朱の二翼 白銀の爪
六本木で身動きが取れずにいたベティとハナから、白人男性姿の人型AI戦闘ユニットを引き離したレジーとキャンティは、人型を廃墟ビルに誘い込んだ。
廃墟ビルの中は低層階にだけエスカレーターがあり、高級ブティックが並んでいた面影があった。高層階は飲食店であろう看板が、ビルの外壁に朽ち果ててくっ付いていた。
キャンティは正面の入り口からビルに入ると、低層階はエスカレーターを駆け上がり、途中から非常階段で一気に上がって行った。
13階の最上階は、ワンフロア使ったクラブを営業していたと思われる、広さと内装だった。
最上階に着いたキャンティは、立ち止まって大きく息を吸った。
右の手のひらを左肩に、左の手のひらを右肩に向け、胸の前で腕をクロスした。そして10本の指をガッと開き、鋭い爪で獲物を引き裂く手、【虎拳】という型にし、大きく息を吐いた。
追いかけて来た人型も、あっという間に最上階に到着した。キャンティは手のひらを返し、鋭い爪を人型に向けて構えた。
キャンティの後ろには白い靄が立ち込め、牙を剥き、前足の爪を鈍く光らせる、大きな白い四足獣が姿を現していた。
裏口からビルに入ったレジーは、ドアを解放して鼻歌を歌いながら非常階段を上がって行った。
キャンティを追った人型が追加の戦闘ユニットを呼ぶだろうという事は、レジーたちも予測していた。
新たな人型がドアから入って来たのを確認したレジーは、まるで羽が生えたかのように飛び、半階上の踊り場まで1歩で上がった。壁を蹴り、ひとっ飛びで上へ上へと進みながら、
「屋上行こうぜ屋上! ヒャッッホ──!」と叫んだ。
屋上で人型と対峙したレジーは、目をギラつかせ、口元に笑みを浮かべていた。人型を煽っているつもりはなく、単に早く闘いたいのが隠せなくなっていただけだった。
人型は両腕を鋭い刃のブレードに変化させ、レジーに向かって一気に距離を詰めた。
レジーも迎え打たず自分から距離を詰め、激しく衝突した。人型は容赦なくブレードを振り回し、レジーは両腕がまるで剣であるかのように、それを捌いた。
だがレジーの腕は切れる事がなく、人型のブレードが少しずつ変形し始めた。
2本のブレードが揃ってレジーの胸を目掛け、真っ直ぐ向かって来ると、レジーは胸の前でブレードを掴んで言った。
「やぁっと捕まえた。お前ら腕がなげーんだよ。俺がチビだから腕も短いってか? やんのか? ギャハハ」
レジーの両腕は、真っ赤な炎を纏っていた。
燃え盛る両手で握ったブレードは、ドロドロと溶けて形を失くしていった。
レジーは人型の腹に蹴りを入れて距離を取り、宙に舞うように高く飛んで、人型の肩の上に着地した。
両脚を絡めて首を絞めるように座り、頭部を両側から拳骨で挟んだ。
「♫アーイスみた〜い〜に〜溶けてしまう〜、ギャハハハハハ」
相変わらず目をギラつかせ、口元に笑みを浮かべていたレジーは、拳で人型の頭部をどんどん溶かし、人型は全身の動きを停止させた。
人型が倒れると同時に肩車からピョンと降りたレジーは、人型の胴体に何度も拳を振り下ろし、最後のひとかけらまで溶かし尽くした。
レジーは自分の後ろに姿を現していた、大きな炎の中の存在に話しかけた。
「なあ、ザッキー」
《……なんだ》
炎の中から返事が聞こえた。
「今度うちに新しい奴来たじゃん。あれさ、やべーの連れて来たよな」
《……確かに、『やべー』のだな……。ところでさっきの変な歌はなんだ》
「クソダサいアイドルの歌かなんかじゃね? 覚えてねー」
《やる気が失せるからやめろ。過去に式神を使っていた連中は真面目に祝詞を唱えてだな、後は……》
「はーいはい。わかったよ」
《真面目にやれ────!》
炎の中からグワっと存在感を出した赤い鳥は、二翼を大きく開き、怒りを表した。
そこに闘い終えたキャンティも屋上に上がって来た。ドロドロな人型の残骸を横目で見て、レジーに言った。
「帰ろうぜ。え、なに怒ってんの朱雀」
レジーはやれやれみたいなジェスチャーをしながら、
「さあ」と言った。
キャンティの後ろにフッと姿を現した、大きな白い四足獣に、レジーは話しかけた。
「なあ白虎お、うちの新人さ、やべーの連れて来たじゃん。仲間で平気?」
《……対峙してないからまだ何とも言えないが、あいつに付いているものが招かれざるものだとしたら、あいつはお前たちの所に呼ばれてないはずだ》と白虎は答えた。
「大丈夫じゃね? バカだけど」とキャンティが言った。




