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朝起きたら晴れていますように

作者: 小桃 綾

しいな ここみ様主催『朝起きたら企画』参加作品です。

 春の風がやわらかく吹いていました。

 家の隣の小さな畑で、ももちゃんはしゃがみこんでいます。

 お母さんが草を抜いているそばで、土をのぞきこみました。


「お母さん、芽が出てる! 出てるよ!」


「ほんとだね。もう少ししたら食べられるようになるよ」


「うん! 楽しみ!」


 それから三日後。

 ももちゃんはひとりで畑へ行きました。

 どうしても気になって、芽を一本、そっと引っぱってみました。

 ……けれど出てきたのは、細い根っこだけ。


 胸がぎゅっと痛くなって、家に走って帰りました。


「お母さん、ごめんなさい。抜いちゃったの……。まだ育ってなかった……」


 お母さんは笑って、ももちゃんの頭をやさしくなでました。


「ふふっ。大丈夫。そろそろ間引く時期だからね。一緒にやろうか」


 畑に戻ると、お母さんは芽を選んで抜きました。


「お母さん、だめ! 抜いたら死んじゃう!」


「そうね。でもね、こうして強い芽を残すと、もっと大きく育つの。

 抜いた子たちも、ちゃんと生きてるんだよ。だから美味しく食べて“ありがとう”って言おうね」


 ももちゃんは泣きながら、いくつかの芽を抜きました。

 手の中の小さな葉っぱを見ると、悲しい気持ちになります。


 家に戻って、お母さんと一緒にその芽をお味噌汁に入れました。

 小さな緑が、湯気の中でやさしくゆれています。

 口に入れると少し苦い味がしたけど、ちゃんと飲み込んでから小さくつぶやきました。


「……ありがとう」


 壁のカレンダーを見ながら、お母さんが言いました。


「この日が晴れたら、収穫しようね」


「うんっ! てるてる坊主作る!」


 ももちゃんはてるてる坊主を作って屋根の下にぶら下げました。

「ちゃんと晴れてくれますように」


 それから毎日、畑に行って芽を見ました。少しずつ大きくなっていくのを見ると、なんだか嬉しい気持ちになります。

 抜いて見てみたいけど、お母さんに言われた通り我慢しました。


 そしてその日。朝起きたら空は晴れ。

 お母さんと手を繋いで畑に行くと、畑の土が光って見えました。

 ももちゃんが茎を引っぱると、赤い丸い実が顔を出します。


「すごい! お母さん、ちゃんと育ってる!」


「そうだね。育ってくれてありがとう、だね」


 ふたりでお日様の光を背中に受けながら、並んで収穫を続けました。

 風がふわりと吹いて、畑の葉っぱがカサカサと笑いました。

初めて童話を書きました。

柔らかい物語は書いてるだけで癒される気がします。


物語内の野菜は二十日大根を想定していますが、

私は間引いた人参の味噌漬けが大好きです。

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― 新着の感想 ―
ももちゃんも育ってる(*´ω`*) ミニトマトぐらいしか育てたことありませんが、間引くの大事ですよね。立派におおきいのを作ろうと思ったら。 鳥も育たない子は巣から落とすといいますが……(*´∀`*…
可愛くて素敵な童話だと思います。 ももちゃんが可愛い。二十日大根は順調に育つといいですね!
 このほのぼのとした雰囲気、好いですよねぇ。  ──と、いつもならば感想もその程度なのですが、なぜか今回は間引きという行為に悲しみを感じてしまいました。  いや、それは強い芽を育てるために必要な選…
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