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最優秀賞

小包はずしりと重かった。

差出人の欄は空白で、ただ黒いインク染みのようなものが押されているだけだ。

カッターナイフで無骨な梱包を解くと、中から桐箱が出てきた。


警戒しながら、蓋を開ける。


目に飛び込んできたのは、鈍く光る黒曜石のようなトロフィーだった。

人間とも獣ともつかない、抽象的な曲線だけで構成された像だ。

そして、一枚の賞状。


『最優秀賞 石田 誠司 殿』


筆で書かれたような、しかしどこか無機質な書体。


「……何の?」


俺は呟いた。

何かに応募した記憶は、欠片もなかった。


「あら、届いたのね」


リビングから顔を出した妻が、こともなげに言った。


「何の賞なんだ、これ」

「え? 自分で何かのコンテストに応募したんじゃないの。 でも、最優秀賞ですって。よかったじゃない」


妻はトロフィーを手に取り、眩しそうに眺めている。

その滑らかな表面に、妻の無感動な顔が歪んで映った。


翌朝、異変に気づいた。

リビングの壁紙が、昨日までの安っぽいベージュから、継ぎ目のない冷たい質感の灰色に変わっていた。


「壁紙、変えたのか?」

「副賞だって、昨日業者の人が来たじゃない。覚えてないの?」


妻は不思議そうに首を傾げ、灰色の壁を満足げに撫でている。


「上質でいいわね」


もちろん、俺は業者など呼んでいない。


その次の日、庭の雑草がすべて、寸分違わぬ形の精巧なプラスチックの造花に置き換わっていた。

乾いた土は灰色のスポンジのようだった。


「手入れが楽になって助かるわ」


と妻は言った。


「おかしいだろ、どう考えても!」


俺が声を荒らげても、妻は困ったように微笑むだけだ。


「何が不満なの? だって、最優秀賞よ」


だから、何のだよ。

そう思いながら、鏡で自分の顔を見て理解した。


いや、理解することを放棄した。


鏡の中の俺の、右目。

そこにあるべき白い球体は消え失せ、代わりに、あのトロフィーと寸分違わぬ、光を吸い込むような黒曜石が嵌まっていた。

痛みも、違和感もない。

ただ、右目で見える世界からは一切の色が失われていた。


「ああ、素敵よ、あなた」


背後から妻が、うっとりとしたため息をついた。


「完璧だわ。さすがは、最優秀賞ね」


俺は、もはや涙の流し方も忘れた黒い瞳で、灰色の妻を見つめ返した。

おめでとうございます。

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