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思い出

ウェブデザイナーの向井 咲良は、30歳を目前にようやく重い腰を上げて部屋の断捨離を始めていた。

小一時間ほど段ボールの山と格闘したあと、クローゼットの奥から出てきたのは、埃をかぶった一冊のスケッチブック。

表紙には、乱雑なクレヨンで『ひみつのえ』と書かれていた。


それは、小学生の頃に幼馴染のユキと交換日記のように使っていたものだった。

ページをめくると、太陽、虹、そして自分たちの自画像が乱雑に、しかし一生懸命に描かれている。

クレヨンのインクは分厚く、光沢を帯びていて、描かれたモチーフはすべて曖昧で無邪気な筆致に見えた。

懐かしさに浸りながら、咲良はベッドに座り込んでしばらくの間、絵に見入った。


やがて、ある一枚の絵に目が留まる。


それは、彼女が今住んでいるワンルームの間取りに酷似していた。

窓の位置、クローゼットの配置も同じだが、一つだけ決定的に違う点があった。

クローゼットの横のごくわずかな壁のスペースに、小さな赤いクレヨンで描かれた扉があったのだ。


「えぇ~、こわっ! 偶然かなあ、うちにそっくりだ」


おおげさに呟いてから絵を閉じ、ふと視線を上げた瞬間に咲良は息を飲んだ。

スケッチブックと全く同じ位置、クローゼットの横の白い壁にうっすらとだが、赤いクレヨンで擦ったような水平の線が残っていた。

近づいて手を触れると、微かに古いクレヨンの油っぽい匂いがした。

子供が悪戯したのだろうと自分に言い聞かせたが、その夜は妙に寝付けなかった。


翌朝から異変は加速した。


咲良は朝食のためにキッチンに向かおうとして、違和感を覚えた。

フローリングの木目が違う。

絵の具を溶かしたように色ムラがあり、一部がクレヨンの強い圧で描かれたように波打って見える。

床が平面ではなく、ざらついた画用紙のテクスチャに変わっているかのようだった。


目が疲れているだけだ、と彼女は強く瞬きをした。

だが、明かりをつけたとき恐怖は決定的なものになった。


部屋の隅にできた影があまりにも濃すぎる。

輪郭がギザギザと不自然に強調され、まるで子供が影の部分だけを黒いクレヨンで力いっぱい塗りつぶしたかのように、光を完全に吸収していた。

その濃い影の奥に、昨日の赤い擦り傷が見えた。

小さな赤い扉は、影の濃さによってますます実在感を増している。


咲良は震える手でスケッチブックを再び開いた。

ユキが描いてくれた自分の自画像。

昨日はただ笑っているだけの絵だったはずなのに、今は顔全体が不安なほど青いクレヨンで塗りつぶされ、口元は笑っているのに目からは太く青い線が溢れ出ていた。

笑いと悲しみが同時に描かれたその不気味な表情が、クレヨンの匂いと共に鼻腔を突き刺した。


もう我慢できなかった。

これがユキのイタズラなのか、あるいはただの古い紙とインクの呪いなのかは分からないが、この本がすべての原因だと。

咲良はそう確信してスケッチブックを掴み、ベランダに出てライターを取り出した。


そっと炎を近づける。

紙の端が燃え上がり、煤が舞った――その直後、クレヨン特有の分厚いインク層が炎から逃れるように剥がれ落ちた。


青、赤、黄色。

極彩色に溶け出したクレヨンは、まるで生き物のように空中を滑って咲良の手から逃げていった。

インクは次々と部屋の壁、天井、家具に激突していく。


咲良の視界は歪んだ。

壁がピンクと紫の混色で染まり、天井は水色で塗り込められた。

濃い影はさらに濃く、部屋の家具はすべてクレヨンの線で輪郭を縁取られ実体が失われていく。


家全体が、純粋でいて乱暴な、子供の願望で塗りつぶされてしまった。


咲良は呆然としながら、歪んだ部屋の隅で反射する鏡を見た。

鏡の中の自分の顔は、もはや大人である自分の顔ではなかった。


頬は青いクレヨンの線で濡れ、口角は無理やり吊り上げられて笑っている。

だが、両の目からは太い青い涙の線が流れていた。


楽しいのに怒っていて、哀しんでいる。

あの絵のとおりに不気味な表情で。

思い出はいつも色鮮やかで。

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