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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第11部】トヨノクニ黄金狂時代(ジパング・ラプソディ) ~技術と筋肉の力技で、数百年分の文明開化を「強制執行」しますわ~
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第118話 金が余りすぎた!? ならば「世界最大のお祭り」を開きましょう!

 トヨノクニ、オワリ。V&C商会本店の地下深く。


 そこには、厳重な魔導ロックと、番犬代わりのガーゴイル(ギエモン作の自動人形)に守られた、巨大な「第一金庫室」がある。


 その中で、ミリア・コーンフィールドは、黄金の山に埋もれながら、この世の終わりのような深いため息をついていた。


「……はぁ」


 彼女の周りにあるのは、金貨、銀貨、大判小判、魔石、宝石の山。


 壁一面の棚には、権利書や手形の束がぎっしりと詰まっている。


「どうしたの、ミリア。……お金に埋もれて死ぬのが夢じゃなかった?」


 わたし(レヴィーネ)は、金貨の山を椅子代わりにして座り、タケダ領から届いたばかりの高級桃をかじりながら尋ねた。


 ミリアは死んだ魚のような目で私を見上げた。


「……レヴィーネ様。これは異常事態です」


「何が? 黒字なんでしょう?」


「ええ、黒字です。……()()()()ます」


 ミリアは眼鏡を光らせ、空中にグラフを投影した。


 右肩上がりの赤い線が、天井を突き破らんばかりに伸びている。


「V&C商会のトヨノクニ市場におけるシェアは、食品で80%、物流で90%、魔導機器に至っては100%を独占しています。さらに、カジノからの賠償金、ラノリアからの没収金、各国との貿易黒字……。結果として、現在この国に流通する通貨(ベル)の約7割が、この地下金庫に吸い上げられてしまいました」


「……へえ。すご」


 他人事のように感心する私に、ミリアが詰め寄る。


「すごくないです! これは『経済の血管閉塞』です! 我々がお金を吸いすぎたせいで、市中にお金が回っていません。民衆は豊かな物資(タカニシキや魚)を見ていますが、それを買うための『現金』が手元にないのです。このままではデフレが進行し、経済が壊死します。……つまり、私たちが勝ちすぎて、ゲームが終わってしまうのです!」


 ミリアが頭を抱える。


 強欲な商人が、強欲すぎて客を滅ぼしてしまうパラドックス。


 私は桃の種を放り投げ、口元の果汁を拭った。


「……ふーん。要するに、この金庫にある金を、外にバラ撒けばいいのね?」


「言い方は乱暴ですが、その通りです。ですが、ただ配るだけではインフレを招き、勤労意欲を削ぐだけです。『有意義な形』で、巨額の資金を一気に市場へ放出し、民衆の懐を潤し、それをまた我々が回収する……そんな巨大なポンプのような事業が必要です」


 ミリアが期待を込めた目で私を見る。


 わたしの「悪役(ヒール)の発想」に救いを求めているのだ。


「……有意義な無駄遣い、か」


 私は金貨の山をザラザラと掬い上げ、指の隙間から落とした。


 この金は、私が暴れ、ミリアが計算し、みんなが働いて稼いだ結晶だ。


 それをただ配るのは面白くない。


 どうせ使うなら、世界中が度肝を抜くような、派手で、馬鹿馬鹿しくて、最高に楽しいことに使いたい。


「ねえ、ミリア。……わたし、お祭り(フェスティバル)がしたいわ」


「お祭り……ですか?」


「そうよ。この国は暗いニュースばかりだったでしょう? 戦争、飢餓、疫病……。だから、パーッとやるのよ。トヨノクニの復活を祝い、わたしたちの技術と食を世界に見せつける、史上最大のお祭り」


 わたしの脳裏に、前世の記憶が蘇る。


 万国博覧会。オリンピック。各スポーツのワールドカップ。両国五連戦、ドーム二連戦……。


 世界中の人々が集まり、熱狂し、金と文化が混ざり合う祝祭の空間。


「『天下一・大博覧会』を開きましょう」


 私は宣言した。


「会場は、イセ湾の埋め立て地。そこに巨大なパビリオンを建設するわ。世界中の王族、商人、一般人を招待し、トヨノクニの全てを見せるの。建設作業員には破格の給料を払いなさい。資材は言い値で買いなさい。宿屋も料理屋も潤わせなさい。……この金庫が空っぽになるくらい、ド派手にね!」


