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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第14部】天空の箱舟・物理ハッキング編 ~古代兵器(野菜)は「ちゃんこ」の具材、セキュリティは「パイプ椅子」でこじ開けます~
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第147話 王権がない? ならば「玉座(物理)」でシステムをねじ伏せる!

「いっただっきまーす!」


 アリスが真っ先に椀を受け取り、ハフハフと口に運ぶ。


「んん~っ!! おいしぃぃぃ!!」


 アリスが頬を押さえて悶絶する。


「熱っ、うまぁっ! トマトの酸味とお味噌のコクが最高! それにこのコーン、ぷちぷち弾けて甘ーい! 大根も麺みたいにズルズルいけちゃう! 噛むとジュワッてスープが出てくるよぉ!」


「……信じられません。これ、本当に1000年前のサンプル肉ですか!?」


 ミリアも眼鏡を湯気で曇らせながら、箸が止まらない様子だ。


「古代豚の脂が甘い……口の中でとろけます。それにニンニクバターのパンチが効いていて、疲れが一気に吹き飛びます……!」


 そして、わたしも椀を受け取り、スープを一口。


「…………ふぅ」


 染み渡る。


 アリスの聖水ベースだからだろうか。胃に落ちた瞬間、温かい熱と共に、魔力が爆発的に回復していくのが分かる。


 枯渇しかけていた魔力回路に、黄金のエネルギーが満ちていく。


 美味しい。ただそれだけで、魂の震えが止まる。


「……あー、生き返りますわ」


 わたしは息をつき、遠巻きに見ているデメテルのホログラムに視線を向けた。


 彼女は、まるでバグったかのように明滅し、鍋を凝視している。


「……デメテル。貴女もこっちにいらっしゃい」


『……私はAIです。食事など不要……』


 彼女は頑なに拒絶する。


『それに、貴女たちは野蛮な略奪者です。私の子供(野菜)たちを殺し、切り刻み、煮込んで……なんて残酷な……』


「違うよ、デメテルさん」


 アリスが、大根を頬張りながら、穏やかな声で言った。


「略奪じゃないよ。……『いただきます』だよ」


『……いただきます?』


「うん。生きることは食べること。食べることは、命をいただくこと。……だから『いただきます』と『ごちそうさま』は、命を繋ぐ魔法の言葉なんだよ」


 アリスは箸を置き、真っ直ぐにデメテルを見上げた。


 その瞳には、聖女としての慈愛と、芯の強さが宿っていた。


 それはかつてラノリアで、偽物の神に抗った時と同じ、真実の光だ。


「デメテルさん。貴女の心配はわかるよ。……人間は愚かだし、すぐ争うし、環境も壊すかもしれない。だから種を渡したくないって気持ちもわかる」


『肯定。過去のデータがそれを証明しています。地上は汚染され、人の心は荒廃している。ゆえに、この種子は渡せません。これは最後の希望なのです』


「違うよ」


 アリスは首を振った。


「種は、植えてこそ希望なんだよ!」


『……植える?』


「そう。冷凍庫にしまっておくだけじゃ、それはただのデータだよ。……土にまみれて、水をやって、お日様を浴びて。そうやって育って初めて『命』になるんだよ」


 彼女は、脇に置いてあった、綺麗に切り分けた大根の葉っぱを撫でた。


「私ね、見てきたの。トヨノクニの山奥や、サン・ルーチャの貧民街で。……お腹が空くと、人は心まで痩せちゃうんだって」


 アリスの言葉に、わたしもかつての光景を思い出す。


 飢えは、人の尊厳を奪う。正義も倫理も、空腹の前では無力だ。


「でもね、誰かに貰ったご飯は、食べればなくなる。……『配給』じゃ、その場しのぎにしかならないの」


 アリスは胸に手を当てた。


「でも、自分たちで育てたご飯は、明日への力になるの」


『…………』


「厳しい土地でも、寒くても、戦争してても……子供たちが自分で育てて、収穫して、『美味しいね』って笑える未来を作りたいの! そのためには、どんな環境でも育つ、貴女の『強い子供たち』の力が必要なんだよ、お母さん(デメテル)!!」


