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100円

その古ぼけた雑貨屋を、彼がいつから認識するようになったのか、今となっては定かではない。


高校生の彼が、通学路として使い古したはずの商店街の脇道。

埃っぽいアーケードを抜けた先、いつもはシャッターが閉まっているか、あるいは何もなかったはずの場所に、その店は唐突に存在していた。


『骨董品 兼 雑貨』


掠れた文字で書かれた看板は、傾いているというより、今にも落ちそうだった。

彼の足を止めたのは、その異様なショーウィンドウだった。


そこには、およそ商品と呼ぶにはちぐはぐな品々が、何の脈絡もなく並べられていた。

しかし、彼の目を釘付けにしたのは、その異常な安さと、それ以上に不気味な付属品だった。


ウィンドウの左端には、明らかに高級ブランドものと分かる、しかし片方しかないスニーカーが置かれていた。

それだけならまだいい。

問題は、そのスニーカーにまるで履かせたまま切断したかのように、生々しい肌の質感を持つマネキンの足首が突き刺さっていたことだ。


中央には、重厚なクロノグラフの腕時計。

これもまた、手首から先だけの、やけにリアルな造形のマネキンの腕ごと、ビロードの布の上に鎮座している。


極めつけは、最新型らしきノートパソコン。

なぜか電源が入っており、画面には動画編集ソフトのようなものが開かれている。

タイムラインには細かくクリップが並べられ、明らかに作業の途中だった。

まるで、ほんの一瞬前まで誰かがそこで作業していたかのように。


そして、それら全てに、小さな値札が付けられていた。


『どれでも 100円』


馬鹿げている、と彼は思った。

スニーカーも時計も、本物なら数万円は下らないだろう。

パソコンに至っては、その何倍もするはずだ。


「100円……」


彼は呟いた。

しかし、彼の興味はすでに、商品の異常な安さから、この店そのものの異様さへと移っていた。

店の中はどうなっている?

他にどんな商品が売られている?


だが、彼は一歩も踏み出せなかった。


店全体から放たれる、淀んだ空気が彼を押しとどめる。

自動ドアらしき入り口は、内側から無数のチラシが貼られ、中の様子をうかがい知ることはできない。


何より不可解なのは、彼以外、誰もこの店に注意を払っていないことだった。


客を見たことがないのは当然として、まばらに通り過ぎる人々は皆、その店の存在に気づいていないかのように無表情で通り過ぎていく。

まるで、彼にしか見えていない幽霊屋敷のようだった。


それから数日、彼はまるで何かに取り憑かれたかのように、毎日その店の前を通った。

ウィンドウの商品は、毎日少しずつ入れ替わっていた。

ある日は、半分だけ編まれたマフラーと、それに突き刺さったままの指。

またある日は、書きかけの譜面が置かれたバイオリン。

すべてが生々しいパーツ付きで、そしてすべてが100円だった。


好奇心は、いつしか抗いがたい渇望に変わっていた。

そして恐怖は、その渇望の前に麻痺し始めていた。


(中に入らなければ)


なぜそう思ったのか、彼自身にも分からなかった。

ただ、このままではいけないという、奇妙な焦燥感だけがあった。


そして、雨がそぼ降るある日の放課後。

彼は、ついに決意した。傘を握りしめる手に汗が滲む。


彼は大きく息を吸い込むと、錆びた自動ドアの前に立った。

手を伸ばす必要はなかった。

彼が踏み込もうとした瞬間、まるで待ち構えていたかのように、ドアが重々しく横にスライドした。


中はカビと埃の匂いが入り混じった、生温かい闇に満ちていた。

彼が、その闇に一歩足を踏み入れた、次の瞬間――。


視界が一瞬で固定された。


彼は、自分がショーウィンドウに並べられていることに気づいた。

ガラス越しに、先ほどまで自分がいた、雨に濡れた歩道が見える。


動こうとしても、指一本動かせない。

声を出そうとしても、唇は固く閉じられたまま。


彼の視界は、硬い表紙の縁から覗く、外の世界だった。

彼は、高校生という短い人生に相応しい、驚くほど薄っぺらい一冊の本になっていた。


流行りのカバーも、惹句が書かれた帯もついていない。

著者の名前も、出版社も書かれていない。


ただ『芦田善明という男』と書かれた表紙の右上に、赤く縁取られた白いシールが雑に張り付けてあった。

あなたの価値は、いくらでしょう。

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