 ミリアが呆気にとられ、やがて――その頬が紅潮した。


 彼女の脳内で、イリスと共に瞬時に計算が走ったのだ。


「……建設需要による有効求人倍率の上昇。観光客による外貨獲得。技術の宣伝効果による輸出増……。完璧です。……完璧な『バラ撒き』です、レヴィーネ様!」


 ミリアが震える手で魔導計算機(電卓)を叩く。


「やりましょう! 予算は青天井! 国家規模の公共事業兼、世界最大のお祭り騒ぎ! ……ああ、忙しくなりますよ! これなら大名たちも納得するはずです!」


 憂鬱は吹き飛んだ。


 金は、守るものではない。使うものだ。


 そして、どうせ使うなら「最高に面白い未来」のために。


「ノブナガと大名たちを招集なさい! トヨノクニ総出で、世界をもてなす準備ケンカの始まりよ!」



 ◆◆◆



 トヨノクニ平定から数ヶ月。


 オワリ城の大広間には、かつてない緊張感が漂っていた。


 上座には「天下食料管理長官」オダ・ノブナガと、その盟友であるわたし、レヴィーネ・ヴィータヴェン。


 そして下座に並ぶのは、この国の各地を治める有力大名たちである。


 東の要衝、カントウの覇者・ホウジョ・ウウジマサ。


 甲斐の虎、筋肉ダルマのタケダ・シンゲン。


 越後の龍、酒豪のウエスギ・ケンシン。


 西国の謀将、モウリ・モトナリ。


 南の戦闘民族、シマズ・ヨシヒサ。


 奥州の伊達男、ダテ・マサムネ。


 かつては覇を競い合った群雄たちが、今はノブナガの召集に応じ、顔を突き合わせている。


 もっとも、彼らが大人しく集まった理由はただ一つ。


 広間の四隅に控える、魔導外骨格を装着した「黒鉄隊」の威圧感と、上座の女が放つ「逆らうなら城ごと更地にするわよ」という無言の圧力のせいだが。


「……して、オダ殿。我らを集めて何事か」


 口火を切ったのは、モウリ・モトナリだった。老獪な瞳でノブナガを値踏みする。


「天下は定まった。将軍家は退き、貴殿が実権を握った。……これ以上、我らから何を奪おうというのか? 領地か? それとも首か?」


 殺気立つ大名たち。特に、戦闘狂のシマズなどは刀の鯉口を切らんばかりの勢いだ。


 だが、ノブナガはニカッと笑い、扇子で膝を叩いた。


「奪う? 勘違いするな。……余は貴様らに『世界』をくれてやろうと言うておるのだ」


「世界……?」


「リョウマ! ミリア! 始めよ!」


 ノブナガの合図で、サカモト・リョウマが大股で進み出た。


 彼は懐から巨大な和紙を取り出し、床にバサリと広げた。


「これは……地図か?」


「トヨノクニの地図ではないな……形が違う」


 大名たちが身を乗り出す。


 リョウマは不敵に笑い、指で地図の一点を突いた。


「こいつは『世界地図』じゃき。わしが船で回り、異国の商人から買い集めた最新のものじゃ。……そして、わしらが今おるトヨノクニは、ここじゃ」


 彼が指差したのは、地図の東の端にある、豆粒のような島国だった。


 その横には、途方もなく巨大な大陸や、無数の国々が描かれている。


「な、馬鹿な……!」


「我らの国が……こんなに小さいはずがない!」


「異人の戯言だ! 神国トヨノクニは世界の中心ぞ!」


 大名たちが激昂する。彼らにとってトヨノクニこそが全てであり、外の世界など「蛮族の住処」程度の認識しかなかったのだ。


 その狭い認識を、ミリアが進み出て冷徹に打ち砕いた。


「戯言ではありません。……数字と映像は嘘をつきませんから」


 ミリアが懐から「キューブ」を取り出し、魔力を流し込んだ。


「イリス。衛星映像(ライブビュー)、投影開始」


『了解、マスター』


 無機質な声と共に、広間の中央に巨大なホログラムが出現した。