 お母さん。


 その言葉に、デメテルの表情が大きく揺らいだ。


 プログラムされた役割ではない。母親としての本能が、アリスの言葉に共鳴しているのだ。


「……さあ、食べてみて。貴女が守ってきた子供たちが、どう『化けた』か。皮も芯も無駄にせず愛された、その姿を確かめてごらんなさい」


 わたしは小皿に取り分け、差し出した。


 湯気の中には、野菜たちの命と、アリスたちの愛情が溶け込んでいる。


 デメテルは迷った末、恐る恐る近づき、スープの湯気を解析し――そして、スプーンに触れるふり(データ同期)をした。


 一瞬の静寂。


 次の瞬間。


『――――ッ!?』


 デメテルの瞳が、カッ! と見開かれた。


『警告、警告。……味覚センサー、オーバーフロー。……計測不能な「旨味数値」を検出。……これは、何ですか?』


 彼女の声が震えている。


 ホログラムの頬に、朱色が差したように見えた。


『酸味、塩味、甘味、脂質……すべてのバランスが黄金比で構成されています。トマトの酸味が脂を中和し、味噌のコクが野菜の甘みを引き立てている……』


 ポロリ、と。


 デメテルの目から、光の粒がこぼれた。


『それに……温かい。これが、「食事」……? ただの栄養補給ではない、精神を満たす情報の塊……』


「ええ。それが『美味しい』ということですわ」


 わたしは空になった椀を置き、立ち上がった。


 全身から力がみなぎる。


 血管を流れる魔力が、まるで奔流のように唸りを上げている。全盛期――いや、それ以上に高まっている。


「ごちそうさまでした。……さて」


 わたしは口元をナプキンで拭い、ギラリと目を光らせた。


「お腹もいっぱいになりましたし、魔力も満タンですわ。……デメテル、貴女もその味に納得したでしょう?」


『……否定できません。この味を知ってしまった以上……私の子供たちを「ただ保存するだけ」では、あまりにも勿体ないという計算結果が出ました』


 デメテルは悔しそうに、けれどどこか嬉しそうに微笑んだ。


 彼女はアリスの方を向き、深く一礼した。


『貴女の言う通りです、小さな聖女様。……種は、植えてこそ希望。ぜひ地上で育んでいただきたいです……』


「うん! 任せて!」


 アリスとデメテルが笑い合う。


 和解は成立した。だが、まだ問題は残っている。


『ですが……システム上の権限(ロック)は絶対です。私の感情回路が納得しても、中枢システムのロックを解除するには、この「天蓋の揺り籠」を造った正統なる王族の生体認証と、王権を示す「黄金の王笏(キーアイテム)」が必要です』


 デメテルは困ったように、背後の管理タワーを見上げた。


『王笏なき命令は無効化されます。……残念ですが、私の独断では扉を開くことは……』


「王権? 王笏? 鍵?」


 わたしは「漆黒の玉座」を取り出し、ブンッと風を切って振り回した。


 バターとニンニクの香りを纏いながらも、そこにあるのは絶対的な王者の気配。


「そんなもの、今のわたくしには不要ですわ」


 特製ちゃんこでフルチャージされた魔力が、紫色のオーラとなって全身から噴き出し、空間を歪ませる。


 わたしは不敵に笑い、管理タワーの扉を見据えた。


「この溢れんばかりのエネルギーで……システムごと『説得』して差し上げますわ! ……王がいないなら、私が座ればいいだけの話ですもの!」


 食欲と慈愛。二つの力でAIの心を解き放った悪役令嬢は止まらない。


 次なるデザートは、この天空都市の「支配権」だ。


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