半々で混ざれば美味しい
「お前、バトルやってもぶっ倒れなくなったなあ」
キッチンでピザ生地を伸ばしているボギーに、飲み物を取りに来た場地が話しかけた。
「でしょ! すっげー腹減るし眠いけどさ、体が慣れてきたよ」
「担いで帰る担当が俺かベンさんだからな……楽になって良かったよ」
仕事が無い午後は、だいたいリビングで過ごす辨野とビリー。
暇さえあれば買い物に行ったり、トレーニングしたりと、落ち着きがない場地とボギー。
用が無ければずっと自室で過ごす、レジーとキャンティ、と行動が大体決まっていたが、何かしらの情報が来た時は、何時であろうとリビングで顔を合わせていた。
いつもの午後を一瞬でピリッとした空気に変える、スマホの通知音が鳴った。
「お、ダイズから連絡。保護確じゃないけど羽田に行け、だと」
リビングテーブルに置いてあるスマホを見て、辨野が言った。
「羽田ならダイズが一番近いじゃん。保護確じゃないならお前が行けって言えば?」と、部屋から出て来たキャンティが言うと、
「ダイズが知らない人間に話しかけられると思うか?」と辨野。
ボギーは、隣でバジルの葉を洗っているビリーに
「誰?」と聞いた。
「ダイズは情報部隊だよ」
自動運転の首都高・羽田線を走る車の中、助手席に座っていたボギーは、足元に何か光る物を見つけた。
手に取ると、以前レジーが付けていた大ぶりのピアスだった。
「ねー、レジーたちってこういうの好きなの、昔から?」
ボギーはピアスを目線の高さに上げ、太陽の光に当てて眺めていた。
「うーん、あいつらは『似合うから好きでやってる』って言うけどな……」
運転席の辨野は、暗い顔になった。
「──あいつらがうちに来た時、15才だったんだけどな……」
更に暗い顔になる辨野。
「どっからど〜〜見てもコドモなんだよ……。あの時はマジで焦ったよ……。子どもは目立つからな、すぐ通報される」
「あー、想像つく……」
ボギーの想像とは、リュックを背負ったまるで遠足に行くような2人のコドモだったが、あながち間違ってはいなかった。
「そしたらうちのカミサンの中に、特技が女装って方がいてな、その方のアドバイス。化粧して見た目を女の子にすると、あら不思議、15、6に見えない事もない」
「なるほど」
「その日本武尊、美少女になって油断させて、敵の首を落とした人だからさ。その話をアイツら、食い入るように聞いてたよ。ハハハ」
羽田空港の第2ターミナルに到着した辨野とボギーは、ガラス張りのエレベーターで展望デッキに上がった。
カップルも2組いたが、キャリーケースを持った若い女の子が1人、柵の向こうの旅客機を眺めながら、茫然自失としていた。
「あの、もしもし?」
辨野が話しかけると、彼女は恐怖で顔がこわばり、体が震えて動けなくなっていた。
ボギーは小声で、
「もしかして、国際登録証盗られた?」と話しかけた。
「何で…」彼女の顔は強張ったまま、少し目を見開き驚いた表情を見せた。
「俺もやられたから」ボギーは苦笑いをした。
辨野はすかさず早口で説明した。
「指定場所にすぐ行かなかったのが良かった。ブローカーに捕まる前に、すぐ警察に行って事情を話す。若しくは……」一度言葉が途切れたが、
「……いや、すぐ警察に行こう。やりたい事があってここまで来たんでしょ」と言った。
「私……はい、そうです。拾ったから取りに来てって連絡が来て、でも窃盗団の話も聞いた事あるし、あれが無かったら仕事させてもらえないんじゃないかとか……どうしていいかわかんなくて、動けなくなって……」
「登録証盗っただけじゃ、あっちも何も出来ないから」
彼女から、少しの安堵の表情が垣間見えた。
「……あなた方は、私服警官じゃないの?」
「まあ、通りすがりの者って事で。追っ手が来る前に早く行こうか。お前はコーヒー買っといて」
辨野は彼女をターミナル内の交番の近くまで護衛するように連れて行き、1人で入るよう指示した。
「ホットと……アイスラテ、あと──」
空港内に並ぶフードショップのカフェのカウンターで注文すると、店員が手際よく飲み物を作り出した。
氷に注がれるエスプレッソ、エスプレッソに注がれるミルクが、混ざり始めた。
何で誘わなかったんだろう、と疑問がボギーの頭の中でぐるぐる巡っていた。
「ねー、ベンさん。何で野良に入れなかったの?」
ボギーは運転席の辨野に聞いた。
「彼女は登録証盗られただけで、野良を望んでなさそうだからな」
「何でわかるの? てか俺はいいの?!」
「お前は選択肢が無かったのよ」
「ドユコト?」
「今の子は……野良じゃない方がいいだろうってカミサンに言われたの。お前はその逆」
「未来を……カミサンに決められたって事?」
ボギーの言葉に、辨野はハハハと笑い、
「本人がどんな未来を望んでいるかとか、2択ならどっちを選んでしまうかとか……どっちを選んだら幸せな方に進むかとか、カミサンたちはお見通しなんだよ」と言った。
「そっか」
ボギーはふと何かを思い出したかのように、
「あのさ、ベンさんは日本中……全員が野良になって欲しい?」と聞いた。
「いや、俺は半々ぐらいがいいなぁって思ってるよ。その方が、どっちの子どもも肩身が狭い思いをしなくて済むからな」
「そだね。どっちも当たり前にいっぱいいたらいいよね」
ボギーはカフェラテを飲み干した。
「親とか社会とか関係なく、子どもには安心して過ごしてもらいたいのよ」
空港から程近い目的の街には、すぐ到着した。
パーキングに車を停め、辨野たちは駅裏の雑然とした呑兵衛横丁に入って行った。
ボギーはワクワクが隠せない様子で、
「こういうとこってドキドキするよね。ゲームでよく見る街っぽい」と言った。
「昔の町を再現して、わざとごちゃごちゃに作ってるからな。確かにゲーム感あるよな」
辨野たちは、呑兵衛横丁を通り抜け、雑居ビルに入った。
第1話の冒頭を変更。最終目標(?)を掲げてみました。RPGにならって。




