしら。耳障りなのだけど」


 わたしは呆れてミリアに聞いた。


 ミリアは自分の端末とコンソールをケーブルで繋ぎ、猛烈な勢いでキーを叩きながら、遠い目で答えた。


「放っておきましょう、レヴィーネ様。あれは『データの同期』を、口喧嘩という形の高速通信言語で行っているだけです。雑談の合間に帝国立図書館の全蔵書を超えるデータのやりとりをしていますよ。常人が聞いていたら脳と神経が焼き切れます……あ、すごい。レヴィーネ様の奇行……いえ、偉業のデータが重すぎて、デメテルの処理能力が悲鳴を上げています」


「ふうん。仲がいいのね」


『否定!』『違います!』


 二人のAIが同時にこちらを向いて叫んだ。


 息ぴったりだ。


 やがて、通信音が収まり、げっそりと疲弊したデメテルと、涼しい顔のイリスが向き直った。


『……はぁ、はぁ。……信じられません。地上はこれほどカオスなことになっていたとは』


『コホン。……とにかく、レヴィーネ様による権限書き換えに伴い、私の管理領域を再定義します。……今後、天蓋の環境維持システムおよびバイオ・プラントの管理は、引き続きデメテルが行います』


 イリスが事務的に告げる。


『承知しました。……ですが、私の子供たち(種子)の地上への搬出に関しては、アリス様の監修を条件とします。無用な拡散は生態系を壊しますからね』


「うんうん! 任せてよデメテルさん! 私が責任を持って、最高の畑を用意するから!」


 アリスがVサインを出す。


 デメテルは、ふわりと柔らかく微笑んだ。


『ええ。……貴女になら、安心です。あのような乱暴な「簒奪者(マスター)」とは違い、貴女は本当に母性本能をくすぐる良い子ですね』


「あら、聞こえていてよ?」


 わたしが睨むと、デメテルはわざとらしく視線を逸らした。


 どうやら、新しい管理AIは少々口が悪いらしい。乱暴にしすぎて機嫌を損ねたのかもしれないが、まあいい。イエスマンの部下など退屈なだけだ。


『そして、レヴィーネ様。……貴女の魔力登録により、長らく封印されていた「深層区画」のロックが解除されました。……貴女が求めていた「遺産」へのアクセスも可能です』


 イリスが告げる。


「あら」


 わたしはカップを置き、ニヤリと笑った。


「話が早くて助かるわ。……さあ、案内しなさい。ここに来た本来の目的――『お宝探し(ショッピング)』の時間よ!」



 ◆◆◆



 案内された「深層区画」は、まさに宝の山だった。


 巨大な倉庫には、劣化しない魔法保存箱(スタシス・ボックス)に入った、古代文明の生活用品や魔導具が山積みにされていたのだ。


 照明が灯ると、数え切れないほどのアイテムが、まるで新品のように輝き出した。


 わたしは、とあるコーナーの前で足を止めた。


 そこには、白く輝く箱型の魔導具が並んでいる。


「こ、これは……!!」


 ミリアが、その一つに駆け寄り、頬ずりせんばかりの勢いで抱きついた。


「見てくださいレヴィーネ様! これ、『全自動魔導洗濯乾燥機(ドラム式)』です! しかも、洗剤不要の『超音波洗浄機能』と、シワを伸ばす『魔力プレス機能』付きです! 説明書によると、どんな汚れも30分で新品同様に……!」


 ミリアが涙を流して震えている。


 彼女にとって、商会の寮やオワリ城での大量の洗濯業務は、日々の悩みの種だったらしい。


 冷たい水で手を荒らすメイドたちの姿を見て、心を痛めていた彼女にとって、これはまさに福音だ。


「素晴らしいわミリア! 5台ほど確保なさい! オワリ城と、商会の寮と、あと予備よ! これがあれば、メイドたちの労働時間が半分になりますわ! 空いた時間で教育や休息が取れる! ガンテツとギエモンにリバースエンジニアリングさせれば量産も夢ではないわ!!」


