第111話 最強の右腕:レヴィーネ様、もっと暴れても大丈夫です(私が全て利益に変えますから!)
古代知性体イリスの覚醒から一夜明けた、V&C商会オワリ仮設本店。出勤してきた従業員たち(主に胃痛四天王の部下たち)は、執務室を覗いて戦慄しました。
いつもなら「予算が!」「工期が!」「レヴィーネ様がまた壁を壊しました!」と悲鳴を上げながら、死んだ魚のような目で和紙の山と格闘していた専務――私、ミリア・コーンフィールドが、今日はなんと、艶やかな笑顔で優雅にハーブティーを飲んでいたからです。
「おはようございます、皆さん! 今日もいい天気ですね! さあ、バリバリ稼いでレヴィーネ様の豪遊費を捻出しますよ!」
私のデスクには、いつもの書類の塔がありません。机上にあるのは、一枚の地図と、手元で淡く光る黒いキューブ(イリス)だけ。私の耳元には、青く光るインカムが装着されています。
その時、机上の通信機がけたたましく鳴りました。緊急回線。相手は、現在「鉱山開発予定地」の視察(という名の早朝散歩)に出かけている会長、レヴィーネ・ヴィータヴェン様です。
『もしもしミリア? ……ごめん、やっちゃった』
通信機から聞こえるのは、悪びれもしない、むしろ「いい汗かいたわ」と言わんばかりの清々しい声。
『朝の運動で「漆黒の玉座」の素振りをしていたら、手元が狂って……。建設予定地の隣の山を、半分ほど消し飛ばしちゃったの。土砂崩れで街道が埋まったわ。……ま、通る人もいないし、いいわよね?』
以前の私なら、泡を吹いて卒倒するか、「レヴィーネ様ぁぁぁ!! 何やってるんですかぁぁぁ!!」と絶叫して現場へダッシュしていたでしょう。ですが、今の私は違います。最強の相棒がいるのですから!
私はインカムに指を添え、余裕の笑みで命じました。
「イリス。状況確認! 被害総額と……『転んでもタダでは起きない』ためのリカバリー策を出してください!」
『了解、マスター。……衛星アルゴス、当該座標へフォーカス』
私の脳内に、イリスの冷徹な声が響きます。視界にオーバーレイ表示されたウィンドウに、無惨にえぐれた山の映像が表示されます。わあ、見事に消し飛んでますね。さすがレヴィーネ様、破壊の美学を感じます!
『当該地点の地層スキャン完了。……崩落した山肌から、高純度の「赤鉄鉱」および地下深層からの「温泉脈」の反応を検知しました』
イリスの報告に、私の眼鏡がキラーンと光りました。私の脳内魔導計算機が、高速で弾かれます。
「温泉!? それに鉄鉱石!? ……イリス、損益分岐点の計算を! 街道の修復費と、これらを開発した時の利益の差額は!?」
『被害総額、推定5000万ベル。対して、露出した鉱脈の採掘権および温泉リゾート開発による初年度見込み利益は、推定3億ベルです』
「……勝ちました!」
私はガッツポーズをしました。これぞ「災い転じて福となす」、いえ「破壊転じて大黒字となす」です!
私は通信機に向かって、弾んだ声で告げました。
「問題ありません、レヴィーネ様! むしろナイス破壊です! そこはたった今、『タケダ・ミネラル・リゾート(仮)』の建設予定地として登録を済ませました!」
『え? ……早っ。あんた、予知能力でも目覚めたの?』
「ふふふ、愛の力ですよ! 土砂崩れは、タケダ家に『造成工事の第一段階』として発注済みということにします。彼らは鉱石が手に入って喜び、我々はリゾート開発で儲かる。……完璧です! あ、ついでに追加でもう一撃、反対側の岩盤も砕いておいていただけますか? 露天風呂からの眺めが良くなりますので!」
『……変なテンションね。まあいいわ、じゃあ遠慮なく』
ドォォォォン!!
通信機の向こうで、凄まじい破壊音が響きます。ああ、なんて心地よい音でしょう。あれが「お金の落ちる音」に聞こえてきました。
私は通信を切ると、呆然としている従業員たちに向かって、指揮棒を振るうように指示を飛ばしました。
「さあ、ボーッとしてないで仕事ですよ! イリス、タスクの割り振りを!」
『了解。……最適化された指示書を各端末へ送信』
「第一班はタケダ領へ至急の連絡! 『鉱脈が出たので掘らせてあげる』と上から目線で伝えてください! 第二班は黒鉄組へ、温泉施設の設計図案を送付! ヒデヨシさんに『三日で建てろ、さもなくばレヴィーネ様が視察に来るぞ』と脅してください! 第三班は……レヴィーネ様への『追加破壊請求書』の作成を。今回もきっちり、経費として計上しますからね!」
従業員たちが「は、はいぃぃッ!」と弾かれたように動き出します。私は窓の外、遠くで土煙が上がる山の方角を見つめ、うっとりと呟きました。
「ああ、レヴィーネ様……。貴女の破壊は、世界を豊かにする『耕し』ですね。イリス、見ましたか? これが私の主です。常識なんて通用しないのです」
『肯定。……マスターの主人の行動パターンは「災害」に分類されますが、それを「利益」に変換するマスターの手腕も、論理的矛盾を超越しています。……学習データに「商魂」という項目を追加します』
「ふふっ、褒め言葉として受け取っておきます。さあ、レヴィーネ様。もっと暴れても大丈夫ですよ! 私が全て、計算ずくで『黒字』にしてみせますから! このミリアに、処理できないトラブルなんてありません!」
その日、V&C商会の内部留保は爆発的に増え、私の胃痛薬の消費量は劇的に減りました。最強の右腕と、最愛の破壊神。この二人がいれば、私は無敵です!
災害を利益に変える錬金術。ミリアが逞しくなりすぎて、作者も引いています。「農家の娘」改め「剛腕専務」ですね。
面白かったらブクマ登録をお願いします!




