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悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~  作者: 月館望男
【第10部】東の島国・トヨノクニ開国(物理)編 ~悪役令嬢、黒船になる。鎖国? ならば「開国(物理)」して、美味しいお米と温泉をいただきますわ~
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第102話 【第2シーズン完結・トヨノクニ編①完結】定住:ここが私の新しいホーム。悪役令嬢はトヨノクニに「根」を張ることにしました

【第2シーズン・完】

次話より「第3シーズン」に入ります。

 エド城天守閣が、物理的(パイルドライバー)に解体され、朝日が昇った直後。

 瓦礫の山と化した本丸跡地には、不思議な静寂と、むせ返るような炊き出しの香りが漂っていた。


「……う、うぅ……」


 足元で、将軍アシカガ・ムネノリが呻き声を上げて目を覚ました。

 憑き物が落ちたその顔は、以前見た肖像画にあるような、知的で穏やかな青年のものに戻っていた。

 彼は上体を起こし、周囲の惨状――崩れ落ちた城、傷ついた兵士たち、そして何より、自分自身が引き起こした飢餓の爪痕――を見て、顔面を蒼白にさせた。


「私は……なんということを……。妖刀に魅入られ、民を苦しめ……あまつさえ、国を滅ぼそうなどと……」


 ムネノリは震える手で顔を覆い、涙を流した。

 彼の中にあった「脚本家(スペクテイター)」という異物は消滅したが、彼が犯した罪の記憶と、その結果としての惨状は残っている。罪悪感に押し潰されそうな背中。


「死んで……詫びるしか……」


 彼が落ちていた短刀(妖刀の破片)に手を伸ばそうとした、その時。


 ドンッ。


 わたしのヒール(折れてるけど)が、その短刀を踏みつけて止めた。


「安易な死へ逃げるのは、三流のすることよ」


 わたしは彼を見下ろし、言った。


「死んで詫びる? それで腹が膨れるとでも? ……そんな暇があったら、生きて償いなさい。耕して、種を撒いて、汗を流して……この国をもう一度、豊かにしてみせなさいよ」


 わたしは、ミリアから受け取った「タカニシキ」の塩むすびを、ムネノリの口元に突き出した。


「ほら、食べなさい」


「こ、これは……?」


「あんたが奪い続け、それでも民たちが守り抜いた『命』の結晶よ。……味わって、噛み締めて、その味を骨の髄まで刻み込みなさい」


 ムネノリは震える手で、おにぎりを受け取った。

 まだ温かい。その温もりが、冷え切った掌から心臓へと伝わってくる。

 一口、齧る。

 涙と共に、塩気が口の中に広がる。


「……うまい……」


 ムネノリの脳裏に、かつての記憶が蘇る。

 まだ刀を握る前、領地を視察した時に見た、民たちの笑顔。祭りの日に振る舞われた握り飯の湯気。

 そうだ。私は、これを守りたかったのだ。

 強大な力などではなく、この温かさを、このささやかな営みを守るために、私は剣を取り、(まつりごと)を志したのではなかったか。


「なんと、温かく……力強い味か……」


 ムネノリは泣きながら、おにぎりを頬張った。

 失った時間は戻らない。犯した罪も消えない。

 だが、この味を忘れない限り、まだやり直せる。そう、おにぎりの温かさが教えてくれている気がした。


 将軍が泣きながらおにぎりを頬張る姿を見て、周囲を取り囲んでいたオワリ軍や、正気に戻った幕府兵たちの間から、自然と嗚咽が漏れた。

 憎しみの連鎖が、食卓の温もりによって溶けていく。


「さあ、朝ごはんの時間よ! ……今日は無礼講だわ!」


 わたしの号令と共に、瓦礫の山は即席の宴会場へと変わった。

 敵も味方も関係ない。生き残った者は皆、腹を空かせた仲間だ。

 朝日を浴びながら食べるご飯の味は、どんな高級料理よりも格別だった。


◆◆◆


 数日後。

 エドの街は、黒鉄隊と解放された民衆の手によって、急速に復興へと動き出していた。

 将軍ムネノリは、自身の非を認め、隠居を表明。しかし、ノブナガやリョウマの説得もあり、新体制が整うまでは「執権」として、贖罪のために政務(主に農業政策)に励むことになった。

 ノブナガは「天下食料管理長官」として、全国の物流と農業を統括する。

 ムネノリは今日も書類に埋もれながら、今では剣ではなく毎日鍬の素振りをしているそうだ。彼自身が開墾に加わり、泥に汚れる日もそう遠くないだろう。

 素性がわかれば石を投げられるかもしれない。だが、それもまた贖罪の第一歩だ。


 そして、わたしたちの旅立ちの日――のはずだった。


 修復された港には、物資を補給し終えた魔導戦艦「ヴィータヴェン号」が停泊している。

 見送りには、ノブナガ、リョウマ、カエデ、ムネノリ、そして大勢の民衆が駆けつけていた。


「行くのか、レヴィーネ」


 ノブナガが腕を組み、寂しげに、しかし豪快に笑って尋ねる。


「貴様がいなくなると、飯が不味くなりそうで困るわ」


「寂しいぜよ、姐さん。……おんしがおらんと、この国はまた退屈に戻っちまう」


 リョウマが帽子を目深に被り直す。


 ミリアとアリスは、既にタラップのそばで荷物を持ち、わたしの言葉を待っていた。

 いつものパターンだ。

 悪を倒し、国を救い、そして颯爽と去っていく。

 それが「通りすがりの悪役令嬢」の美学であり、わたしたちの旅の流儀だった。


 わたしは、海風に吹かれながら、トヨノクニの景色を見渡した。

 遠くに見える山々。黄金色に輝く田んぼ。復興の鎚音が響く街。

 そして、見送りに来てくれた人々の、栄養が行き渡り始めた血色の良い笑顔。


 前世の記憶。

 病室の窓から見ていた、どこへも行けない景色。

 ずっと憧れていた、「外」の世界。

 だからわたしは、転生してからは止まることを恐れた。走り続け、旅を続け、自由であることを証明し続けてきた。

 「定住」することは、またあの病室のように、世界が閉じてしまうことだと思っていたから。


 ――でも。

 今は違う。


 わたしは懐から、一握りの「タカニシキ」の種籾を取り出した。

 太陽の光を浴びて、宝石のように輝く種。

 鷹のように高く飛び、故郷に錦を飾る。

 錦を飾る故郷がなければ、鷹はただの迷子鳥だ。


(……見つけたのね、わたし)