 映し出されたのは――宇宙(そら)に浮かぶ、青く輝く球体。


「な……なんじゃありゃあ!?」


「玉……? いや、あれは海か!?」


「まさか……あれが我らの住む大地だというのか!?」


 絶句する大名たち。


 イリスの視点が急速にズームする。


 雲を抜け、海を越え、やがて見慣れたトヨノクニの地形が――まるで箱庭のように映し出された。


 さらにズーム。オワリ城。そして、今まさに会議をしているこの大広間の屋根が透け、自分たちの姿がリアルタイムで映し出される。


「ひぃぃぃッ!?」


「天から覗かれておる!」


「神の眼か!?」


 腰を抜かすタケダ。震えるウエスギ。引きこもりのホウジョウに至っては、泡を吹いて気絶寸前だ。


 わたしは玉座(持ち込み)から立ち上がり、優雅に告げた。


「ご覧の通りですわ。あなたたちが血眼になって奪い合っていた領地なんて、星全体から見れば『庭の砂場』のようなもの。……狭い井戸の中で殺し合って、何の意味がありますの?」


 圧倒的な現実。


 彼らが命懸けで守ってきた「国」や「誇り」が、物理的なスケールの前で相対化されていく。


「そ、それでは……我らは、なんと無意味なことを……」


 ダテ・マサムネが眼帯を押さえて膝をつく。


 空気が、絶望と虚無に沈みかけたその時。


 ノブナガが豪快に笑い飛ばした。


「カッカッカ! そう凹むな! 小さいということは、これから大きくなれるということよ!」


 ノブナガはホログラムの「外側」――広大な大陸や海を指差した。


「見ろ! 外にはこれだけの土地がある! 資源がある! そして……『客』がおる!」


「きゃ、客?」


「うむ。我らはもう、武力で土地を奪い合う『武士』ではない。……これからは、この広い世界を相手に商売をし、富を奪い合う『商人(ビジネスマン)』になるのじゃ!」


 ミリアが素早く補足する。


「計算書をご覧ください。……タケダ様の鉱山から出る魔石は、帝国では3倍の価格で売れます。ウエスギ様の酒は、寒冷地で飛ぶように売れるでしょう。シマズ様の魔獣素材は、南大陸の需要が爆発しています」


 大名たちの目に、新たな光が宿る。


 それは武人の殺気ではない。強欲な経営者の光だ。


「……ほう。わしの掘った金が、さらに増えるというのか?」


「……異人にわしの酒を飲ませてやりたいものよ」


「……世界相手に喧嘩(商売)ができるなら、退屈はせんな」


 それぞれの野心が、新しい方向へと向かい始める。


「そのための『旗印』が、これじゃ!」


 ノブナガが掲げたのは、新しい組織図だった。


 中央に『トヨノクニ・ホールディングス(HD)』。


 その下に、各藩が「支店」としてぶら下がり、V&C商会が物流と金融を握る巨大な経済圏構想。


「刀を捨てよ! これからは『魔導計算機(電卓)』と『商品』が武器じゃ! 全員で手を組み、世界中の富をこのトヨノクニにかっさらう! ……どうじゃ、天下統一より面白かろう?」


 一瞬の静寂。


 そして。


「……乗った!」


「やりましょうぞ、ノブナガ殿!」


「経済的な世界戦争か! 血が滾るわい!」


 大名たちが歓声を上げ、ノブナガと握手を交わす。


 井の中の蛙たちが、空の青さを知り、そして海を渡る翼を手に入れた瞬間だった。


 その光景を見ながら、わたしはアリスに耳打ちした。


「……チョロいわね、おじ様たち」


「夢を見せるのがうまいよね、ノブナガさんもレヴィちゃんも」


 こうして、トヨノクニは武士の国から、「商人と筋肉の国」へと劇的なジョブチェンジを果たしたのである。


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