ジャッジされる日
世界政府が急速に変化したのは、出生率を上げるようAIに指示を出した頃からだった。
世界政府との連携により“家庭”が無くなった先進諸国は、こちらも急速に世界政府の推し進める方向へ変化していった。
日本では各地に教育都市が設置され、管理、包括的な教育行政を担う機関として、“教育庁”が設置された。
その頃はまだ、日本政府の“野良”への取り締まりが緩く、公然の秘密として扱われていた。
だがそれを世界政府が許すはずもなく、日本政府は制裁を余儀なくされた。
その制裁の日の数日前、世界政府との会議について、冷や汗をかきながら記者からの質問に答える、官房長官のニュース映像が日本中に流れた。
これを最後に、冷や汗をかくスポークスマンを見る事は二度となかった。
「何故まだ野良犬が存在しているのか、お聞きしたい」
世界政府の役人は、一切表情を変えず問いただした。
「はい……、えー、取り締まりに向かうのですが……彼らが潜伏してる場所というのが、いわゆる、その、禁足地という場所でして、足を踏み入れると何かと問題がある場所でして、その……」
「理解できない。国のトップのあなた方が手も足も出ないという事ですか?」
「はあ、弁解の余地もございませんが……ですが実際に……」
終始歯切れの悪い日本政府側に、世界政府の役人たちは淡々と畳みかけた。
「それでは、その禁足地とやらは我々にお任せいただけますか?」
「ご協力、感謝いたします……ですがくれぐれも、近隣住民の安全は確保していただきたく……」
「わかりました」
「交代いたしましょう」
翌日、都心部にある全ての屋外大型ビジョンに映っていたのは、記者会見室での総理大臣の姿だった。
20代の女の子たちが、映像を見上げながら会話していた。
「総理、なんか雰囲気変わってない?」
「そお? おじいさんだし、偉そうだし、なんか変わった?」
制裁の”なりすまし”は、速やかに行われた。
内閣は徐々に人型AI戦闘ユニットで構成されていった。100年後には内閣・省庁にいる“人間”はノンキャリアのみとなった。
人型ユニットは毎年、国家公務員総合職試験に合格した新人キャリア官僚として入省し、見た目を徐々に変化させ、違和感なく退職まで仕事をした。
反対に『人間』は総合職試験には合格出来ず、一般職試験のみ合格させ、ノンキャリアとして中央官庁に勤めることが出来た。
それから数世紀、国民もノンキャリアたちも、何の疑いもなく平穏で豊かな日常を送っていた。
「たまにはさ、上司たちと飲みに行ったら面白くね? あの人たち仕事以外でどんな会話すんのか知りたいじゃん」
「いやいや、疲れるだけだから! 私生活とか知らなくていいわ。つか毎年毎年新人キャリア組は面白くない奴ばっかりだな」
「プライベートは関わり合いたくないみたいね」
ノンキャリアたちがたまにこうして、陰で揶揄う程度だった。
野良コミュニティの排除以外に世界政府が行ったのは、国際登録をさせる事だった。だがそれは、全ての人間を管理する目的ではなかった。
世界政府は各国に対し、国際登録についての理論を唱えた。
『理想的な社会は理想的な国民でできている。
優れた人間の維持向上のためと、好ましくない資質をふるい分けるためでもある。
前述の理由で犬や猫に血統書というものがあるのなら、人間にもそのような証書を作るべきである。勿論、遺伝子という賭けのような、不確かなものは判断材料にはならない。
本人の資質や能力、若しくは知識や技能などの後天的に得た人的資本などで、選考されるものである』
ダイニングテーブルで餃子を包んでいるボギーは、手元をじっと見てくる双子に対し、
「え、何? 何? これ面白いの? だったら手伝ってよ」と言った。
「ぜってーやだ」
「じゃあレジーのやつは、ワンタン並みに中身少なめ」
「ざけんな」
ボギーが来て以来、皆でリビングにいる時間が多くなり、適当に済ませていた食事も以前より充実していた。これはボギーが気まぐれに作りたいものを勝手に作っているだけだが、全員分作るので必然的に皆で食事をする機会が増えていた。
「まあ、お前みたいなのが(俺の分まで)存分に暴れてくれたら助かるよ」と辨野がボギーに言った。
「暴れるだけなら得意」と餃子を包みながらドヤるボギーに、
「いや勝たないと」と冷静な場地。
「お前逃げ足は速いよな」
「言い方。俺、運動系に入れられたからさ。走るのとボールが飯より好きだったよ」
「運動系って何」
ボギーの言葉に疑問を投げるレジー。
「説明しよう! 小さい頃に選定試験を受けさせられてさ、それによって入れられる学校とか施設が違うの。総合的な学校がほとんどだけど、校舎とか宿舎で分けられてたり」
「そういえばお前、何の項目で国際登録してたんだ?」と辨野が聞いた。
「走るのと球技」
皆が『だろうね』という納得の顔をした。
「初バトルの逃げ足は早かったな。生身であれだもんな」と感心してる場地。
「国際登録って結局何なの。俺らカンケーねーけど」
キャンティの言葉に、辨野が答えた。
「何らかの優秀者を登録させて、エリートを集めましょって感じ」
「エリート! エリート? ギャハハハハ! この顔が?」とレジーは大爆笑。
「顔を責めるのはやめて」とボギーは半泣き。
「こいつみたいに、学生は結構持ってるんだよ。ただ社会人になると更新できなくて減っていくらしい」
「ふーん」
「社会人になってから頭角を現しても登録出来る。別に持ってなくても仕事に就けるけど、あるのと無いのじゃ違うらしい」
「空港のあの子もそう言ってたね」
「登録証持ってなくてもIDを盗られる可能性はある。けど持ってる奴の方が高く売れるから、狙われるなぁ。車だって安い車も売れなくはないけど、わざわざ盗むなら高い車にする、みたいなもんだろうな」
ボギーは“初めて知りました”みたいな顔をした。
「狙われるほどのモノだったんだ、へー。あ、そうそう、だから楽器って選定試験の時しか触ったことなくてさ、かっこいいなーって思ってたんだよね。音楽系の宿舎に友達いたからよく遊びに行ったけど、楽器触らせてくれねーし」
「まあ……、ギターの才能はないよお前」