 胸の奥にストンと落ちる感覚があった。

 ここだ。

 この米が育つ場所。味噌と醤油の香りがする場所。そして、気の合う馬鹿な仲間たちがいる場所。

 こここそが、わたしの魂が求めていた「着地点(ホーム)」なのだ。


 わたしはくるりと振り返り、ミリアとアリスを見た。

 二人は、わたしの表情を見て、ハッとしたように目を見開いた。

 長く旅をしてきた相棒たちだ。言葉にしなくても、伝わったのだろう。


「……アリス、ミリア。荷物を下ろしなさい」


「……えっ?」

「レヴィーネ様……?」


 わたしは鉄扇をパチンと閉じた。

 そして、ノブナガたちに向き直り、ニヤリと笑ってみせた。


「予定変更よ。……出航は中止」


「な、なんだと!?」


 ノブナガが目を丸くする。


 わたしは、足元の地面――トヨノクニの大地を、ヒールで強く踏みしめた。

 ドンッ、と土煙が上がる。


「わたし、ここに『根』を張ることにしたわ」


「……根を、張る?」


「ええ。旅人は卒業よ」


 わたしは宣言した。


「この国のご飯は美味しい。温泉も気持ちいい。……それに、まだ開発しきれていない食材も、教えたい筋肉トレーニングも山ほどあるわ。たった数ヶ月の滞在じゃ、味わい尽くせない」


 それは建前。

 本音は――


「ここが、気に入ったのよ。……わたしの『魂のふるさと』としてね。せっかくもらった領地もあるわけだしね」


 一瞬の静寂。

 そして。


「ぶはははははッ!!!」


 ノブナガが、腹を抱えて爆笑した。


「そう来たか! やはり貴様は最高だ! 旅の空に消える流れ星かと思えば、どっかりと居座る太陽になるとはな!」


「やったー!!」


 アリスが杖を放り投げて飛びついた。


「私も! 私もここ大好き! 温泉毎日入りたいし、お米もっと食べたい!」


「……ああ、レヴィーネ様」


 ミリアが、涙ぐみながら微笑んだ。


「ええ、ええ! 大賛成です! 『V&C商会・トヨノクニ本店』をここに設立しましょう! 世界中の食材をこの国に集め、タカニシキを世界に輸出するのです! 忙しくなりますよ!」


 リョウマが帽子を空に投げ、カエデが感涙にむせぶ。

 港は、出航の別れの場から、新たな「建国」の宴の場へと変わった。


「ノブナガ。わたしが残るからには、タダ飯ぐらいにはならないわよ」


 わたしはノブナガに手を差し出した。


「この国を、世界最強の『食と筋肉の国』に改造してあげる。……覚悟はよろしくて?」


「望むところよ! 貴様となら、天下どころか、世界の果てまで平らげられそうだ!」


 ノブナガがわたしの手をガッチリと握り返す。

 熱い体温。力強い握手。


 その時、ふと空を見上げると、一羽の鷹が悠々と円を描いて飛んでいた。

 まるで、かつてのわたし(鷹乃)が、今のわたしを祝福してくれているかのように。


(見ていて、もう一人のわたし。……わたしは、ここで生きて、ここで食べて、ここで笑って……最高に幸せな『悪役令嬢』になってみせるから)


 わたしは空に向かって、小さくピースサインを送った。


 こうして、悪役令嬢レヴィーネ・ヴィータヴェンの長い「旅」は、一つの区切りを迎えた。


「……とはいえ、座って書類仕事漬けなんてお断り、フットワークは軽く、ね」


 わたしは不敵に笑い、影の中の相棒の感触を確かめる。

 トヨノクニを拠点(帰るべき場所)と定めても、まだまだ世界を見て回りたい気持ちだってある。

 世界にはまだへし折るべき理不尽がいくらでもあるのだろうから。


 鎖国は終わり、これからのトヨノクニには世界中から人が集まり、また外の世界を見に行く者も多く出るだろう。

 それは新たな文化が生まれる期待でもあり、トラブルの気配でもある。

 いずれにしてもワクワクすることこの上ない。


 さあ、まずは今日の晩御飯の献立を決めなくては。

 タカニシキに合うおかずは、焼き魚か、それとも卵焼きか。

 悩ましくも、幸せな時間が、これからもずっと続いていく。


 悪役令嬢の凶器は、ドス黒い鈍器です。

 でもその鈍器は、大切な居場所を守る(いしずえ)に、そして新たな世界を切り拓くための、最強の鍵となるのです。




 悪役令嬢の凶器は、ドス黒い鈍器です。

 ~第2シーズン・完~

第10部、そして第二シーズン完結です。旅の終わりと、新たな居場所の発見。レヴィーネの物語は、ここから「最強の組織」作りへとシフトしていきます。ここまでお付き合いいただきありがとうございました!


【第2シーズン完結】第10部・第2シーズン完結を祝して、評価と感想をいただけますと幸いです!

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