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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: みやもと春九堂@月館望男
【第11部】トヨノクニ黄金狂時代(ジパング・ラプソディ) ~技術と筋肉の力技で、数百年分の文明開化を「強制執行」しますわ~
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第117話 情報は金なり。災害すらもビジネスチャンスに変える商魂。

 レヴィーネ様という「最強の矛」と、古代知性体(人工知能)イリスという「神の眼」を手に入れたV&C商会の快進撃は、トヨノクニ国内だけには留まりませんでした。


 業務の効率化だけでは飽き足らず、私たちはついに「外の世界」――国際経済へと手を伸ばし始めていたのです。


 深夜のオワリ本店、地下研究室。かつては冷たい石壁だったこの部屋は、今や無数の魔導スクリーンが空中に浮かぶ、秘密基地のようになっていました。


 中央には、衛星アルゴスが捉えた世界地図と、複雑なグラフがホログラムとして投影されています。


『マスター。西方連邦(イーグル)の穀倉地帯にて、大規模な干ばつの兆候を観測しました。大気中の水分量および地脈の変動から予測するに、今後三ヶ月、小麦の収穫量は平年比で40%激減する見込みです』


 イリスの報告に、私は眼鏡をキラーンと光らせました。深夜のテンションも相まって、私の口元には悪徳商人のような笑みが浮かんでいます。


「なるほど……。あちらの商人たちはまだ気づいていないようですね。空の色と風の匂いだけでは、未来までは読めませんから。……ふふふ。チャンスですね」


 私は手元の帳簿(魔導タブレット)を操作し、即座に指示を出しました。


「イリス! 『黒船屋』の現地支店へ、至急、魔導通信を繋ぎなさい! 暗号文で指令を送ります。『西方連邦の主要な穀物取引所にて、小麦の先物買い契約を結べ』と!」


『了解。……通信リンク確立。代理人への送金手配と、購入指示書を送信します』


「資金は潤沢にあります。レヴィーネ様がカジノからぶんど……頂いた軍資金を投入して、今のうちに安値で契約を抑えるのです! 彼らはまだ『今年は豊作だ』と油断していますから、喜んで売るでしょう」


『リスク計算。……三ヶ月後、干ばつが表面化した際、契約不履行または価格暴騰が発生する確率99.8%』


「ええ。そこで私たちは、高騰した小麦の権利を売り抜ける。……そして、パンが値上がりして困った民衆に向けて、安価で栄養満点な『タカニシキ』を売り込むのです!」


『肯定。タカニシキの需要が急増する予測です。プロモーション戦略を構築します』


「『パンがないならお米を食べればいいじゃない』キャンペーンです! トヨノクニからの輸出価格を20%引き上げなさい。それでも彼らは買うしかない。……ふふっ、ふははは! 天候が『見える』だけで、こんなに簡単に勝てるなんて! これぞ錬金術です!」


 情報は金です。誰よりも早く、正確に世界の未来を知る者が、経済を支配する。私は、自分が世界の運命を握っているような全能感に震えました。


 その時、手元の通信機(試作型ガラケー)が震えました。通話先は、遥か海の上にいるサカモト・リョウマさんです。


『おう、ミリア嬢ちゃんか! こっちは嵐で大変ぜよ! 前が見えん! 波が高うて、積荷の味噌樽が転がりそうじゃ!』


 リョウマさんの怒鳴り声には、激しい風切り音と波の音が混じっています。


「リョウマさん、落ち着いてください。……味噌樽が転がるなんて一大事です! 商品の破損は給料から天引きですよ!?」


『鬼かおんしは! 命の心配をしてくれ!』


「大丈夫です。イリスの計算によると、その嵐はあと二時間で止みます。ですが、そのまま直進すると、ストーム・ドラゴンの回遊ルートと交差しますよ」


『なっ……!? ドラゴンじゃと!? マジかえ!? そんなもん出くわしたら船が沈むわ!』


「進路を北北東へ15度修正してください。そうすれば、嵐を抜けつつ、ドラゴンの縄張りも回避できます。……ついでに、その先の海域には海賊船団が待ち伏せしています」


『海賊までわかるんか!? おんし、千里眼でももっとるんかえ!?』


「ええ。もっと高いところ……『上』から見ていますから」


 私はモニターに映る小さな点(ヴィータヴェン号)と、その進行方向に潜む複数の熱源(海賊船)を見下ろしながら、チェスの駒を動かすように指示を出しました。


「海賊船団の右翼が手薄です。……そこへ回り込んで『Ωクラーケン砲』を一発、お見舞いしてあげてください」


『カッカッカ! 了解じゃ! 海の藻屑にしてくれるわ!』


「あ、待ってください! 沈めちゃダメです! 絶対に沈めないでください!」


 私は慌てて止めました。


「沈んだら積荷がパーです! 狙うのは『マスト』か『舵』だけにしてください! 航行不能にして、そのまま拿捕(だほ)して引っ張って帰ってきてください!」


『無茶言いなさんな! 大砲で舵だけ狙えじゃと!?』


「できますよ、リョウマさんなら! ……成功したら、海賊船の積荷のあがり、一割をボーナスとして支給します」


『……一割? ニ割じゃ』


「一割五分で手を打ちましょう」


『商売上手め! ……交渉成立じゃ! 見ておれ、針の穴を通すような砲撃を見せてやるきに!』


 通信が切れます。私は深く背もたれに体を預けました。


 心地よい疲労感。ですが、以前のような「ゴールの見えない徒労感」ではありません。


 全ての数字が、私の計算通りに動いているという全能感です。


「イリス。……貴女のおかげで、アリスさんの夢も、レヴィーネ様のどんな無茶振りも、全部叶えてあげられそうです」


『光栄です、マスター。……ですが、カフェインの過剰摂取は推奨しません。心拍数が上昇しています。休息を取ることを提案します』


「ふふ、これくらい大丈夫です。……だって、ようやく準備が整ってきたのですから」


 私はモニターに映る世界地図を見上げ、うっとりと呟きました。


「いつレヴィーネ様が『やっぱりあそこの国が気に入らない』と言い出しても、即座に経済制裁で買い叩けるように。いつ『明日から世界一周旅行に行く』と言われても、全航路の天候と補給線を確保しておけるように……」


 そう、この地下室は、世界を支配するための場所ではありません。


 ここは、レヴィーネ様がいつどこで何をしても、決して不自由しないための「完璧な準備室バックヤード」なのです。


「ふふふ……これでもう、レヴィーネ様が山をいくつ壊そうが、国をいくつ傾けようが、私の計算範囲内です! さあ、次はどんな『難題』が来るのかしら。……なんでもいらっしゃい。全部、計算してみせますから!」


 私の眼鏡が、モニターの光を受けて怪しく、そして頼もしく輝きました。


 その結果、世界の王族や大商人たちが震え上がることになったとしても――それはあくまで、レヴィーネ様への奉仕のついでに過ぎないのです。


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