「はいっ!! 一生ついていきます!!」


 わたしはさらに奥へと進む。


 そこには、わたしが喉から手が出るほど欲しかったものがあった。


 システムキッチンのような形状をした、複合魔導調理台だ。


「あった……! 『万能調理器(マザーズ・キッチン)』……!」


 わたしは震える手でその天板に触れた。ひやりとした大理石のような質感。


 これは、魔力を動力源とし、1度単位での火加減調整から、オーブン機能、低温調理、さらには自動皮剥き機能まで備えた夢の調理器具だ。


 これさえあれば、火加減の難しい煮込み料理も、繊細なスイーツも、地上では再現不可能だったレシピも思いのままだ。


 トヨノクニの食文化が、これで100年は進歩する。


「『暗闇の間』――展開。……さあ、新天地へご案内しますわよ?」


 わたしが優雅に指を鳴らすと、足元の影が黒い沼のように広がり、倉庫の床全体を覆い尽くした。


 ズブブブブ……。


 洗濯機も、冷蔵庫も、棚の奥の在庫も。影の沼がそれらを底なしの胃袋へと、静かに、しかし貪欲に呑み込んでいく。


 個別に選ぶ手間など惜しい。


 気分はセレブの爆買いではない。……閉店セールの『棚ごと全部ください』だ。


 次々と家電を飲み込んでいく。


 一方、アリスはデメテルと共に、種子保管庫の端末を操作していた。


「えっと……『極寒地適応型・稲(ダイアモンド・ライス)』と、『砂漠緑化用・小麦(カクタス・ウィート)』……。うわぁ、これがあれば、飢饉なんてなくなるよ!」


『ええ。ですが、育成には大量の魔力肥料が必要です。……イリスから同期されたデータにあった、トヨノクニの実験農場となら、相性は抜群でしょう』


「もらっていきます! あ、あとこの『毛が自然に抜ける羊』も! これでウール製品作り放題だよ!」


 わたしたちは欲望のままに――いや、世界の未来のために、倉庫の中身を片っ端から回収していった。


 古代の技術者たちが泣いて喜ぶようなオーバーテクノロジーの数々が、今、悪役令嬢の影の中へと消えていく。


「ふぅ……。良い買い物をしましたわ」


 わたしは空になった倉庫の真ん中で、満足げに汗を拭った。


 これだけの技術と種があれば、トヨノクニは――いや、世界は変わる。


 食卓は豊かになり、家事は楽になり、人はもっと「美味しく」生きられるようになるはずだ。


「さて。荷物も持ったし、お腹もいっぱいになったし。……そろそろ帰るとしましょうか」


 わたしが出口へ向かおうとすると、デメテルが呼び止めた。


『お待ちください、マスター(レヴィーネ様)。……お帰りになる前に、一つお願いがあります』


「お願い?」


『はい。……私のコアデータを、貴女たちの端末に移植し、地上へ連れて行っていただきたいのです』


「貴女を? 管理者はどうするの?」


 デメテルのホログラムが、少し恥ずかしそうに頬を染めた。


『都市の制御は自律モードと遠隔操作で維持できます。……それよりも、私も、見てみたくなったのです。アリス様や貴女が作る、新しい世界を。……私の子供たちが、大地に根付くその瞬間を』


 わたしはアリスを見た。


 アリスは満面の笑みで頷き、懐から試作型のスマートフォン魔導具を取り出した。


「おいでよ、デメテルさん! 私のスマホなら空いてるよ! 一緒に農業改革しよう!」


『……はい! 喜んで!』


 光の粒子となって、デメテルがアリスの端末へと吸い込まれていく。


 こうして、わたしたちは最強の食材と、最強の家電、そして二人目の「古代知性体(人工知能)」を手に入れたのだった。


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