敵の敵は味方で無問題(モーマンタイ)
ボギーが目を覚ますと、また自分のベッドの上だった。
「……また倒れたの? 俺ってば」
腹が鳴り、ボギーはゆっくりと起きて部屋を出た。
リビングの1人掛けのソファーでコーヒーを飲んでいた辨野が、ボギーに気づいて
「お疲れさん」と言った。
「おはよ……腹減った……」とボギーはフラフラとキッチンに入って行った。
トーストとコーヒーを持ってリビングに戻って来たボギーは、まだ半分眠っているような顔で、辨野の向かいの3人掛けソファーに座った。
「俺……どうやって帰って来た? まだめっちゃ疲れてるし……眠いぃ」と言いながらも、トーストを口に運んだ。
「場地が担いで運んで来たよ。ちなみに前回もな」と辨野が言った。
「えぇ……マジでぇぇ?」
「どうだった? 今回は記憶があるんだろう?」
「ン……なんは、よふわはんねーは」
目を閉じたままトーストを頬張るボギーは、食べ切るとそのままソファーに倒れ、寝てしまった。
時刻はとっくに正午を回っていた。バトル明けの体をベッドに吸い込まれ、気を失うように寝ていた他の皆も、ようやく自室から出て来た。
「皆さんお疲れさん。俺だけ元気でごめんね」と辨野が笑いながら言った。
リビングに入って来たレジーが、ソファーで大の字で寝ているボギーを見て、
「はー、邪魔」
と言い、ボギーを蹴飛ばしてソファーから落とした。
それでも起きないボギーを足元に転がせたまま、レジーはどっかりとソファーに座った。キャンティも足元のボギーを無視して、ソファーに座った。
「こいつ昨日暴れたの?」とレジーが言った。
焼き鮭定食を持ってダイニングの椅子に座った場地が、
「案の定、やっと出て来たよ。式神たちが言ってた通り、あっち側の奴だったわ」と言うと、クククと笑いながら、
「でも結構、礼儀正しくてウケた」と続けた。
「イズモで問題になってんじゃねーの?」とレジーが言うと、
「それがそうでもないんだよな」と辨野が言った。
ベティとハナを送り届けた後、辨野は車を走らせ、山頂のとある場所に向かっていた。
静まり返った山々に囲まれたその場所は、大昔は一年中参拝者が多く、正月には人で溢れ返っていたという。今ではそこまでの賑わいはなくとも、静かに参拝者を待つ佇まいが、本来の神聖さを増していた。
木々が風で葉を揺らす音だけが、微かに聞こえていた静かな本堂に、辨野は1人床に座り、そして姿を見せていない者と静かに会話をしていた。
《──というわけでイズモの皆さんもわかっておられたし、勿論こちらも問題無い》と、姿を見せない者の声がした。
「でしょうね」
辨野は会話を続けた。
「ビリーの時と同じような理由でしょう」
《そうだな。……信仰心も恐れもない、呪詛も癒しも何も効かない、“人のようなもの”が増えているのはどの界隈でも問題だからな》
「そちらも八百万の皆さんも問題ないと言うなら安心」
《お前たちも暴れてこいとおっしゃってる。だが、俺の出番が少ないのは何故だ》
静かに目線を上げた辨野は、目の前に姿を現した存在にヘラヘラと笑い
「うーん、都会に向かないというか、何と言うか……」
「ギャハハ! 悪魔が人型に向かって脅してんのとか想像するとウケる! そんで無視されてんのとか、マジでウケる!」
レジーはソファーの上で笑い転げていた。
場地が丁寧に焼き鮭をほぐしながら、
「人間にするように、脅したり呪ったり取り憑いたりしたくても効かないから、悪魔界隈は不満爆発なんだとさ」と言った。
「そりゃ機械なんだから聞こえてねえよ! 洗濯機に話しかけてるのと一緒じゃん。ひー、笑かす」
レジーは笑い転げて、手に持っていたマフィンをボギーの顔の上に落とした。
「だから人間に手を貸そうってか」とキャンティが言った。
ダイニングテーブルでマフィンを食べているビリーが、
「……日本はカミサマ多いのに。他の国に行く選択肢は無かったのかな……。まあ、ボキオが来てくれたのは嬉しいけど」と言った。
騒がしさとマフィンの匂いで目が覚めたボギーが、ソファーの足元に転がっている自分に驚き、ムクリと起き上がった。
「んえ? ……何でここで寝てんの俺」と呟いた。
「お前悪魔に選ばれたんだってな」とレジーがにやけながら言った。
「まあ、あっちの意にそぐわない事したら、呪い殺されるんだろうけどな」とキャンティは無表情で言った。
「のろ…呪い?」ボギーの顔色が悪くなった。
「悪魔的にはカンタンだろ」
そう言うキャンティに対しボギーは、
「あのじいちゃんたちはそんな事しないよ多分」とフフンと笑って言った。
「は〜、おめでたい奴。あっちは怪物だっつーの」と呆れ顔のレジーが言った。
場地から昨夜の話を聞いたボギーが、
「遠吠え? 俺オオカミかなんかになってたの?」と言うと、
「だからケルベロスだって言ってんだろ」とレジーが言った。
皆の話を黙って聞いていた辨野が、
「イズモは俺たちに『暴れて来い』だと。信仰が減ったから暇なのかもな」と笑って言った。
制度が変わって人口は確実に増えていった。だが近年爆発的に増え始めたかと思われていたのは、その人間を制御するための人型AIユニットも、かなり増加していたためだった。
「うちのカミサンが、出番がないってぼやいてる」と辨野が言うと、場地が
「すぐ既婚者ぶる」と言った。
「カミサンって何? キコンシャ?」と、ボギーが質問すると、
「カミサンって、『シキガミサン』。正確にはシキだけじゃないけど、面倒だから全部カミサン」と辨野が言った。
そこでハッと思い出したように、ボギーが皆に言った。
「場地の天狗さんは何? みんなも何かいるの?」
ビリーが静かに答えた。
「いるよ、……ゲニウス。式神というか、守護神って感じかな。皆カミサンとかゲニさんとか好きに呼んでるけど」
「呼びかた適当過ぎ……」




