ダイズと愉快な仲間たち
雑居ビルの中にある一室、”ゲーム制作sho.GAMES”と表札があるドアを、辨野はノックもせずに開けた。
「お邪魔するよ」
そう言いながら、奥のドアもさっさと開けて入って行った。
エントランスには、“sho.GAMES gun shooting”と書いてある大きなポスター広告が貼っていた。
奥の部屋には、バーチャルキーボードを叩いている人物がいた。
「……何しに来たの。……来るってわかってたから、ロック開けてあげたんだけどさ……」
彼は手を止めてゴーグルを外しても、目線を合わせなかった。
「ほい、みやげ」
辨野はホイップとチョコシロップたっぷりな飲み物を手渡すと、彼はストローを咥えて一気に啜った。
背はレジーたちよりも小さいように見え、中肉、目が大きく童顔、椅子の上に膝を抱えて座っている姿を見て、ボギーはうっかり
「え? 子ども?」と言った。
辨野が笑いを堪えて
「言うと思った」と言った。
彼は目線を合わせないまま少しムッとして、
「僕は君より年上。何しに来たの? 別にここに来なくても用事は済ませられるでしょ?」
「相変わらず人見知り炸裂だな。ほら、命の恩人でもあるんだからさ、挨拶させたいじゃん」
辨野はボギーに
「こいつがダイズね」と言った。
「俺の命の恩人? そうなの?!」とボギーが驚くと、
「違う! イレギュラーを見つけるのは僕じゃなくてシステムだ。しかも君、なんか式神的なのを一緒に連れて来たんでしょ? 僕らがどうこうしてあげる前に、ブローカーを壊滅出来たんじゃないの?」と早口で捲し立てた。
「ごめん……説明して、ベンさん」
「さっきの話の続きよ」
「?」
「──得体の知れない、“神じゃない何か”を連れて来る奴がいるって、カミサンたちは気づいてたのよ。でもお前はたまたま詐欺に引っかかったから、情報部隊で見つけられたってわけ」
「俺がもし詐欺に遭ってなかったら?」
「俺たちとカミサンで、お前を見つける予定だったさ。守護悪魔がいる奴なんて野放しにするはずないでしょ。しかもうちの戦力だってわかってるんだから。だからお前は──楽器屋に選ばれた時点で選択肢が無かったの。悪いね、平穏な暮らしじゃなくて」
「詐欺に遭ったからベンさんとこに来れたんじゃなくて、関係無かったって事か。俺もさっきの子と同じで、犯罪に巻き込まれただけ?」
「まぁそういう事」
「もー、警察はどうなってんの? 犯罪者くらいさっさと捕まえてくんないと」
「……へえ、まともな事言う」とダイズが小声で言った。
「警察もIDの搾取は検知するんだよ。ただダイズ……こっちの方が早いってだけ」
「へえ……よくわかんないけど、すげー」
(こいつ、ダイズを『子どもみたいなのにすげー』とか思ってんな)
辨野はまた笑いを堪えていた。
ボギーは部屋をキョロキョロし、隣の部屋から物音が聞こえる事に気づいた。
「あっちの部屋に仲間がいんの?」
「ああ。今は何人か知らないが情報部隊ってぐらいだからな。飲み物くれたりお菓子くれたりもする」
「僕の仲間をそんな事に使わないでくれる?」ダイズが眉間にシワを寄せた。
すると隣の部屋からガタガタと物音がし、ドアがそっと開いて
「呼びました?」と言って顔を出した者がいた。
ドアから出て来たのは、ボギーも子どもの頃から教育都市で接していた、見た目でロボットだとわかる人型AIロボットだった。
ドアの隙間から、同じタイプの人型ロボットが数体、ボギーたちに向かって手を振っていた。
ドアから出て来た人型ロボットが辨野にロックオンし、喋り出した。
「ベンさん、お久しぶりです。お会いするのは962時間27分ぶりです。秒は省略」
人間と区別がつかない人型AI戦闘ユニットとは違う、見た目が明らかにロボットの外装の見慣れたタイプに、ボギーは顔がほころんだ。
人型ロボットは今度はボギーにロックオンし、
「こちらは初めましてですね。わたくし、ヤスと申します。以後お見知りおきを。体内チップを分析したところ、生体販売の闇ブローカーに売られていたので、ベンさんのマンションに行き先を書き換えた方ですね。ご無事で何よりです。レーズンバターサンド召し上がります?」と言った。
「お、食べる食べる。俺はボギー。よろしくヤッさん」
「これに合うお飲み物は……いくつかございますが……」
ヤスという名の人型ロボットが、胸の辺りのパネルに飲み物のメニューを表示したところで、
「ヤス! もてなさなくていいの!」とダイズがまた眉間にシワを寄せて言った。
「そうですか? それなら仕事に戻りますよ。それではベンさん、ボギーさん、また」
ヤスはペコリとお辞儀をして隣の部屋に戻って行った。
「ここの連中は、元々介護ロボットとか保育ロボットを改造したやつらだから、世話焼きなんだよな」と辨野が言った。
「へえ、優しくていいね」
ボギーがそう言うと、
「優しいよ。……人間なんかよりよっぽど」
ダイズが小声で呟いた。
「なんかいっぱいいて楽しそ」とボギーが独り言のように言うと、
「……今は10人目、『ハル』までいる」とダイズが言った。
普段のダイズは、他人の独り言なんかは無視して極力会話をしない。なのに自分から言葉を口にした事に辨野は少し驚き、ニヤけていた。
「ああ、そうだ名前……ヤス、ヒデ、ミツ、イエツナ、ツナヨシ……あとはわからん」辨野がそう言った。
「てか顔の区別がつかない」とボギー。
ダイズはほんの少しだけ、口元が緩んだ。
「僕以外の人は、わかるわけない……」
辨野たちが帰ってまもなく、時計を見たダイズは、
『納期が近いから、今日は1人で帰る』、そう打ち込んだ。するとドタドタと作業部屋から人型ロボットが出て来た。
「ゲーム制作は放っておいても余裕です。巡回ユニットもウロウロするんですから、ほんの数分でも外で1人は危険ですからねー、駄目でーす」
「わかってるよ……言ってみただけ」
「ダイズさんを1人にはしませんよー。さ、拠点に戻りましょ」
ダイズはスタスタと歩いて、隅に置いてある車椅子にピョンと飛び乗った。
タワーマンションのエントランスに、車椅子に乗る若き経営者と、その介護ロボットが入って来た。
コンシェルジュロボットは「お帰りなさいませ」と挨拶をし、エレベーターに乗り込んだダイズたちを見送った。
RPGなら、
『甘い飲み物を持っていかないとダイズはドアのロックを解錠しない』とかでしょうか。




