物語
夢で読まされる、ひとつの「物語」。
最後のページまで読み終えたとき、あなたはまだこちら側にいるだろうか。
私は昨夜、いつもより深い眠りに落ちた。
そして、奇妙な夢をみた。
目を開けると、私は古い洋館の大広間に座っていた。
月明かりだけが高い窓から差し込み、長いテーブルの上で蝋燭が揺れている。
席には十数冊の古びた本が積まれ、私を含む七人が丸く腰かけているのが見える。
誰も口を利かず、ただ互いの顔を探るように視線を動かしながら。
彼らの顔は粉をはたいたように蒼白で、皮膚の下に血が通っているとは思えない。
まるで冷たい蝋の仮面をかぶっているかのようだった。
中央に立つ黒衣の司会者が無音の合図を送り、各自に一冊ずつ本が回された。
重い表紙を開くと、自分の名前の下に「あなたが死に至る順序と方法」とだけ書かれていた。
ページをめくる指先が震え、蝋燭の炎まで連動するかのように小刻みに揺れる。
読み進めるたび、心臓が内側から扉を叩くように暴れ、耳鳴りが押し寄せてくる。
最初の男が朗読を終えて本を閉じた瞬間、椅子が軋む音とともに姿が霧に溶けるように見えなくなった。
すると突然、冷たい風が流れ込み、一本の蝋燭の火が男と同じように消えた。
二人目、三人目と、読み終えるたびに同じ出来事が繰り返され、テーブルを囲む人数と蝋燭の火が減っていった。
広間の明るさは、もはや文字を読むのが難しいまでに暗くなっている。
逃げ出そうとしても、足は床に縫い付けられたかのように動かなかった。
喉の奥で凍り付いているかのように、声も出せない。
やがて私の番が来た。
目を細めて最後のページを凝視する。
どうやら、私の死の日時と具体的な痛みの描写が細かく綴られているようだ。
脳が内容を理解するより先に、私はページを勢いよく破り、それを蝋燭の炎に押し当てた。
紙が赤黒い火花を散らしながら、灰になって床に落ちていく。
その瞬間、洋館全体が深い息を吐くように暗転し、私の意識もふたたび奈落に滑り落ちていった。
目覚めると、自室の布団の中で背中まで汗が染み込み、心臓の鼓動が激しく耳を打っていた。
横目で時計を見ると、午前三時十三分。
窓の外では街灯が濁った橙の光を放っている。
夢の中で破った紙の焦げる匂いが鼻腔に残っているようで、なんだか落ち着かない。
私はベッドから起き上がり、机の上の読書灯を点けた。
ふと、昨夜まで白紙だったノートの最後のページに煤で書いたような文字が浮かんでいるのに気づく。
〈十三日後、再読〉
私は指先に微かな熱を感じながら、時計の秒針が音を刻むのをただ見つめていた。