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犬に論語、AIにカミゴト

 


 ニュース映像に流れる環境庁からの発表に、ボギーは目を丸くした。


『──熊が出現した形跡が見られたので、地域住民はなるべく山に近寄らないよう……』


「これってイズモの地域だよね。てか熊? 熊ってあの動物園にいる熊? 山にいるなんて北海道でも聞いた事ないよ? うっそお」

「うん、嘘」

 辨野(べんの)は平然と答えた。

「え?」

「あれはイズモになんか仕掛けるから、地域の人を寄せ付けないようにしてんの。あと暗号みたいなもんで、野良への警告。ちょっと様子見に行かなきゃならないかもな」

「何を仕掛けるの」

「さあ。何やっても無駄なんだが」

「重機ロボットで山を掘りまくるとか」

「それは昔やろうとしたらしい。無駄だけど」

「地震発生装置で地震起こすとか……」

「それもやろうとしたらしいな。昔から『ゼロ磁場』とか言われて、いろいろ機械が誤作動を起こしまくる場所ってのが、日本中あちこちにあるんだよ。コミュニティのはカミサンたちが結界を張ってくれてるからもあるけどな」

 ふーん、と聞いていたボギーがハッと何かを思いついて、怖々言った。

「か、核ミサイルとか……」

「コミュニティは無事なんだろうけど、周りの被害が大きいからやらないだろう」

「結界はロボ系にだけ効くんじゃないんだ」

「まあイズモは別格なんだが、ヤオヨロズの皆さんが許さないもの全てに効くの。……ありゃ、もしかしたらお前無理かも」

「何で?!」

「お前、悪魔持ちだからな……」

「マジか」




 制裁の日以降、世界政府は水面下で野良コミュニティの排除を強行しようとした。ところが攻撃が出来ずに、万策尽きた状態に(おちい)った。


 攻撃に向かった人型(ひとがた)AI戦闘ユニットは方向指示器から徐々に狂い始め、全機能が誤作動を起こし、どうしても近寄る事が出来ない。

 遠距離からの攻撃は途中で見えない“壁”に吸い込まれる。

 そうなると『人間』を送り込むしかなくなるが、そうすると野良の存在が明らかになってしまう。


 日本の中枢を人型ユニットにすり替え、国民に野良の存在を隠す事で、世界政府は逆に攻撃の手立てが無い状態になった。




「うーん……」

 ボギーは眉をひそめながら、ハンバーグを()ねていた。

 バトル以外の時はケルベロスと対話した事がなく、目を閉じて話し掛けてみても、やっぱり反応は無い。

「まあいっか、次に出て来た時に相談しよ」

 ボギーはキッチンから、リビングの辨野に話し掛けた。

「もしイズモに行くんならみんな行くんでしょ。俺、今回は留守番でもしょうがないよ」

「いや、イズモは場地(ばじ)だけで行ってもらう。あっちは大丈夫だろう」



 ハンバーグを焼きながらボギーは隣で皿の盛り付けをしているビリーに言った。

「そういや俺、ベンさんのバトル見たことないんだけど」

 ビリーは少し考えて、

「うーん……ベンさんの場合は……式神にもよるんだけど、今メインの方が都会に向かないというか、小回りがきかないというか……」

「トレーラーかなんか?」




 数日後、辨野のスマホの通知音が鳴った。辨野はチラッと横目で見て、

「やっぱり」とメッセージを開いた。

「ダイズから?」

「ああ。ナリタのコミュニティの周りで異変だと」

「イズモじゃないの?」




 野良コミュニティは『元』神社仏閣にあるものが多く、『足を踏み入れてはならない禁足地』と国民には長い間認識されていた。

 公図上は国有林となっており、航空写真には残された御堂などしか映らない。

 コミュニティにはコテージや施設も多少あるが、航空写真に映らないのは結界のおかげだと辨野は言う。


 


「おお、森だ」

 遠足以来見る事のなかった森に、助手席のボギーはちょっと目を輝かせた。

 路肩には停めた車が行列を成していた。辨野は少し離れた場所に車を停めて、怪訝(けげん)な顔をして言った。

「何だ、いつもと様子が違う」

「どう違うの?」

「殺気立ってない」

「むしろ和気あいあいよ?」



 森林を囲む()き出しの大地に、物々しい重機ロボット3機、偵察・救護用ヘリ2機がずらりと並んでいた。

 だが団体ツアーと見られる人たちが続々と集まり始め、活気に溢れた雰囲気で満たされていた。

 ボギーは車から降りて来た年配の男に話しかけた。

「すみませーん! これは何のイベント? 何しに行くの?」

「ああ、ここは国有林の中でも特別でね、手付かずの野生種が咲いてるらしいんだ。ビルで育てられてる花とは違うだろうから楽しみでね。大学の研究室と趣味の団体との共同イベントなんだよ」

「だって入っちゃヤバいんでしょ?」

「長年そう言われていたが、主催が役所だから大丈夫だろう。あの重機やヘリも安全策なんだろうが、この森は遭難する程ではないだろう。大袈裟(おおげさ)に思えるけどねえ」



 役所の職員とみられる作業着姿の男は、皆に向かって大声で挨拶をし、後ろに控えている男たちの紹介を始めた。

「こちらは、絶滅危惧種などの希少野生動植物の保護を主導する、環境庁の皆さん、そして農林水産省、林野庁の──」

 スーツ姿の男たち10数人が、皆の前でお辞儀をしていた。



「……スーツは全員、人型ユニットだね」

 遠目だがビリーはそう言った。

「自分らは誤作動で入れないから、人間を突撃させんのか」

 レジーは呆れ顔で言った。

「一般人をわざと巻き込むんだろ。俺たちが(かば)うのを見越して」

 キャンティも呆れ顔だった。

「コミュニティを見つけさせる、見つけたら全員消す、ってのを俺たちが阻止しに来る、のを待ってるって事? じゃあ目的はコミュニティの人たちより俺たち? ややこしいな〜も〜」

 ボギーは頭を抱えた。

「コミュニティの連中をエサにして俺たちを捕まえて、俺たちをエサにコミュニティの人間を引きずり出す、とかだろうよ」

「それも無理だろ。この数百年で学習しなかったのか、あいつら」


「──何で成功しないのかが『理解出来ない』んだろう。よし、降りるぞ」




 人間をコミュニティに送り込むとどうなるか──世界政府は『なりすまし』以前の日本政府の言い訳を、その場しのぎや逃げ口上(こうじょう)だと判断していた。




「まあ機械野郎たちは『神隠し』とか言われても、わかんねーだろうな」




 (にぎ)やかな団体は森に入り、石畳を歩き始めた。

 後に続くキャリア官僚たちは入り口で止まり、ツアーの団体を監視していたが、数百メートル離れた背後から何かが近づいて来た事を感知。


 全員で振り返り、辨野たちを『検知』した。

 


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